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量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功


JPモルガン・チェースとテキサス大学が、量子力学を用いた“究極の乱数”生成を成功させました。量子コンピュータを活用したこの方法は、従来の疑似乱数と異なり、予測困難な真の乱数を生み出すことが可能です。乱数の信頼性が不可欠な暗号化やオンラインくじなどで重要な役割を果たす可能性があります。研究では、スーパーコンピュータを用いて量子由来の乱数を検証。量子の本質的なランダム性を活かし、誰にも予測不可能な乱数が得られることが確認されました。この技術は、暗号や選挙といった分野での応用が期待され、量子技術が日常生活に入り込む可能性を示唆しています。

「本当に予測できない乱数なんて作れるのか?」

アメリカのJPモルガン・チェース、テキサス大学らに行われた研究によって、量子力学の不思議な性質を活かすことで “究極の乱数”を生成することに成功しました。

乱数はセキュリティや暗号化、オンラインくじなど、あらゆる場面で用いられていますが、「本当に信頼できる乱数」を得るのは意外と難しく、既存のコンピュータが生み出す「疑似乱数」では、いずれ推測されてしまう危険性がありました。

そこで新たな研究では、量子コンピュータを使った乱数生成を徹底検証し、古典的なコンピューターでは予測不能な量子乱数の実証が目指されています。

果たして私たちは“予測不可能”を証明できるのでしょうか?

研究内容の詳細は『Nature』にて発表されました。

目次

  • なぜ量子は予測不能? ‘重ね合わせ’が生む真のランダム
  • 量子力学が乱数を変える時
  • 量子乱数が支えるデジタル社会のゆくえ

なぜ量子は予測不能? ‘重ね合わせ’が生む真のランダム

量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功
量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功 / Credit:Canva

私たちが日常で使う多くの乱数は、コンピュータのアルゴリズムで生み出される「疑似乱数」であり、演算のパターンが読み解かれると推測や再現が可能になってしまう恐れがあります。

暗号やオンラインくじなど「絶対に推測がされては困る」場面には、十分強力とは言い切れないわけです。

一方、物理的なわずかな揺らぎや量子効果を利用したハードウェア乱数生成器も登場してきましたが、「その装置が本当に乱数を出しているのか?」を第三者が厳密に確認するのは容易ではありません。

そこで改めて注目されているのが、量子力学の現象そのものを使った「量子乱数生成」です。

量子力学の特徴として、「測定をするまでは結果が確定していない」という性質が挙げられます。

量子ビット(量子の情報単位)は「重ね合わせ状態」と呼ばれ、たとえばコイントスで言うなら、表と裏が“両方同時に存在している”かのようなイメージです。

測定する瞬間に初めて「表か裏か」が決定され、それまでは確率でしか語れないため、誰も結果を先取りできません。

これこそが量子の“本質的なランダム性”の源です。

また、量子ビットは観測や操作によって簡単に状態が変化してしまうため、「装置の内部で密かに仕掛けを仕込んで予測可能にする」ことも容易ではありません。

もし不正を試みれば量子ビットの状態が壊れ、その痕跡が分かってしまうのです。

こうした“自然が決めるくじ引き”のような仕組みが、量子乱数生成の強力な基盤となっています。

特に量子コンピュータを使えば、古典コンピュータではまねしづらい“本質的なランダム性”を生み出せると期待されています。

とはいえ、「量子力学を使って生み出された乱数」であっても、外部から「それが本当に予測不能かどうか」を十分に証明できないと、不安が残ることも事実です。

そこで研究チームは、「大量のランダム回路を作り、超大型スーパーコンピュータを使った検証手法によって、量子由来の乱数であることを証明する」という壮大な実験に挑戦しました。

量子力学が乱数を変える時

量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功
量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功 / Credit:Canva

量子コンピュータで生み出される乱数は、本当に“誰にも予測できない”ものなのでしょうか。

答えを得るため、研究者たちはまず、一組のカードを何度もシャッフルするかのように大量のランダム回路を用意しました。

これが「量子ビットに複雑な指示を与えるレシピ」であり、あらゆる手順を不規則に組み合わせることで、古典的には再現しがたい動きを狙います。 

次に、そうして作られたランダム回路を「イオントラップ型」の量子コンピュータに渡して実行します。

これは、たとえるなら「見たこともない多面体のサイコロを振って、出目を測定する」ようなものです。

一回の測定で得られるビット列が本当に予測不能かどうかは、あとからチェックする必要があります。

そこで登場するのが、世界最速クラスのスーパーコンピュータです。

研究チームはこのスーパーコンピュータを“名探偵”に見立て、量子コンピュータから返ってきたビット列が「古典計算でごまかされていないか?」を確かめました。 

具体的には、ビット列が理想的な量子回路の出力分布とどれだけ一致しているかを示す「XEBスコア」を算出し、そのスコアを高水準で得るには、とてつもない古典計算力が必要になることを示したのです。

