今のように寒い時期はインフルエンザの流行が気になります。
手洗い・うがいといった基本的な予防策は広く知られていますが、最近の研究によると、なんと「キノコ」がインフルエンザ対策になる可能性があるようです。
カナダ・マギル大学(McGill University)の最新研究で、キノコに含まれる成分「β-グルカン」がインフルエンザウイルスによる肺炎を防ぐ働きをすることが判明したのです。
研究では、インフルエンザ感染前のマウスにβ-グルカンを投与したところ、肺炎の症状が抑えられ、死亡率が大幅に低下しました。
研究の詳細は2025年1月8日付で科学雑誌『Nature Immunology』に掲載されています。
目次
- インフルエンザの本当の敵はウイルスではない?
- キノコを食べるとインフル対策になる?
インフルエンザの本当の敵はウイルスではない?
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インフルエンザといえば、高熱や咳、倦怠感といった症状を引き起こすウイルス感染症です。
毎年多くの人が感染し、重症化すると肺炎を引き起こすこともあります。
しかし実はインフルエンザで最も恐いのは「ウイルスそのもの」ではなく、「体の免疫反応の暴走」であることが分かっています。
人間の体には、ウイルスや細菌が侵入すると、それを排除しようとする免疫システムがあります。
ところが免疫システムが過剰に働くと、自分の体の細胞まで攻撃してしまい、かえって炎症が悪化することがあります。
特にインフルエンザに感染した際に肺で過剰な炎症が起こると、呼吸困難や肺炎を引き起こし、重篤な症状に陥ることがあるのです。
この問題に対処するため、多くの研究者が「免疫反応を適切に調整する方法」を模索してきました。
そして今回、マギル大学の研究チームが注目したのがあらゆるキノコに含まれる食物繊維の一種「β-グルカン」でした。
キノコを食べるとインフル対策になる?
研究チームは今回、マウスを使った実験を行いました。
マウスにβ-グルカンを投与した後、インフルエンザウイルスに感染させ、その影響を分析しました。
その結果、β-グルカンを与えられたマウスは、そうでないマウスに比べて肺の炎症が大幅に軽減され、肺機能が改善し、生存率も向上していたのです。
この結果は、β-グルカンが単に「免疫を強化する」のではなく、「免疫のバランスを調整する」働きを持つことを示しているといいます。
特に、免疫細胞の一種である好中球の働きをコントロールし、過剰な炎症を抑制することが分かりました。
さらに驚くべきことに、β-グルカンを摂取したマウスでは、その効果が最長1カ月も持続していたのです。
これはβ-グルカンが免疫細胞を「再プログラム」し、持続的に適切な免疫応答を維持させる可能性を示唆しています。
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今回の研究は、まだ動物実験の段階であり、ヒトでの効果は今後の研究で明らかにする必要があります。
それでもβ-グルカンが免疫システムにポジティブな影響を与えることは、すでに多くの研究で確認されています。
例えば、オーツ麦や大麦などの穀物にも含まれるβ-グルカンは、腸内環境を整えたり、免疫機能を向上させたりする効果があることが知られています。
これらのことから、日常的にキノコを食べることで、体の免疫バランスを整え、インフルエンザの重症化を防ぐ可能性があると考えられます。
もちろん、インフルエンザワクチンや基本的な感染対策を怠らないことも重要です。
しかし、日々の食事にキノコを取り入れることで、健康をサポートできるかもしれません。
これからの寒い季節、食卓にキノコを取り入れてみてはいかがでしょうか?
参考文献
Common Mushroom Fiber May Protect Against Flu, Study Finds
https://www.sciencealert.com/common-mushroom-fiber-may-protect-against-flu-study-finds
New discovery could help protect against influenza
https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/new-discovery-could-help-protect-against-influenza-363625
元論文
β-Glucan reprograms neutrophils to promote disease tolerance against influenza A virus
https://doi.org/10.1038/s41590-024-02041-2
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部