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世界初の「ノンストップ鼓動」心臓移植に成功!【ゼロ虚血時間】


国立台湾大学病院(NTUH)の医療チームが、心臓を一度も止めずに移植する「ゼロ虚血時間移植」を成功させました。この技術は、従来の心臓移植で避けられなかった虚血を完全になくす革新です。新しい移植システムは、心臓を常に拍動させ、酸素を含む血液を絶え間なく送り続けます。拡張型心筋症を抱える49歳の女性に実施されたこの手術は、心臓が摘出後も鼓動を続け、虚血時間ゼロでの移植成功を達成しました。NTUHによれば、手術後も心筋機能は迅速に回復し、患者は日常に復帰しました。この技術は、心臓移植の新たな標準治療となる可能性を秘めています。

「心臓移植」といえば、一度止まった心臓を新しい体に入れ替え、再び動かすイメージを持っている人が多いでしょう。

しかし今回、国立台湾大学病院(NTUH)のチームが成功させた手術は、過去の心臓移植とは決定的に異なりました。

2024年末に手術が行われ、2025年3月25日に記念すべき発表が行われました。

なんと、心臓の鼓動を1度も止めることなく、動き続けたまま別の人に移植する「ゼロ虚血時間移植」に成功したのです。

一体どうやって、そのような技術を実現したのでしょうか?

研究の詳細は、2025年4月9日付の『Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Techniques(PDF)』誌に掲載されています。

目次

  • 心臓に血液が届かなくなる「虚血」――目指すは「ゼロ虚血時間」
  • 世界初の「ノンストップ鼓動」心臓移植が成功する!ゼロ虚血時間を達成!

心臓に血液が届かなくなる「虚血」――目指すは「ゼロ虚血時間」

心臓移植は1967年に初めて成功し、以来大きく発展してきました。

しかし、その中でも問題となってきたのは「虚血」でした。

「虚血(きょけつ)」とは、臓器に十分な血液が届かなくなり、酸素や栄養が不足してしまう状態のことです。

血液は臓器を生かすためのエネルギー源なので、流れが止まると細胞がすぐに傷み始めてしまいます。

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従来の心臓移植では、どうしても「虚血」が生じる / Credit:Canva

心臓はとてもエネルギーを使う臓器なので、ほんの少しでも血液が止まるとダメージを受けてしまいます。

一般的な心臓移植では、虚血時間が通常4時間以内に抑えられますが、それでも短ければ短いほど心筋へのダメージが減り、移植の成功率や心機能の回復が高まるとされています。

現代では「Organ Care System(OCS)」という特別な装置を使って、心臓を体温に近い温度で守りながら輸送することができます。

しかし、従来のOCSを用いたとしても、完全に虚血を避けることは難しく、短時間でも血流が途切れてしまいます。

これに対して、NTUHのチームが開発した新しいOCSは、心臓を一切止めることなく、最初から最後までずっと拍動(心臓の動き)を保ったまま移植につなげるというもの。

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新しいシステム図 / Credit:NTUH,Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery Techniques(2025)

このシステムは、体外式膜型人工肺(ECMO)から着想を得て設計され、心臓に絶え間なく酸素を含んだ血液を送り続ける仕組みになっています。

温度と圧力も適切に管理されており、手術室から手術室への移動中も心臓を動かしたまま安全に運べます。

この新しいシステムは、従来のOCSと同じ機能を持ちながら、さらに心臓を常に拍動させ続け、虚血を完全に回避するという点で進化した「次世代型OCS」とも呼べる存在です。

これにより、心筋細胞(心臓の筋肉の細胞)がダメージを受けず、最高の状態で移植できるのです。

では、新システムを用いた、世界初の「ゼロ虚血時間」心臓移植はどうなったのでしょうか。

世界初の「ノンストップ鼓動」心臓移植が成功する!ゼロ虚血時間を達成!

さて、実際に「ゼロ虚血時間心臓移植」を受けた患者さんについて見てみましょう。

手術を受けたのは49歳の女性で、拡張型心筋症(心臓の筋肉が薄くなり、拡張して収縮力が低下する病気)を患っていました。

彼女には新しいOCSを使って移植手術が施されました。

後の記者会見で公開されたビデオでは、ドナーの心臓が新OCSに接続される様子が映し出されました。

摘出された心臓は、女性患者が移植を待つ別の手術室に運ばれる間も、鼓動を続けていました。

そして結果は驚くほど良好でした。

手術後、心臓の拍動は力強く安定しており、心筋機能も早期に回復し始めました。

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NTUHはゼロ虚血時間の手術を達成したと報告 / Credit:NTUH

最終的に、患者は心臓が一度も止まることなく日常生活に戻り、その後の検査でも機能は良好であることが示されました。

2024年8月のことでした。

NTUHの医療チームは、「この手術の安全性と実現可能性を実証した」と述べており、新たな標準治療となる可能性に自信を示しています。

また彼らは、「2025年の始めに2度目のゼロ虚血時間・移植手術に成功した」と付け加えました。

ちなみに、スタンフォード大学による2023年と2024年の手術に関する論文では、心臓が摘出されてOCSに接続するまで、短時間(10~30分)の虚血時間があったと報告されています。

今回のNTUHの手術では、2例とも、「心臓は摘出前も摘出後も鼓動しており、一度も止まることなく移植。虚血時間はゼロだった」と報告されています。

今回の報告に多くの人が驚いたのも無理はありません。

この技術はまだ試験段階にありますが、すでに大きな注目を集めています。

「虚血時間ゼロの移植」の普及は、心臓移植の常識を大きく変えるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

World’s first “nonstop beating heart”transplant is a medical breakthrough
https://newatlas.com/heart-disease/heartbeat-transplant-ntuh/

NTUH keeps heart beating in world’s 1st zero-ischemic-time transplant
https://focustaiwan.tw/sci-tech/202504160014

“Heart”to Hope, “Zero”Distance NTU Hospital’s Cardiac Transplant Team Pioneers Beating Heart Transplant with Zero Ischemic Time Celebrating 700 Successful Heart Transplants and a Groundbreaking Surgical Milestone
https://www.ntuh.gov.tw/ntuh/News.action?l=en_US&q_type=-1&q_itemCode=16761

元論文

First-in-human Zero-Ischemia-Time Beating-Heart Transplant(PDF)
https://doi.org/10.1016/j.xjtc.2025.03.019

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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