このほど、イラン西南部の遺跡で、約6200年前のものとされる10代の少女の奇妙な頭蓋骨が見つかりました。
彼女の頭はまるでエイリアンのように細長く、まさに「コーン型」に整形されていたのです。
そしてその頭蓋骨には「死の直前に受けたとされる深刻な外傷の痕跡が残されていた」と、イランのタルビアト・モダレス大学(TMU)の研究チームが報告しています。
少女の身に何が起きていたのでしょうか?
研究の詳細は2025年5月22日付で学術誌『International Journal of Osteoarchaeology』に掲載されています。
目次
- 頭がコーン型に成形された少女
- 死の直前に受けた謎の致命傷
頭がコーン型に成形された少女
この物語の舞台は、現在のイラン西南部に位置するチェガ・ソフラ遺跡です。
ここは紀元前5千年紀、つまり約6200年前に使用されていたとされる先史時代の共同墓地として知られています。
考古学者たちは10年以上にわたりチェガ・ソフラ遺跡を発掘しており、近年になって驚くべき発見が相次いでいます。
その中でも特に注目されたのが「BG1.12」と名付けられた若い女性の頭蓋骨です。
遺骨の調査の結果、彼女はまだ20歳未満の少女だったと推定されています。

また彼女の頭は、現代人の常識を大きく超えるほど縦に長く、まるで映画に出てくる宇宙人のような形をしていました。
このような頭部の形は、人工的な頭蓋変形によってつくられたものです。
具体的には、まだ骨が柔らかい幼児の頃から、頭に包帯を巻いて長期間固定し、意図的に骨の成長方向を変えるという処置です。
この風習は、ユーラシア、アフリカ、南北アメリカなど、世界各地の古代文明で見られており、美しさや地位、部族のアイデンティティの象徴として行われていたと考えられています。
チェガ・ソフラ遺跡からは、他にも同様の変形頭蓋骨が複数発見されていますが、すべてが変形されているわけではありません。
つまり、この風習は特定の集団や身分に限定された可能性が高いのです。
少女が属していた家族や部族が、この「コーン型の頭」を特別な意味で捉えていたことは間違いないでしょう。
死の直前に受けた謎の致命傷
少女の頭蓋骨には、もう一つの衝撃的な特徴がありました。
それは致命的な骨折の痕跡です。
チームは頭蓋骨をCTスキャン(コンピュータ断層撮影)で詳しく調べ、左側頭部から後頭部にかけて広がる三角形の骨折を発見しました。
これは幅の広い鈍器のようなもので強く打たれた際にできる特徴的な骨折であり、打撃によって頭蓋骨が割れ、蝶番のように一部がめくれた状態になるのです。
この骨折には治癒の痕跡がなく、少女が死ぬ直前に受けた傷であることが確認されています。
しかしこの一撃が事故だったのか、誰かに故意的に襲われた結果だったのかを断定できる証拠はありません。

さらに重要なのは、彼女の頭蓋骨が「変形されていた」という点です。
CTスキャンの結果、人工変形によって頭蓋骨全体が薄くなり、内部のスポンジ状の骨(海綿骨)も通常より弱くなっていたことがわかりました。
つまり、外からの衝撃に非常に弱くなっていた可能性があるのです。
とはいえ、チームは「今回の打撃は、通常の頭蓋骨であっても骨折を起こしただろう」と指摘しています。
変形していようがいまいが、この一撃は極めて強力だったということです。
一方で、少女の全身骨格はまだ完全に特定されていません。
というのも、チェガ・ソフラの埋葬は多くが集団墓形式であり、複数の個体が混在しているため、個人ごとの骨の照合が難しいのです。
そのため、少女の生活史や死の状況の詳細は未だに謎のまま残されています。
今後の調査で少女の全身骨格が特定できれば、さらに生前の詳しい生活状態が浮かび上がるかもしれません。
参考文献
‘Cone-headed’skull from Iran was bashed in 6,200 years ago, but no one knows why
https://www.livescience.com/archaeology/cone-headed-skull-from-iran-was-bashed-in-6-200-years-ago-but-no-one-knows-why
Ancient cone-shaped skull shows signs of fatal trauma
https://www.popsci.com/science/teen-elongated-skull-iran/
元論文
A Young Woman From the Fifth Millennium BCE in Chega Sofla Cemetery With a Modified and Hinge Fractured Cranium, Southwestern Iran
https://doi.org/10.1002/oa.3415
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部