XEBスコア(クロスエントロピー・ベンチマーキング)は、量子コンピュータが理想的に動作した場合の確率分布と、実際に測定されたビット列との“似かた”を数値化する指標です。

もし楽譜(理想の分布)どおりに演奏(測定結果)が行われていればスコアは高く、一方で“演奏”がズレていればスコアは低くなります。

高いスコアを得るには、量子計算が正確に動作しなければならず、古典コンピュータで偽装しようとすると計算コストが膨大に膨れ上がって時間切れになる、という仕組みです。

こうして量子コンピュータとスーパーコンピュータがタッグを組むことで、数万単位のランダム回路から合計7万ビット以上の測定結果が得られ、それらのXEBスコアは高水準を示しました。

これはつまり、測定されたビット列が理想的な量子回路の分布とよく合っている(=古典的に偽装しづらい)ことを意味し、量子プロセッサが真に“予測不可能”な挙動をしている証拠になるわけです。 

さらに、小さな種(シード)から大量の回路を生成できる仕組みも活かされ、最小限の入力から莫大な乱数を生産する道を示したといえます。

なぜこれが革新的なのか?

最大のポイントは、「量子が生み出す完璧に予測不能な乱数」を、スーパーコンピュータ級の“名探偵”によってしっかり検証したことにあります。

乱数の本当の安全性や予測不能性は、口で言うほど単純に確かめられません。

しかし今回の成果によって、世界最高峰の計算リソースさえ時間内に対応が難しいほどの“複雑性”があると示されたのです。

これは将来的に、暗号やオンラインくじ、電子投票など「絶対にごまかしがあってはならない場面」で、安全かつ信用できる乱数をどう手に入れるかという問題に、量子こそが決定打になる可能性を浮き彫りにしました。

量子乱数が支えるデジタル社会のゆくえ

量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功
量子力学で「真の乱数」を生成か? 量子の不確かさで予測困難な乱数の生成に成功 / Credit:Canva

量子コンピュータが生み出すビット列は、本当に“量子的な乱数”なのか、そしてそれをリモート越しにどう証明するのか。

今回の研究の成果は、遠隔地にある量子コンピュータで大量に生成されたビット列を、超大型のスーパーコンピュータで厳密に検証し、「古典計算では再現が極めて難しい量子現象による乱数」であると高い精度で仕分ける仕組みを示した点にあります。

「量子を使えば予測できない乱数が作れる」とは以前から言われてきましたが、実際に第三者がどこまで厳しくチェックし得るのかという課題は残っていました。

今回の研究では、「量子コンピュータが短時間で大量のビット列を吐き出す能力」と「ランダム回路サンプリング(RCS)+XEBスコアによる検証」を組み合わせることで、古典計算での偽装がほぼ不可能な乱数が本当に得られていると実証しています。 

この成果の応用範囲は広大です。

暗号、オンライン抽選、電子投票など、誰もがアクセスでき、誰にもごまかされない乱数が求められる場面での利用が期待されます。

量子ゲートの精度や実行速度を数値化する指標(XEBスコア)のおかげで、量子コンピュータがどの程度理想通りに動いているかを定量的に把握できるのもメリットです。

さらにビット数が増えたりエラー訂正技術が進めば、より大規模な乱数生成や、他の量子アルゴリズムへ展開が進む可能性があります。

また、この研究は「量子コンピュータが古典コンピュータをどこまで上回れるのか?」という根源的な問いにも新たな視点を与えます。

世界最速クラスのスーパーコンピュータを動員しても、わずかな時間で量子の結果をそっくり再現・偽造するのは難しいと示された一方で、古典シミュレーションも進歩が早いため、将来的により強力なアルゴリズムが登場すれば、新たな議論が巻き起こるかもしれません。 

さらに遠隔操作という面でも大きな前進がありました。

「本当に量子計算しているの?」という不安は、離れた場所の装置を使う際に必ずつきまとうものです。

しかし今回の研究は、大規模検証システムを組み合わせれば、量子の動きをある程度保証できる具体的な例を示しました。

最適化によって短時間・少ないリソースで安全な乱数を作れる未来もありますし、スケールアップにより「56量子ビット」以上の回路を扱えるようになれば、さらに強度の高い乱数を生み出せるでしょう。

最終的に、この論文が示唆するのは、「量子力学がもたらす完璧なランダム性を、第三者が厳しくチェックしながら社会で利用できる時代が近い」ということです。

暗号やオンライン取引など重要分野への応用が期待されるのはもちろん、“量子技術が日常に入り込む未来”をぐっと引き寄せる、非常に大きな一歩といえます。

課題はまだありますが、この先の技術進化によって、量子コンピュータが“誰にも予測できない乱数”をより手軽かつ強固に提供する日がやってくるかもしれません。

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元論文

Certified randomness using a trapped-ion quantum processor
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08737-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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