いまや中高生のあいだでも、スキンケアは日常の一部になっています。
TikTokでは、朝晩のスキンケアルーティンを紹介する動画が無数に投稿され、若い世代の美意識の高さがうかがえます。
美容への関心は健全な自己表現のひとつですが、果たしてその熱心なスキンケアは、10代の肌にとって本当に適切なのでしょうか?
2025年6月、アメリカ・ノースウェスタン大学(Northwestern University)の研究チームが、TikTok上に投稿された10代のスキンケア動画を分析し、その効果やリスクについて検証した結果を発表しました。
この研究の詳細は、2025年6月付で米国小児科学会の学術誌『Pediatrics』に掲載されています。
目次
- ネットに溢れる過剰なスキンケア情報
- 効果がないどころか、肌に悪影響も
ネットに溢れる過剰なスキンケア情報

研究を主導したのは、ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部(Feinberg School of Medicine)の皮膚科医モリー・ヘイルズ(Molly Hales)博士と、医療社会学の専門家タラ・ラグー(Tara Lagu)博士です。
研究チームは、13歳の少女を装ったアカウントを作成し、TikTokの「For You」ページでスキンケア関連の動画を閲覧。その中から、7歳から18歳の少女が出演する人気スキンケア動画100本を収集して分析しました。
動画の多くは、1本につき平均6種類のスキンケア製品を使用しており、多いものでは10種類以上の活性成分(肌に働きかける有効成分)を含む製品が併用されていました。
中でも注目されたのは、レチノール(retinol)やAHA(アルファヒドロキシ酸)など、本来は成人向けに設計された高機能な成分が多く使われていたことです。
たとえばレチノール(retinol)は、ビタミンAの一種で、肌のターンオーバー(新陳代謝)を促進する作用があります。 古い角質を排出しやすくし、ニキビや色素沈着、小じわの改善に効果があるとされ、大人向けのスキンケアによく使われています。
しかしその一方で、角質層が薄くなって肌が外部刺激に対して敏感になるため、乾燥や赤み、皮むけ、かぶれといった副作用が起きやすくなります。
10代の肌はもともと代謝が活発で、こうした作用を必要としない場合が多いため、レチノールを使うことで角質が薄くなりすぎ逆に肌荒れやバリア機能の低下を招く恐れがあります。
AHA(アルファヒドロキシ酸)もまた、古い角質を取り除いて肌をなめらかにするピーリング効果を持つ成分ですが、使いすぎると乾燥や炎症を招く恐れがあります。
これらの成分は適切に使えば効果も期待できますが、頻度や濃度を誤ると健康な肌にダメージを与えるリスクがあるのです。
また、実際に使用されている製品をそろえた場合のコストも無視できません。
調査によると、動画で紹介されたスキンケアの月額コストは平均で約168ドル(約2万5千円)にのぼり、一部のルーティンでは月500ドル(約7万5千円)を超えていました。こうした高額なケアを10代が当然のように真似する傾向も確認されています。
研究者たちが特に問題視したのは、これらのスキンケア動画が単なる美容の紹介にとどまらず、過剰な美容意識や社会的プレッシャーを助長しているという点です。 特にこれらの動画ではブランド志向が強く、中にはスキンケアそのものよりも高級ブランド製品を使うことの優越感が強調されてしまい、目的と手段が入れ違っているケースも見られました。
先の実際10代の肌には有害な場合があるという点と併せて考えると、TikTok上で拡散されるスキンケア習慣には、単なる「美容の流行」や「肌の健康を保つ」という目的から逸れた、社会的・身体的リスクが潜んでいると言えます。
今回の研究チームが目指したのは、まさにその構造を明らかにし、10代の肌にとって本当に必要な情報やケアのあり方を問い直すところにありました。
効果がないどころか、肌に悪影響も
この研究の最も重要な発見は、TikTokで人気を集める10代向けスキンケアが、皮膚の健康にほとんど恩恵をもたらさず、むしろ肌に害になる可能性が高いという点です。
この研究チームは、皮膚科医や小児科医が参加しているため、彼らは動画に登場する製品の成分を、小児向けのアレルギー皮膚パッチテストに使われる基準と照らし合わせ、10代の肌にどの程度ダメージを与えるかを検証しました。
その結果、多くの製品に接触皮膚炎(赤みやかゆみ、炎症)や、光過敏性皮膚炎(紫外線との反応で起こる炎症)を引き起こす恐れがあることが明らかになりました。

また分析された動画の中で日中のスキンケアルーティンとして最も基本的かつ重要な日焼け止め(sunscreen)の使用について言及していたものは、全体のわずか26%にとどまっていました。
これは、若い世代がルーティンとしてのスキンケアには熱心でも、肌を実際に守るための基本的な習慣が見落とされがちであることを示しています。特に日焼け止めは、紫外線から肌を守る最も重要なステップであり、これを省くことは、どれほど高価な製品を使っても本末転倒となる恐れがあります。
特に動画でよく紹介れていたAHA(アルファヒドロキシ酸)やレチノールは、角質が一時的に薄くなるため、紫外線に対する防御力が低下します。そのため使用中には「日焼け止めが必須」であり、こうした適切な知識なしに使うことは、肌トラブルを招く可能性があります。
つまり、10代の子がTikTok上で共有しているスキンケアの方法は、実際に肌を守るケアになっておらず、「映える」ことやブランド志向が優先されている現状が浮き彫りになったのです。
研究者たちは、「健康な肌にとって最も大切なのは、シンプルで肌にやさしいケアを継続すること」と述べています。
洗顔、保湿、日焼け止めという基本的な3ステップだけでも十分であり、むやみに多くの製品を使うことは、かえって肌のバリア機能を弱め、トラブルの原因になると警告しています。
肌に必要なのは「映え」より「やさしさ」
この研究から見えてくるのは、「大人向けのスキンケアをそのまま真似しても、10代の肌には合わず、逆効果になりうる」という明確なメッセージです。
美に対する関心を持つこと自体は素晴らしいことで、若いうちからケアするのは立派なことに思えます。しかし、SNSで見かける華やかなスキンケアルーティンに影響されて、必要以上の製品を使ったり、高価なアイテムを無理にそろえたりする必要はありません。
本当に肌を美しく保つには、自分の年齢や肌質に合ったシンプルなケアを見極めることが大切です。
スキンケアは早いうちから始めた方が、きれいな肌を長く保てると考える人が多いのかもしれませんが、実際は健康な肌にはダメージを与えるだけになる可能性も意識した方がいいようです。
参考文献
Teenage girls’ TikTok skincare regimes offer little to no benefit, research shows
https://www.theguardian.com/technology/2025/jun/09/teenage-girls-tiktok-skincare-regimes-offer-little-to-no-benefit-research-shows
元論文
Pediatric Skin Care Regimens on TikTok
https://doi.org/10.1542/peds.2024-070309
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部