アメリカでは、風力発電の風車がコウモリの大きな死因の一つになっています。
しかし、風車のせいで命を落とすコウモリがどれほどいるのかは、これまではっきりしていませんでした。
調査は風力発電所ごとにばらばらに行われ、国全体の数を出すようには作られていなかったからです。
では、この40年あまりで、アメリカの風車はどれほどのコウモリの命を奪ってきたのでしょうか。
研究チームは、各地に積み上がってきた調査報告をまとめ直し、その答えを推定しました。
研究の詳細は、2026年10月26日付で学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。
ばらばらだった499件の報告をつなぎ合わせる

風力発電所では、建てたあとにコウモリの死亡を調べる調査が行われてきました。
ただ、その調べ方は発電所ごとにそろっていませんでした。
そこで研究チームは、こうした報告を499件集め、これまでで最も大がかりな分析に取り組みました。
使ったのは、たくさんの発電所の情報を持ち寄り、足りない所を互いに補い合う統計の手法です。
これにより、調査が行われていない場所や年についても、死んだコウモリの数を予測できるようになります。
対象としたのは、アメリカ本土にすむ10種のコウモリです。
期間は1981年から2024年までで、過去にさかのぼって積み重なった犠牲を見積もりました。
あわせて、風車の大きさや川からの距離といった条件が、死亡の多さとどう関わるかも調べています。
こうして、種ごとにどこで犠牲が出やすいかを、地図の上に描き出せる仕組みができあがりました。
調べた10種のうち、たった1種で犠牲の何割を占めた?

結論から言うと、この期間に風車で命を落としたコウモリは、推定で約1870万匹にのぼりました。
推定には幅があり、95%の確からしさで見込まれる範囲(95%信用区間)は約1330万〜約2570万匹です。
種ごとに見た犠牲の数は、これまでの見積もりよりもかなり多いという結果です。
2021年以降は、1年で150万匹を超えると予測されました。
これは、1日あたりに直すと4000匹を超える計算です。
では、どんなコウモリが多く犠牲になっているのでしょうか。
最も多かったのはhoary batで、約670万匹と推定されました。
全体の3分の1以上を、この1種だけで占めていることになります。
2番目はアカコウモリの仲間(英名 eastern red bat)で、約580万匹でした。

3番目のsilver-haired batが約340万匹、4番目のbig brown batが約150万匹と続きます。
この上位4種を合わせると、犠牲全体の9割以上になります。
残る6種は、2024年時点で1年あたり約100〜5万5000匹と、ずっと少ない数でした。
風車1基ごとに見ると、平均的な風車ではhoary batが毎年約5.8匹死んでいる計算です。
次いでアカコウモリの仲間が約5.0匹、silver-haired batが約3.5匹でした。
一方、上位4種以外は1基あたり年0.25匹に届かず、4基を1年見ても1匹に満たない計算です。
つまり、風車による犠牲の大半は、一部の種に集中しているのです。
川のそばの風車ほど危ない、羽根が大きいと危ない種も

では、どんな風車で多くのコウモリが死んでいるのでしょうか。
手がかりの一つは、羽根が回って描く円の面積(回転面積)です。
5種のコウモリでは、この回転面積が大きい風車ほど死亡が増えていました。
また一部の種では、羽根の下の端が地面に近い風車ほど、死亡が多い関係も見られました。
気になるのは、風車が年を追うごとに大きくなってきたことです。
2020年以降に建てられた風車の多くは、回転面積が1万〜2万平方メートルあります。
円の直径に直すと、およそ110〜160メートルです。
さらに、古い風車に大きな羽根を付け替えると、羽根の下端が地面に近づく場合もあります。
研究チームは、こうした流れがコウモリの死亡リスクを高めうると指摘しています。
建てる場所も重要で、調べた10種すべてで、川に近い風車ほど死亡が多くなっていました。

ただし、犠牲が多くなりやすい地域は種によって大きく異なっていました。
最も犠牲の多いhoary batは場所による差が小さい一方、silver-haired batやインディアナホオヒゲコウモリなどには、犠牲が極端に出やすいと見込まれる場所がありました。
また、hoary batなど一部の種では、動き始めてからの年数が長い発電所ほど、死亡が少ない傾向も見られました。
ほかの要因が混ざっている可能性はあるものの、研究チームは、その土地のコウモリが減ったか、コウモリが風車を避けるようになったのかもしれないとしています。

一方で、ひとつ意外な結果も出ています。
風車には、回り始める風速を高めにして、弱い風のときは止めておく対策があります。
hoary batなど3種では、この風速が高い発電所ほど死亡が少なく、対策のねらいにある程度沿う傾向が見られました。
ところが、絶滅危惧種のインディアナホオヒゲコウモリだけは、この風速が高い発電所ほど死亡が多かったのです。

この種は絶滅が心配されるため、長く規制の対象になってきました。
そのため、この種がいる発電所や死亡が見つかった発電所ほど、先に風速を高める対策を取った可能性があります。
研究チームは、これが見かけ上の逆転を生んだのかもしれないと考えています。
また、使えたデータは時間の区切りが粗く、風速や対策の効果をくわしく調べるには限界がありました。
推定そのものにも不確かさが残ると、研究チームは認めています。
それでも、風車による犠牲は、北米のコウモリにとってもう一つの大きな脅威である「白鼻症候群」による損失全体に並ぶ規模かもしれません。

2つの脅威は主に別々の種を襲っているため、影響が積み重なっているおそれもあります。
研究チームは、風車の設計や建てる場所を工夫すれば、犠牲を減らせる余地があるとしています。
平均的な風車1基の陰で、hoary batだけでも毎年6匹近くが命を落としている計算なのです。
写真で見る、風車や病気に脅かされるコウモリ







参考文献
The scope and severity of bat fatalities at US wind energy facilities (Proceedings of the National Academy of Sciences)
https://doi.org/10.1073/pnas.2612674123
元論文
The scope and severity of bat fatalities at US wind energy facilities
https://doi.org/10.1073/pnas.2612674123
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
