毎朝コーヒーを飲む人は多いでしょう。
しかし、そのカフェインが虫にとっては命取りになるようです。
岡山大学の最新研究で、特定の虫にカフェインを与えると寿命が著しく短くなることが判明しました。
使い方次第では、カフェインが有効な殺虫剤となるかもしれません。
研究の詳細は2025年2月10日付で科学雑誌『Applied Entomology and Zoology』に掲載されています。
目次
- カフェインに殺虫効果はあるのか?
- どのくらいのカフェインが致死量となるのか?
カフェインに殺虫効果はあるのか?
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私たちにとってカフェインは、眠気を覚ましたり、集中力を高めたりする馴染み深い成分です。
しかし昆虫にとってはまったく違う影響を及ぼします。
過去の研究では、ミツバチが少量のカフェインを摂取すると記憶力が向上し、採餌行動が活発になりました。
その一方で、昆虫によっては同じカフェインが寿命を縮めるという報告もあります。
例えば、ショウジョウバエにカフェインを与えた研究では、高濃度のカフェインが寿命を短縮することが示されていました。
このようにカフェインが昆虫に与える影響は種によって異なるため、害虫駆除(例えば、コーヒーの抽出液の散布など)に利用できる可能性があるのではないかと考えられていたのです。
そこで岡山大学の研究チームは、ハエの一種であるヒロズキンバエ(学名:Lucilia sericata)にカフェインを与え、その影響を詳細に調べることにしました。
どのくらいのカフェインが致死量となるのか?
研究チームは、ヒロズキンバエの成虫にカフェインを混ぜた砂糖水を与え、寿命や行動の変化を測定しました。
カフェインの濃度は5種類(2%、1%、0.5%、0.05%、0.01%)を設定し、コントロール群(カフェインなし)と比較しました。
その結果、
- 0.5%以上のカフェインを摂取した個体は、7日以内にすべて死亡
- 0.05%以下の濃度では、寿命への影響はほとんど見られなかった
- カフェインを摂取した個体は活動量が減少し、体内の脂肪量も低下していた
特に0.5%以上のカフェインでは、ハエのエネルギー代謝が大きく変化し、寿命が極端に短くなることが明らかになりました。
このことは、カフェインが単なる神経刺激物質としてではなく、ある種の昆虫にとっては毒性を持つ可能性があることを示唆しています。
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この研究結果は、カフェインが害虫駆除の新しい手段として活用できる可能性を示唆しています。
現在の害虫駆除では、化学農薬が主流ですが、それらは環境負荷が高く、人体にも影響を及ぼすリスクがあります。
一方、カフェインは自然由来の成分であり、適切な濃度で使用すれば、安全性が高い可能性があります。
例えば、カフェインを含んだ誘引剤を使い、特定の害虫だけを駆除する方法が考えられます。
しかし今回の研究は室内実験であり、実際の農業環境でどれほど効果があるのかはまだ不明です。
またカフェインがハエ以外の昆虫や生態系に与える影響も慎重に調査する必要があります。
今回の研究により、カフェインが特定の昆虫に対して強い毒性を持つことが明らかになりました。
カフェインが眠気覚ましとして私たちに恩恵をもたらす一方で、昆虫にとっては死を招く可能性があるのです。
将来的には、カフェインを活用した害虫駆除が実現するかもしれません。
次にコーヒーを飲むとき、あなたのカップの中のカフェインが、昆虫にはどのような影響を与えるのか、ちょっと考えてみるのも面白いかもしれませんね。
参考文献
カフェインの殺虫効果を実証~飲んだ昆虫は死ぬ~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1350.html
元論文
Effects of caffeine on the longevity and locomotion activity of the common green bottle fly, Lucilia sericata (Diptera: Calliphoridae)
https://doi.org/10.1007/s13355-025-00893-0
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部