夜空の月は、何億年たっても同じ姿のまま、そこに浮かんでいるように見えます。
しかし実際の月は、全体がわずかに縮んできたと考えられています。
その跡は、月の表面に走る「しわ」のような崖として残っています。
今回、月を回る探査機の画像を使って、このしわを月面の広い範囲で数えあげた研究が発表されました。
しわの地図からは、月がどれほど縮んだのかという手がかりが見えてきました。
そこには、これまでの予想と大きく食い違う点もあったのです。
研究の詳細は、2026年10月1日付で学術誌『The Planetary Science Journal』に掲載されました。

月面の「しわ」を1本ずつ地図にする
月の表面には、片側が急で反対側がなだらかな、細長い崖があちこちに見られます。
これは、岩盤が押し合って片方がもう片方に乗り上げてできた、断層の崖(ローベートスカープ)です。
崖を生んだ断層はとても浅く、地表から深さ1kmまでの砕けた岩の層の中でできたとみられています。

縮んでいく月の表面には、しなびたリンゴの皮のように、しわが寄っていくのです。
研究チームは、月を回る探査機ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)のカメラ画像を調べました。
赤道から南北45度までの範囲では、起伏が見えやすい斜めの光で撮った画像が、9割を超える場所でそろっています。
チームは、1ピクセルが0.5〜2mの細かな画像の上で、崖のふもとに1本ずつ線を引いていきました。

その結果、見つかった崖は8900本を超え、そのうち長さ1kmを超えるものは約5470本にのぼりました。
さらに線を向きのそろった区間に切り分けると、その数は約12万7800にもなりました。
区間の長さを足し合わせて崖1本ずつの長さを求めたことで、月面がどれだけ押し縮められたかを見積もる材料がそろったのです。
崖は、明るい高地にも、「海」と呼ばれる暗く平らな地域にも見つかりました。
北極に近いクレーターの中の、一度も日が差さない暗がり(永久影)にも、崖は刻まれていました。
「ShadowCam」というカメラの画像から地形を立体的に復元すると、そこで最も長い崖の高さは約116mでした。

これはビル30階分ほどの高さで、月で見つかった崖の中でも特に高いものの一つです。
ほかの地域から例として示された崖は、高さ約36〜56mでした。
こうして月の「しわ」は、明るい場所にも暗い場所にも、あらゆる地形に走っていることが分かりました。
月はどれだけ縮んだのか?
チームは、崖の長さをもとに、月の表面の面積がどれだけ減ったかを計算しました。
高地の崖に加えて、海の地域に走る小さな尾根のような断層も合わせて数えています。
その結果、表面の面積が縮んだ割合は、全体のわずか約0.005%と見積もられました。
これを月の半径に直すと、約42〜46m縮んだことになります。
これまでの見積もりでは、アポロの写真から約70m、当時見つかっていた約3200本の崖から約25mとされていました。
およそ12階建てのビルの高さに当たる長さです。
内訳を見ると、縮みのほとんどは高地の崖によるもので、海の断層が足す分は6m以下でした。
海の地域は、高地に比べて月面に占める広さがずっと小さいためです。

では、この縮みはどれくらいの速さで進んだのでしょうか。
仮に崖ができ始めたのが約4億年前で、そこから一定の速さで縮んだとします。
その場合、縮む速さは100万年あたり最大で約11cmになります。
100万年かけて、はがきの短い辺ほどの長さだけ半径が縮む計算です。
始まりがその倍の約8億年前なら、速さはおよそ半分の約6cmになります。
チームは、この縮みによって月の岩盤にかかる、押す力の強さも計算しました。
その強さは約4メガパスカルで、以前の見積もりのほぼ2倍にあたります。
その強さは、アポロ計画で記録された浅い月の地震(浅発月震)で解き放たれた力の見積もりと、よく合っていました。
実際、アポロの地震計がとらえた浅い月震28件のうち13件は、崖から90km以内で起きていました。
しかもその多くは、縮みと潮汐力(ちょうせきりょく:地球の重力が月をわずかに変形させる力)による押す力が最も強くなると予想される場所でした。
同じ場所を時期を変えて撮った画像からは、崖の近くで月面の砂が崩れた地すべりも見つかっています。
一部の崖は今も動いていて、月震を起こし、地すべりの引き金になっている可能性があるのです。
予想より「縮みが少なすぎる」月のなぞ
ただ、この数十mという縮みには、大きななぞが残っていました。
月の中がどう冷えてきたかを計算したモデルは、半径が少なくとも約750m、モデルによっては少なくとも約1.1km縮むと予想していたのです。
今回の見積もりは、その予想の1割にも届きません。

