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ゲームの必殺技みたいな壮大な自然現象「逆さまの雷ブルージェット」


1990年のNASAのスペースシャトルから撮影された映像に映る「ブルージェット」は、地球上の雷とは異なる逆向きに放出される希少な現象です。この現象は国際宇宙ステーションからの観測により、通常の雷とは異なるプロセスで成層圏に放電されることがわかっています。デンマーク工科大学の研究チームは、このブルージェットの発生には雲内部で発生する青い閃光「ブルーバン」が重要な役割を果たしていると報告しました。ブルージェットは、雲の正電荷領域と成層圏の負電荷領域を電流が流れる際に発生します。ブルーバンは雲の内部で特定の条件が揃ったときに生じる強力な放電で、これがブルージェットを引き起こすことが確認されました。

1990年、NASAのスペースシャトルから撮影された映像には、雲から上空に放出される青いロケット噴射のような現象が映っていました。


後に「ブルージェット」と呼ばれるようになったこの現象は、未だ完全には理解されていません


どういった理由で宇宙へ向かう雷が起きるのでしょうか? その発生源はなんなのでしょうか?


今回はデンマーク工科大学国立宇宙研究所に所属するトリステン・ノイバート氏ら研究チームが、2021年1月20日に科学誌『Nature』に発表した、ブルージェット発生源関する研究を軸に解説していきます。




目次



  • 国際宇宙ステーションから「ブルージェット」を分析する
  • ブルージェットは青い閃光「ブルーバン」によって発生していた

国際宇宙ステーションから「ブルージェット」を分析する


5つのブルーバンとブルージェット
5つのブルーバンとブルージェット / Credit: DTU Space, Mount Visual / Daniel Schmelling

ブルージェットは雷雲から成層圏に向けて放たれる、通常とは逆向きの非常に希少な雷です。


こうした超高層電放電は、高度20~100kmで起こる気象現象で、地球上からの観測は困難な上、発生自体も稀なため研究が難しい現象の1つです。


この研究では、ISS (国際宇宙ステーション)に搭載されたASIM (Atmosphere-Space Interactions Monitor)と呼ばれる装置を利用し、そんなブルージェットの初期過程を深く分析しました。


そして2019年2月26日、太平洋のナウル島付近にて、雷雲頂上から伸びるブルージェットを観測。


ブルージェットは上の映像にあるように、青い閃光のように、強烈な放電が上に向かって発生しています。


発生後は0.4秒続いており、高度50~55kmに到達したという。


通常の雷は地面に向かい、アース(接地)されることで電気が逃げます。では空に向かって放たれるブルージェットの場合、電気はどこへ流れ込んでいるのでしょうか?


この放電では、成層圏や中間圏、さらにその上層に存在する電離層へ電流が流れ込み、空気分子やイオンとの相互作用を通じて徐々に拡散・消失すると考えられています。


特にこの映像では、白いリング状の光が広がっているのがわかります。


これはエルヴス (Elves) と呼ばれる現象で、雷が発生した際に生じる強力な電磁パルス(EMP:Electromagnetic Pulse)が高層の電離層(高度約80〜100km)と相互作用することで発生します。


そこに存在する窒素分子がブルージェットの電磁パルスによって励起され、これが元の状態に戻る際に、リング状の光として発光するのです。


この発光は1ミリ秒未満で消滅するため、通常の観測では捉えにくい現象です。


こうした非常に珍しいブルージェットという現象ですが、どういうきっかけでこの稀な現象が起きるのかはよくわかっていません。


そこでこの研究が着目したのは、この映像の最初に確認できるいくつも雲の中に確認できる発光現象でした。


ブルージェットは青い閃光「ブルーバン」によって発生していた


一般的な雷は雲と地面の間で生じます。


落雷パターンと電荷領域図
落雷パターンと電荷領域図 / Credit:音羽電気工業株式会社

雲の上部が正電荷領域、下部は負電荷領域となっており、正電荷領域である地面と繋がるように雷が走るのです。


しかしブルージェットは、雲の頂上(正電荷領域)と上空の負電荷領域の間で生じる雷です。


ちなみにこの範囲で生じる雷は成層圏にある窒素をイオン化させるため、青色になります。


そして研究チームによると、ブルージェットの発生源は映像の最初にある青い閃光「ブルーバン」にあるのではないかと考えています。



ブルーバン (Blue Bang) とは、雷雲内で発生する短距離放電によって生じる強力な青色の閃光のことです。この放電は、雲の内部の異なる電荷領域が異常に接近することで発生します。


通常の稲妻は、雲の内部や、雲と地面の間の1km以上離れた放電によって形成されます。


しかし、雲の中が乱流によって激しく混ざり合うと、正負の領域が1km以内に近づき、短時間かつ非常に強力な電流バーストが発生します。


これがブルーバンと呼ばれる現象で、雲の頂上付近で電場の急激な変化が生じたとき、これがブルージェットの放電を促すと考えられるのです。


ISSの観測でも、5つ目のブルーバンがブルージェットの発生を引き起こしたと報告されています。


つまり、ブルーバンは単なる前兆ではなく、ブルージェットの発生メカニズムにおいて重要な役割を果たす現象なのです。


ブルージェット発生前のブルーバン
ブルージェット発生前のブルーバン / Credit: DTU Space, Mount Visual / Daniel Schmelling

この観測の結果、ブルージェットは雷雲内で特定の条件が揃ったときにブルーバンが発生し、その結果として上向きの放電が引き起こされることが明らかになりました。


これは、地球の気象現象だけでなく、宇宙空間や他の惑星の大気で起きる現象にも応用できる可能性があります。


まるでゲームの演出のような美しい気象現象、その謎も少しずつ明らかになっているようです。


全ての画像を見る

参考文献

Genesis of blue lightning into the stratosphere detected from the International Space Station
https://www.esa.int/Science_Exploration/Human_and_Robotic_Exploration/Genesis_of_blue_lightning_into_the_stratosphere_detected_from_the_International_Space_Station

元論文

Observation of the onset of a blue jet into the stratosphere
https://www.nature.com/articles/s41586-020-03122-6

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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