なぜかドラマや映画に登場する「不良少年」ほど、女性にとって魅力的に見える――そんな現象を一度は耳にしたことがあるかもしれません。
一見すると暴力的で乱暴な振る舞いが目立つのに、その中に垣間見える繊細さやミステリアスな雰囲気によって、つい心を引き寄せられてしまうこともあるでしょう。
実際に、「支配的な男性」に惹かれる心理を研究する分野は長く存在しており、最近では“ロマンティック・パラソーシャル・リレーションシップ(RPSR)”という形で、フィクションのキャラクターに深い恋愛感情を抱く例が注目されています。
ドイツのヴィュルツブルク大学(University of Würzburg)による研究によって、こうした「不良」への憧れが、女性自身の性格特性や恋愛スタイル、そして刺激を求める度合いと密接に関連することが示唆されました。
特に「遊び的恋愛を好む傾向」や「ドキドキする体験を求める感覚」が強い女性ほど、「悪い男」にロマンティックな想いを抱きやすいといいます。
一方で、「相手を助けたい」や「自己愛が強い」といった要素は、予想されたほど大きな役割を果たさない可能性も見えてきました。
しかし男性的な強さや権力、富や名声などの要素は「不良」という要素なしに持っている男性も多く存在するはずです。
にもかかわらずなぜ一部の女性たちはあえて「不良」という属性に惹きつけられるのでしょうか?
研究内容の詳細は『Applied Psychology: Health and Well-Being』にて発表されました。
目次
- 「不良」が魅力的に見えるのはなぜか?
- 実験データで見る“不良”への愛情
- 不良がモテる科学的な理由
「不良」が魅力的に見えるのはなぜか?

女性が「支配的な男性」に惹かれる現象は、文学や映像作品だけでなく、社会心理学の文脈でも以前から注目されてきました。
男性的で支配的かつ魅力的な男性と関係を持ちたいという願望や、物語の途中で「不良少年」や「不良男性」が改心していくのであれば不道徳な行為を容認するという心理傾向は、犯罪者に惹かれる女性を分析した調査でもすでに知られた現象です。
こうした結果は、あえて危険な相手に魅了される女性が、決して特別珍しい存在ではないことを示唆しています。
さらに、不良との関係が女性にとって魅力的な理由の一つとして、“自尊心を高める機会”が何度も得られる点が挙げられます。
自己愛(ナルシシズム)の特性を持つ女性にとっては、こうした関係が一層魅力的に映る可能性があります。
人は他者を助ける行動を通じて自尊心を高めるため、“助けを必要としている人物”として不良や犯罪者を捉える女性ほど、彼らをより強く意識する傾向があります。
物語の中の不良は、往々にして「不遇」や「不運」であることが多く、助けるポイントが数多く存在します。
分かりやすい「助けポイント」としては、「誰も自分のことを理解しようとしてくれない」、「出自のせいで周りから疎まれている」、「怪我を負っても誰も助けてくれない」などが挙げられるでしょう。
実際、犯罪者との交際を調査した研究では、「私が彼を支えている」という充足感を得やすく、通常の関係以上に自尊心を満たしうると報告されています。
社会心理学では、こうした解釈が主流となっています。
さらに、不良の人生において「唯一の女性」であるという感覚も、女性の自尊心を大きく高める要因であることが報告されています。
不良はしばしば力強いだけでなく、独自のポジションや権力を保持している様子が描かれており、そのような人物を「唯一」と特別視することは、女性に優越感と権力感を与える可能性があります。
たとえばヤクザの親分の妻が配下の子分から「アネサン」と呼ばれて特別視されていることは、よく知られています。
この「アネサン」は、組織の運営や抗争の戦力として直接機能していない場合でも、時として大きな影響力を発揮します。
加えて、不良が持つ“自由と冒険”のイメージは、束縛や安定を求めない遊び心ある恋愛スタイル、いわゆる“ルーダス型”とも深く結びつきます。
これは、長期的なパートナーシップよりも、刹那的で刺激的な体験を追い求める人々に好まれるスタイルです。
そのため、不良のような支配的な男性とのスリリングな関係は、高いレベルの刺激を望む女性のニーズを満たすと考えられます。
新しく型破りな相手との出会いや、平均的な生活の中では得られない体験を重ねることで、大きな情熱、感情の起伏、そして強烈な刺激を得られる可能性が高まるのです。
このように、女性が「不良」に心惹かれる根底には、あえて危険や非日常に触れてみたいという強い欲求や、自分自身の価値をより大きく感じたいという動機が潜んでいると考えられます.
ただし、「不良」を好きになる女性の性格特性は十分に解明されておらず、特に非現実のキャラクターに対する研究は限られています。
そこで今回、ドイツのヴィュルツブルク大学は、映画やドラマなどの非現実世界に登場する不良キャラと現実の女性の関係に焦点を当て、調査を行うことにしました。
実験データで見る“不良”への愛情