月の岩盤は、約36億年前から、引っぱられるより押される力のほうが強い状態になったと考えられています。
もしその頃から断層ができ続けていたなら、崖はもっと育ち、水星や火星の崖に近い規模になっていたかもしれません。
予想どおり1km近く縮んでいたなら、崖はもっと長く高くなっていたはずだと、チームは指摘します。
1本の長さは最大で約100km、高さは数百mにもなっていたと考えられるのです。
ところが、そんな古くて崩れかけた大きな崖は、月で見つかっていません。
海の地域にある古い尾根を除くと、押し縮められた跡は、約3〜4億年前までほとんど見当たらないのです。
崖が若いことは、周りのクレーターの数や大きさからも裏づけられ、その年代は約1億5000万年より新しいと見積もられています。
中には、5000万年より新しいとみられる崖もあります。
つまり月は何十億年もかけて力をため込み、ここ数億年でようやく、崖ができるほどの力に達したと考えられるのです。

なぜそうなったのかについて、チームは2つの可能性を挙げています。
1つは、月の表面を厚く覆う、すき間の多い砕けた岩の層(メガレゴリス)が関わっているという考えです。
この層が断熱材のように働き、月はずっと同じ調子で冷えてきたわけではなかったのかもしれません。
もう1つは、硬く丈夫な岩盤が、力が限界に達するまで断層ができるのを抑えていたという考えです。
どちらが正しいのかは、まだ決着していません。
崖の分布には、月の地殻の厚さとの関わりをうかがわせる偏りも見られました。
たとえば「湿りの海」の南の高地には、約100本の崖が集まり、合わせた長さが約400kmになる場所があります。

1本ずつの長さを足し合わせると、東京から大阪までの距離ほどになる計算です。
こうした崖の集まりは、地殻の厚さが中くらい(約30〜40km)の場所に多く見られました。
反対に、地殻が最も厚い地域では、崖の長さの合計は小さめでした。
地殻の厚さと崖のでき方には関係があるかもしれないと、チームは見ています。
夜空の月は、いつ見ても同じ姿に見えます。
けれどもその半径は、ここ約4億年を一定の速さで縮んだと仮定すると、100万年ごとに最大ではがきの短い辺ほど縮んできた計算になります。
ここからは、月震をもっと知りたい人へ
月震とは、月で起こる地震のことです

月震は月の上で起きる地震で、地球の地震とは揺れ方がずいぶん違います。
地球の地震との違いの一つは、揺れの長さです。月の表面近くでは地震の波が強く散らばるため、記録の上では揺れが1時間も続きます。
また、月面にはふだんの細かな揺れがほとんど無いので、月震は地震計にはっきりと記録されます。
震源の深さも地球とは大きく違います。深い月震は、月の半径の半分ほどにあたる深さ800〜1000kmの所で起きています。
これに対して地球の地震の震源は、深くても約700kmで、地球の半径の9分の1くらいまでにとどまります。
そもそも、月のように中まで冷えた天体で地震が起きるのかどうかは、かつては議論の的でした。
その答えが出たのは1969年です。アポロ11号の着陸船イーグルが月面に置いた地震計が、地球以外の天体で起きる地震を初めて記録しました。
今では、月面に置かれた地震計の記録をもとに、月震の起き方や月の内部のつくりがかなりの程度まで分かっています。
写真で見る月の崖と、月の探査










参考文献
Thrust Faulting and the Late-stage Contraction of the Moon (The Planetary Science Journal)
https://doi.org/10.3847/psj/ae9eae
月震(コトバンク)
https://kotobank.jp/word/%E6%9C%88%E9%9C%87-490598
元論文
Thrust Faulting and the Late-stage Contraction of the Moon
https://doi.org/10.3847/psj/ae9eae
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
