あなたの隣で眠っている愛する人は、もしかすると睡眠妨害者になってしまうかもしれません。
近年、一部の研究者の間である言葉が静かに広まりつつあります。
それは「睡眠離婚(Sleep Divorce)」です。
これは決して夫婦やカップル間の愛の終焉を意味するものではなく、睡眠時間のときだけ別々の場所にわかれることを指します。
いびき、寝返り、寝言、室温の好みなど、ささいな違いが積み重なって、あなたの睡眠は愛するパートナーによって静かに削られているかもしれません。
あるいは反対にあなたがパートナーの睡眠を妨害している可能性もあります。
「一緒に寝るのが当たり前」という常識を問い直すときが来ているのです。
この記事では「睡眠離婚」という選択肢がもたらす健康効果について紹介します。
目次
- 「一緒に眠る」ことが、必ずしも幸せには繋がらない
- 「別々に眠る」ことで、むしろ夫婦仲が良くなる?
「一緒に眠る」ことが、必ずしも幸せには繋がらない

夫婦やカップルが同じ一つのベッドで眠るのは、もはや文化的な常識ともいえる行動です。
しかしながら現代では、生活リズムの違いや、いびき、寝言、足のピクつき、寝返りなどが原因で、パートナーの睡眠を妨げ合うことも珍しくありません。
とくに、シフト勤務などの生活時間が異なるカップルや、小さな子どもを育てている夫婦にとっては、別々に眠ることで負担が大きく減るケースが多いのです。
さらに科学的な調査では、驚くべき事実が明らかになっています。
脳波を測定するような客観的な手法によって分析すると、パートナーと一緒に眠るよりも、一人で寝たほうが深い睡眠が得られやすい傾向があるのです。
つまり「一緒に寝たほうが安心する」と感じていても、身体のレベルでは質の高い休息が得られていない可能性があるのです。
特に不眠症や睡眠時無呼吸症候群といった睡眠障害を抱えている人は、無意識のうちにパートナーを何度も目覚めさせてしまいます。
そのため、どちらかに睡眠障害がある場合、「睡眠離婚」が実質的な解決策になり得るのです。
「別々に眠る」ことで、むしろ夫婦仲が良くなる?
「でも、一緒に寝ないなんて、夫婦やカップルとして寂しい」と感じる人もいるでしょう。
確かに、身体的な距離が心の距離につながるのではないか、という不安は理解できます。
しかし、別々に寝ることが必ずしも関係性の希薄化を意味するわけではありません。
むしろ、睡眠の質が向上することで、心の余裕が生まれ、関係満足度が高まることが研究で示されています。
夜しっかりと休息をとった翌朝、パートナーに優しくなれた経験は誰にでもあるはずです。
さらに、別々に寝ることで「セックスレスになるのでは?」という懸念についても、必ずしもそうとは限りません。
良質な睡眠を取ったあとは、親密な関係を築きたいという気持ちが高まりやすいことが知られています。
実際に「別々に寝たほうがエネルギーが残っていて性生活が改善された」という報告もあるほどです。

もちろん、すべてのカップルに「睡眠離婚」(研究者の中には「睡眠別居(sleep separation)」の方が適切ではないかとの意見もある)が適しているわけではありません。
大切なのは、パートナーと率直に話し合い、「なぜ一緒に眠るのか」「何のために眠るのか」という目的を再確認することです。
たとえばあるカップルは、夜は別々に眠るものの、就寝前や朝にはどちらかのベッドに「おじゃま」する時間をつくっているそうです。
このように、心のつながりを保ちつつ、身体は無理せず快眠を得る――そのバランスこそが、現代夫婦にとっての新しい形なのかもしれません。
「睡眠離婚」は、より親密で快適な夫婦生活を育む上で大切な選択肢の一つとなるでしょう。
参考文献
Sleep Divorce Could Be The Secret to Getting a Good Night’s Rest
https://www.sciencealert.com/sleep-divorce-could-be-the-secret-to-getting-a-good-nights-rest
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部