「もっと睡眠時間をとろう」といわれ続けてきた私たちにとって、今回の研究結果は驚きかもしれません。
ハンガリー・センメルヴェイス大学(Semmelweis University)の最新研究で、睡眠不足は確かに死亡リスクを増加させていたものの、それよりも睡眠時間が長すぎる方がより死亡リスクが高まっていたことが判明したのです。
では、何時間が長すぎる睡眠時間のラインとなるのでしょうか?
研究の詳細は2025年3月12日付で科学雑誌『GeroScience』に掲載されています。
目次
- 「長く眠る人」は死亡リスクが34%も高かった
- 寝すぎは「原因」ではなく「症状」なのかもしれない
「長く眠る人」は死亡リスクが34%も高かった

研究チームは今回、世界79の調査研究、210万人以上のデータを解析し、「睡眠時間と死亡率の関係」を探りました。
その結果、1晩7〜8時間の睡眠をとる人が最も死亡リスクが低く、それよりも短い睡眠(7時間未満)の人は14%、そして長すぎる睡眠(9時間以上)の人はなんと34%も死亡リスクが高まるという結果が出たのです。
さらに性別によっても傾向は異なりました。
短時間睡眠による死亡リスクの増加は男性のほうが高く、一方で長時間睡眠によるリスクの増加は女性に強く見られました。
これまでの睡眠研究では、「寝不足は健康に悪い」とされてきましたが、「寝すぎ」もまた無視できないリスクであることが、改めて裏づけられた形です。
また、過去の別の大規模研究(2018年)でも、睡眠時間が9時間を超えると死亡率が14%高くなるとの報告があり、今回の結果はその傾向をさらに明確にしたものとなっています。
では、なぜ長く眠ることが、これほどまでに健康に悪いのでしょうか?
寝すぎは「原因」ではなく「症状」なのかもしれない
「たくさん眠っているのに疲れが取れない」「10時間寝ても眠い」
そんな経験がある人は少なくないかもしれません。
実は、長時間の睡眠は体に何らかの異常が起きているサインである可能性が高いと考えられています。
たとえば、うつ病や慢性的な痛み、代謝の異常など、すでに健康状態が悪化している人は、体が回復を必要としていたり、薬の副作用や症状によって自然とベッドにいる時間が増えてしまう傾向があります。
また、こうした人々は睡眠の「質」が低いことも多く、結果として「長く眠っているのに休めていない」という状態に陥ります。
これは、質の悪い睡眠を補うために“長さ”でカバーしようとしているに過ぎないのです。
さらに喫煙や肥満といった生活習慣の乱れも、睡眠の質と深く関わっています。
つまり、長時間の睡眠が健康を悪くしているのではなく、元々の不調や生活習慣が長時間睡眠を引き起こしている可能性があるのです。
このように「寝すぎ」は単なる生活習慣ではなく、体が発している警告サインである場合もあるのです。

その一方で、生まれつき遺伝的に「ロングスリーパー」の方々も存在します。
こうした人たちは元から睡眠時間が長く、ときには10時間近く眠ることで初めてすっきりと目覚め、日中も元気に活動できるという特徴があるのです。
例えば、かの天才アインシュタインもロングスリーパーだったことで知られ、一晩の10時間以上眠ることが普通でした。
問題なのは、元々は7〜8時間睡眠だった人が急に9〜10時間睡眠になった場合です。
こうした人たちは体になんらかの異変が起きている可能性があるので、注意が必要であり、医師の診断を受けた方がいいかもしれません。
参考文献
Too little sleep is bad for your health, but too much could be worse
https://www.theage.com.au/lifestyle/health-and-wellness/too-little-sleep-is-bad-for-your-health-but-too-much-could-be-worse-20250620-p5m8z3.html
A Study Found Too Much Sleep Increases Risk of Death. Here’s Why.
https://www.sciencealert.com/a-study-found-too-much-sleep-increases-risk-of-death-heres-why
元論文
Imbalanced sleep increases mortality risk by 14–34%: a meta-analysis
https://doi.org/10.1007/s11357-025-01592-y
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部