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「火星が赤い理由」人類がずっと勘違いしてた可能性!?単なる酸化鉄じゃなかった


火星の赤い砂塵の主成分が従来考えられていた酸化鉄ではなく、「フェリハイドライト(ferrihydrite)」である可能性が最新の研究で示されました。この発見により、火星が過去に予想よりも長期間にわたって湿潤な状態であったことが示唆され、火星の気候史の再評価が求められています。フェリハイドライトは水と鉄が結びついた鉱物であり、地球上ではしばしば微生物活動によって形成されることが知られています。このため、火星にフェリハイドライトが存在することで、生命活動の痕跡を含む可能性があり、今後の生命探査に新たな視点を提供します。この研究が実証されれば、火星の砂塵は生命の可能性を探索する重要な対象となるかもしれません。

火星の表面が赤い理由について、これまでの定説では無水のヘマタイト(酸化鉄)によるものと考えられていました。

この場合の火星の歴史は、かつて水を持っていたものの、それはかなり古い時代に失われ、その後乾燥し、鉄が酸化して赤い砂塵を形成したというシナリオです。

しかし、最新の研究がこの説に疑問を投げかけました。

火星の赤い砂塵の主成分は、「フェリハイドライト(Ferrihydrite)」である可能性が高いというのです。

この研究は、スイス・ベルン大学やアメリカのブラウン大学などの国際研究チームによって行われ、2025年2月に学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

もしこの仮説が正しければ、火星の環境進化の歴史や生命の可能性についての理解が大きく変わることになります。

目次

  • 火星の赤は単なる酸化鉄ではなかった!?
  • 火星生命探査への新たな展開

火星の赤は単なる酸化鉄ではなかった!?

着陸機パスファインダーが撮影した火星表面/Credit:NASA/JPL-Caltech

これまで火星が赤く見える理由は、酸化鉄の砂塵、つまりは錆びた塵が惑星を覆っているためだと説明されて来ました。

実際、火星に降り立った探査機の映像でも火星表面は荒涼とした赤い荒野が広がっていますが、これは錆を含んだ砂のせいだとされています。

しかし、新たな研究はこれが、酸化鉄ではなくフェリハイドライトという物質の可能性があると報告したのです。

とはいえ、その発見は一体何を意味するのでしょうか?

フェリハイドライトとは水と鉄が結びついた状態で形成される水を含む鉄鉱物(水酸化鉄)で、地球でも湖底の堆積物や温泉地帯、地下水の酸化領域で見つかり、微生物の活動によっても生成されることが知られています。

この鉱物は特に冷たい水がある環境下で急速に形成されるため、火星に水があったときに形成されたはずだと考えられます。

これまでの定説では、数十億年前の火星は温暖で水が豊富に存在していたのものの、その後寒冷化し短期間で蒸発・消失して現在の乾燥した惑星になったと考えられていました。

しかし、フェリハイドライトが火星を覆う砂塵の主成分である場合、火星の水環境は短期間で消えたのではなく、寒冷化後も水の保持された状態が想定よりはるかに長期間維持されていた可能性を示すのです。

この発見は、火星の気候進化の理解を根本から見直す必要があることを示唆しています。

さらに、フェリハイドライトは水と結びついているため、乾燥した環境では徐々に分解し、他の酸化鉄鉱物へと変化する性質を持っています。

もし火星の表面に現在もフェリハイドライトが大量に存在しているなら、それは火星が比較的最近まで水を保持していた証拠になるかもしれないのです。

なぜフェリハイドライトはこれまで見落とされていたのか?

研究室で作られた火星の塵。最終的にフェリハイドライトが最も一致することが判明した。/A.Valantinas,ESA

もしこれが事実なら、なぜ今までずっと勘違いされたまま見落とされていたのでしょうか?

火星の表面にどんな鉱物があるのかを調べるため、科学者たちは「分光学的手法」と呼ばれる技術を使ってきました。

この方法では、火星の表面に当たる太陽光の反射を分析することで、そこにどのような物質があるのかを特定します。

しかし、この方法には弱点があります。

例えば、これまで火星でよく見つかっていたヘマタイト(酸化鉄)は、光を反射する特徴がはっきりしているため、遠くからでも比較的簡単に検出できます。

一方、フェリハイドライトは、結晶になりづらく非常に細かい粒子のまま存在することが多いため、他の物質と混ざり合う形で検出されます。そのため光を反射する特徴がはっきりせず、これまでの技術では識別しにくかったのです。

今回の研究では、より精密な分光分析と実験室での比較を行うことで、従来の方法では見つけるのが難しかったフェリハイドライトの存在を明らかにしました。

では今回の発見によって、火星についてどのように理解の仕方が変わっていくのでしょうか?

火星生命探査への新たな展開

Credit:canva

フェリハイドライトの発見は、火星における生命探査にも新たな展望をもたらします。

これまで、火星に生命の痕跡が存在するとすれば、それは主に堆積岩やクレーターの地層に保存されていると考えられてきました。

しかし、フェリハイドライトは水と結びついた状態で形成されるため、有機物や微生物の痕跡を長期間保持する可能性があります。

実際、地球ではフェリハイドライトが存在する環境から過去の微生物活動を示す有機分子が発見されています。

もし火星のフェリハイドライトにも同様の特徴があるなら、これまでの探査とは異なるアプローチが必要になります。

これまでの火星探査では、堆積岩を中心に分析が行われてきました。

しかし、フェリハイドライトが火星の赤い砂塵の主成分である可能性が高まったことで、砂塵そのものが生命探査の重要な対象となるかもしれません。

砂塵には有機物が含まれている可能性があり、その成分を詳しく分析することで、生命の痕跡がより発見しやすくなると考えられるのです。

NASAやESAが進める次世代の探査ミッションでは、砂塵をより詳しく分析できる装置を搭載することが重要になるかもしれません。

火星の赤い砂塵は生命の鍵となるか?

40億年前の火星の想像図/Credit:ESO,M. Kornmesser/N. Risinger

今回の研究により、火星の赤い砂塵の正体が従来の酸化鉄ではなく水を含むフェリハイドライトである可能性が示されました。

この発見は、火星の過去の環境が従来考えられていたよりも長期間にわたって比較的最近まで水が関与していたことを示す重要な手がかりです。

さらに、フェリハイドライトが生命の痕跡を保存しやすい鉱物であることから、火星探査の焦点が砂塵に含まれる有機物の探索へと拡大する可能性もあります。

今後の研究と探査の進展により、火星の赤い砂塵の中に生命の痕跡が見つかる日が来るのでしょうか?

この仮説を証明するため、NASAやESAの次世代探査機の活躍が期待されます。

全ての画像を見る

参考文献

Have we been wrong about why Mars is red?
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Mars_Express/Have_we_been_wrong_about_why_Mars_is_red

元論文

Detection of ferrihydrite in Martian red dust records ancient cold and wet conditions on Mars
https://www.nature.com/articles/s41467-025-56970-z

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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