日本に多い尾曲がり猫
日本の猫をベースに作出されたジャパニーズ・ボブテイルの特徴は、短いしっぽです。
途中で切れてしまったように見える「短尾」や、先端が折れ曲がった「曲がりしっぽ」、カールしたポンポンのような「団子しっぽ」の3種類に分けられます。
この様な短いしっぽを持つ猫達は、尾曲がり猫と呼ばれています。
特に「曲がりしっぽ」は、カギのような形状から幸せを引っ掛けてくる縁起の良い猫だといわれたりもしています。
インドからヨーロッパ大陸にかけてやアメリカ大陸には、尾曲がり猫はほとんど見られません。
ところが、かつて日本には尾曲がり猫がよく見られました。
1975年から数十年にわたり行われた京都大学の故・野澤謙氏の調査では、全国平均で約40%の猫が尾曲がり猫だったということです。
実は日本にも、室町時代以前には尾曲がり猫がいた形跡がありません。
江戸時代に入り、突然浮世絵で尾曲がり猫がたくさん描かれるようになったことから、江戸時代になってから、日本に尾曲がり猫が入ってきたのではないかと考えられています。
尾曲がり猫の多い地域
先にご紹介した故・野澤謙氏の調査によると、日本国内でも、尾曲がり猫の特に多い地域があることが分かったといいます。
最も尾曲がり猫の多かった地域は、長崎県の79.0%でした。次いで鹿児島県の73.9%、宮崎県の62.7%、熊本県の62.5%と続きます。
長崎県には、その後長崎尾曲がりネコ学会(現長崎ネコ学会)という団体ができ、長崎県内の尾曲がり猫の調査や尾曲がり猫を中心とした町おこしを行っています。
この団体が2009年に行った調査でも、長崎県内の猫の内、74.7%という高い率で尾曲がり猫が存在していたそうです。
また、長崎県では古くから尾曲がり猫がたくさんいるため、地元の方の中には、しっぽが真っ直ぐな猫は珍しい海外の猫だと思っている方もおられるようです。
日本に尾曲がり猫が増えた理由
猫の遺伝研究は進められているものの、まだわからない部分も多く残っています。
その中でも、尾曲がり猫に関しては2つの遺伝子が関係していることが分かっています。
1つは「T-Box」遺伝子の変異で、これはマンクスという猫種に特有の遺伝子変異です。
もう1つが「HES7」遺伝子の変異です。長崎の尾曲がり猫は、「HES7」の遺伝子変異をもっていることが分かっています。
実は、「HES7」の遺伝子変異による尾曲がり猫の原産地はインドネシアやマレーシア周辺などの、東南アジアや中国南部の地域だということが分かりました。
実際にインドネシアやタイでは、地域によっては60%以上が尾曲がり猫だという報告もあるようです。
そして、このインドネシアと長崎県には、江戸時代に深いつながりがあったのです。
日本の猫の歴史
江戸時代と言えば日本は鎖国をしており、諸外国との関係は封鎖されていました。
しかし、それにも例外があったのです。長崎県の出島を拠点とし、オランダとの貿易が盛んに行われていたのです。
このオランダとの貿易を担っていた東インド会社のアジア支店がインドネシアにあったのです。
当時は、船の積荷をかじるネズミの駆除のために、船に猫を乗せる習慣がありました。
中継地だったインドネシアを出向した船に乗った尾曲がり猫が出島に上陸して長崎県に定着し、さらに日本全国に広まっていったのだろうというのが、現在の定説になっています。
さらに、江戸時代には「猫又」伝説がありました。
年老いた猫は、しっぽが2つに分かれて「猫又」という妖怪になるというものです。
この猫又をおそれた江戸の人々は、短いしっぽの尾曲がり猫を好んで積極的に繁殖をした結果、日本には尾曲がり猫が多くなったという説もあります。
洋猫ブームの影響
しかしその後、日本には「洋猫ブーム」が巻き起こります。シャム猫やペルシャ猫がもてはやされたのです。
その後も、アメリカンショートヘアがブームになるなど、数多くの洋猫が日本に持ち込まれました。
そして当時の慣習に倣って放し飼いされることが多かったため、現在日本にいる猫にはかなり洋猫の血統が混ざり込み、長崎県などの特殊な地域を除くと尾曲がり猫はかつてよりも減少してきているのが実情のようです。
長崎県では、前述の長崎ネコ学会や自治体が協力して、尾曲がり猫を中心に町おこしに成功しているようです。
街を歩くと出会う猫のほとんどが尾曲がり猫、という旅も楽しいかもしれませんね。
まとめ
日本猫(和猫)の特徴だといわれている尾曲がりですが、実は江戸時代から日本に入ってきたということが分かりました。
そして現在では洋猫との混血が進み、尾曲がり猫の数が減りつつあるといわれています。
そんな中でも、長崎県では数多く残っている尾曲がり猫を町おこしに上手に活用して、猫と人とが上手に共生しているようです。
もしも街で尾曲がり猫に出会ったら、猫たちが日本にやってきた歴史を思い出してみるのも、楽しいかもしれません。
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