「竜脚類(りゅうきゃくるい)」はその首の長さや体格の大きさから、非常に人気の高い恐竜グループです。
そしてこのほど、豪カーティン大学(Curtin University)らの最新研究で、この首長恐竜の胃の内容物の化石が史上初めて発掘されました。
さらにその内容物を詳しく調べてみると、首長恐竜は植物をほとんど噛まずに丸呑みしていたことが示されたのです。
研究の詳細は2025年6月9日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。
目次
- 1億年前の「胃の中」から読み解く真実
- 成長につれて食べる物が変わる
1億年前の「胃の中」から読み解く真実
この発見の舞台となったのは、オーストラリア東部・クイーンズランド州の内陸部にある「ウィントン層」と呼ばれる白亜紀中期(1億100万〜9400万年前)の地層です。
2017年、古生物学者たちはここで、首長恐竜「ディアマンティナサウルス・マチルデ(Diamantinasaurus matildae)」の比較的完全な化石を発掘しました。
注目すべきはその腹部にあった異常に硬化した岩層です。
そこには植物の化石が密集しており、同時に竜脚類の皮膚の鉱化組織も見つかりました。

この層を調査したチームは「これこそが恐竜の腸内内容物=コロライトである」と判断。最新のX線CTスキャンや化学分析技術を用いて詳細な解析を行いました。
その結果、腸の中からは多種多様な植物片が発見されました。
具体的には、
・針葉樹の葉
・種子シダ植物の果実と見られる構造
・被子植物(花を咲かせる植物)の葉
などが確認され、それらが消化中の状態で残されていたのです。
驚くべきことに、これらの植物片は「ほとんど噛まれていない」状態で、裂かれただけのように見えるものが多数存在していました。
つまり、首長恐竜は巨大な歯で植物を引きちぎった後、細かく噛み砕くことはせずに、そのまま呑み込んでいたと考えられるのです。
この「丸呑みスタイル」は、首長恐竜たちが腸内に共生する微生物を使った発酵で植物を消化していたことを示唆しています。
成長につれて食べる物が変わる
一方で、ディアマンティナサウルスの腸内にあった植物は、意外にも「高木から低木まで様々な高さ」に分布するものばかりでした。
これにより、彼らは低い植物も高い枝葉も幅広く食べていた「バルクフィーダー(大量採食者)」だったと考えられます。
さらに、この個体は成体ではなく「亜成体」とされており、チームは「成長に応じて食性が変化した可能性がある」と推測しています。
幼い竜脚類は、体高が低いため地面に近い植物しか食べられません。
ですが成長とともに首が長くなれば、高木の葉にも手(口)が届くようになります。
こうした「食の成長ステージ」を持つことで、竜脚類は急速な成長を支えながら、変化する環境にも柔軟に適応していったのです。

また今回の研究では、腸内に含まれていた植物が「当時の植生を代表している」ことも重要です。
ディアマンティナサウルスが生きていた時代は、オーストラリアの植物相が針葉樹や種子シダ中心から、被子植物との共存へと移行していた時期にあたります。
彼らはまさにその過渡期を生き抜いていた恐竜だったのです。
これまで想像の域を出なかった竜脚類の食事風景が、約1億年前の“胃の化石”によって初めて具体的に明らかになりました。
彼らは歯で植物を切り取り、ほとんど噛まずに丸呑みし、腸内の発酵タンクでじっくりと消化していたのです。
参考文献
First reported sauropod fossil stomach contents show the dinosaurs were ‘bulk feeders’of plants
https://www.abc.net.au/news/science/2025-06-10/sauropod-fossil-stomach-contents-plants-diamantinasaurus-judy/105385422
Paleontologists dig through fossilized dino guts to see what’s inside
https://www.popsci.com/science/sauropod-stomach-contents/
元論文
Fossilized gut contents elucidate the feeding habits of sauropod dinosaurs
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.04.053
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部