謎を解明するため、研究者たちはまずオンラインアンケート調査を実施しました。
対象となったのは、実際に「お気に入りの不良キャラ」を挙げることができた女性47名です。
彼女たちには、自己愛(ナルシシズム)、遊び的恋愛観(ルーダス)、刺激追求(センセーション・シーキング)、ヘルパー衝動など、人格特性を測定する質問が行われました。
また、フィクション上のキャラクターに対する一方的な恋愛感情を示す「ロマンティック・パラソーシャル・リレーションシップ(RPSR:以下架空恋愛と表記)」の強さも評価されました。
さらに、「自尊感情(セルフエスティーム)」「自分が持つ力の感覚(パワー感)」「自由度(オートノミー)」「作品視聴後に空想がどれほど続くか(RII)」などの心理的側面についても質問されました。
結果として、特に注目されたのは、「ルーダス型の恋愛スタイル(軽い冒険的な恋愛を好む)」や「新奇性やスリルを求める刺激追求の高さ」を持つ女性ほど、不良キャラへの架空恋愛が強い傾向を示した点です。
これは、普段の生活では得られない刺激や危うさを、フィクションの世界で楽しみたいという欲求が、ドラマや映画に描かれる「危険な魅力」を倍増させるからだと考えられます。
一方で、「助けてあげたい」というヘルパー衝動や、自己愛(ナルシシズム)は、予想ほど大きな影響を及ぼさないことも示唆されました。
さらに、不良キャラへの強い架空恋愛を抱く女性は、「自分が彼の存在を支配しているかのように感じる」や「作品の余韻を何度も空想して楽しむ(RII)」といった側面が強まる傾向も確認されました。
しかし、「自尊感情が劇的に高まる」や「自由度が増す」といった効果は、さほど顕著ではなかったようです。
研究チームは、こうした結果から、「危険な男」に惹かれる要因は、必ずしも「自己肯定感を満たす」や「相手を救いたい」という動機だけでなく、「強い刺激を味わいたい」という欲求と、現実のリスクがないフィクションならではの安全圏が大きく影響しているのではないかと考えています。
不良がモテる科学的な理由
なぜ「乱暴でミステリアスな不良」が女性の心をとらえるのでしょうか?
研究結果を踏まえると、いくつかの心理的メカニズムが複雑に絡み合っていることが見えてきます。
【刺激追求と危険の魅力】
研究で強い相関が確認されたのは、「スリルある体験を求める」いわゆるセンセーション・シーキングの傾向です。
平凡な日常では得難いアドレナリンや興奮を、危険な香りを放つ不良との「疑似関係」から得ようとする心理は、特に冒険好きな女性にとって大きな魅力となります。
フィクションならば現実のリスクは伴わず、実際に傷つく心配も少ないため、「危険な恋」を安全地帯で楽しむことが可能です。
【ルーダス型恋愛観の相性】
「軽いノリで自由に恋愛を楽しみたい」や「深い束縛や責任を負わずにドキドキ感だけ味わいたい」という、いわゆる“ルーダス型”の恋愛スタイルも、不良を好む大きな要因です。
不良という存在は、長期的かつ安定したパートナー像とは正反対のイメージを持ち、非日常的な刺激を得るには格好のキャラクターです。
フィクションの世界という制限があるからこそ、女性は束縛や責任から解放されたまま、恋愛のスリルだけを純粋に追体験できます。
【支配とパワー感の不思議な連動】
実験の結果から、不良キャラへの深いロマンティック・パラソーシャル・リレーションシップ(架空恋愛)を抱く女性は、作品視聴後に「自分が力を持っている」と感じる傾向があることが示唆されました。
これは、乱暴な相手を「私だけが理解している」や「私の存在が彼を変えられる」といった幻想を通じて、ある種の優位性や主導権を感じ取りやすくなるためかもしれません。
さらに、実際の現実関係とは異なり、フィクションなら女性側が一方的に空想をコントロールできるため、「自分は支配的だ」と感じやすい錯覚を抱くのです。

このように不良が女性にモテる理由としては、「強烈な刺激と危うさへの魅力」「束縛や責任から自由な恋愛スタイル」「支配感や優位性の錯覚」といった心理要素が挙げられます。
こうした要素は、現実のリスクがあるリアルな恋愛関係よりも、安全なフィクションの世界だからこそ、より一層楽しむことができるのです。
今回の研究が示唆するように、一部の女性がフィクションに登場する不良に強い恋愛感情を抱く背景には、単に「相手を助けたい」「非行を正したい」という動機だけでなく、刺激追求や冒険的恋愛志向(ルーダス型)といった個人的特性が大きく関係していることがわかりました。
ドラマや映画の中で、暴力的で支配的な面と同時に垣間見える繊細さや優しさという「二面性」が、退屈な日常では味わえないスリルを演出し、女性の好奇心を強くくすぐります。
さらに、フィクションだからこそ得られる「一方的な安全地帯」の存在も見逃せません。
現実の恋愛とは異なり、相手と直接やり取りする必要がないため、女性は不良のキャラクター像を自由に空想し、理想化する余地があります。
そこで「私しか知らない彼の弱さ」という支配的な感覚を得たり、視聴後に妄想を膨らませることで、どこか優位に立った気分を味わえるのです。
もし今、不良に恋をしているのならば、自分自身を見つめ直す良い機会かもしれません。
元論文
The attraction of evil. An investigation of factors explaining women’s romantic parasocial relationships with bad guys in movies and series
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1501809
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部