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死刑囚の食事に「寄生虫」を仕込み、体内にいるときの生態を調べたヤバイ医者


寄生虫は多くの人に恐怖を抱かせますが、その研究の歴史には大胆な実験が含まれています。ドイツの医師フリードリヒ・キュッヘンマイスターは、死刑囚に無断でサナダムシを食べさせてその生態を調査しました。一方、アメリカの医師クロード・バーロウは自ら寄生虫を飲み込んで研究しようと試みましたが、命の危機に瀕しました。しかし寄生虫は必ずしも害ばかりではなく、一部は人体に有益な影響を及ぼすこともあるとされています。例えば、寄生虫が免疫反応を調整し、花粉症などのアレルギーを和らげる場合があるといった研究結果もあります。

「寄生虫」

いやはや、なんとおぞましい響きでしょうか。

怖いもの見たさでつい興味を惹かれてしまう生き物ですが、もし寄生虫が自分の体に巣食っていたらと思うとゾッとしてしまいます。

しかし人類が過去に行った寄生虫研究の話を聞けば、さらにゾッとするに違いありません。

今回は死刑囚の食事に寄生虫を仕込んで人間体内にいるときの生態を調べたドイツの医師や、自ら寄生虫を飲み込んで死ぬ寸前に陥ったアメリカの科学者の話を見ていきます。

目次

  • 死刑囚に無断で「サナダムシ」を食べさせた医者
  • 自ら寄生虫を飲んで死にかけたアメリカ人医師
  • 寄生虫で「花粉症」が治った?実は人間の味方かも

死刑囚に無断で「サナダムシ」を食べさせた医者

寄生虫は世界で数百種ほどが知られていますが、中でも一般に広く知られているのが「サナダムシ」です。

サナダムシは平たくて細長いヒモ状の寄生虫であり(和名は真田紐に似ていることに由来)、人間の腸内に長期にわたって留まります。

過去には、35年間にわたって同じサナダムシが寄生していた男性の症例や、最長で39メートルもの長さにまで育ったサナダムシが摘出された例があります。

サナダムシは宿主の体内で1日に数十万個もの卵を産むとされており、宿主はそれに気づかないまま彼らに栄養を与え、ウンチと共に卵を外に排出しているのです。

サナダムシは人体に対してほぼ無害ではありますが、寄生虫に過敏な人は神経障害を起こして重体に陥る危険性もあります。

そして時は1855年、ドイツの医師フリードリヒ・キュッヘンマイスター(1821〜1890)がサナダムシに関して恐ろしい実験を行いました。

彼は以前から「サナダムシがどのような経路で人に感染するのか」に関心があり、「誰かにサナダムシを食べさせて、体内にいるときの生態を調べたい」との危険なアイデアを抱いていたのです。

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フリードリヒ・キュッヘンマイスター/ Credit: en.wikipedia

しかし「俺、サナダムシ食べてもいいよ!」なんて人が都合よく見つかるはずもありません。

途方に暮れていたキュッヘンマイスターでしたが、そこへタイミングよく「死刑囚を実験に使えばいい」との申し出がありました。

「そいつは名案だ」と考えたキュッヘンマイスターは、死刑囚に与えられるソーセージとスープの中にサナダムシの幼虫を仕込んだのです。

自分が実験台にされているとも知らず、その死刑囚は「おい、スープが冷めてるぞ!」と文句を言ったといいます。

それもそのはず、熱々のスープではサナダムシが死んでしまい、せっかくの実験が台無しになるからです。

そして刑の執行後に遺体を解剖してみると、死刑囚の腸内から小さなサナダムシが数十匹見つかりました。

キュッヘンマイスターはさらに数名の死刑囚でも同じ実験を実施。

サナダムシの幼虫入りソーセージを乗せたオープンサンドイッチを食べさて、4カ月後の処刑後に解剖しました。

すると腸内から再び成熟したサナダムシ数匹が見つかったため、これらの観察結果を踏まえて、キュッヘンマイスターは「幼虫に汚染された肉を十分に加熱しないで食べることで、サナダムシに感染する恐れがある」と結論したのです。

「サナダムシ飲んでもいいよ!」という人が現れる、一体なぜ?

そんな中、キュッヘンマイスターが驚いたことに「サナダムシ飲んでもいいよ」と自ら志願する人が意外と多く現れたのです。

実はこれには奇妙な裏があります。

当時から寄生虫に感染した人は往々にして痩せていることが多く、ここから人々は「きっと寄生虫がお腹の中で人の食べたものを掠(かす)め取っていくからだ」と誤った迷信を信じたのです。

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サナダムシを宣伝する食料品広告/ Credit: en.wikipedia

この発想の背景には「貧乏人はみんな痩せ細っている。貧乏人のほとんどは寄生虫に感染している。寄生虫に感染すれば痩せる」というおかしなロジックがありました。

実際に19世紀イギリスでは、スタイルを気にする女性向けに「サナダムシ・タブレット」なるものが売り出されていたといいます。

このような奇妙な俗説のおかげで、キュッヘンマイスターは実験台を手に入れることができましたが、歴史の中には自ら寄生虫を飲み込んで死にかけた科学者もいるのです。

自ら寄生虫を飲んで死にかけたアメリカ人医師

アメリカ人医師のクロード・バーロウはキュッヘンマイスターとは違い、自らの体を実験台にしたことで知られます。

1944年、彼が赴任していたエジプトで「住血吸虫」という寄生虫が猛威をふるっていました。

住血吸虫症は世界で最も感染者の多い寄生虫感染症のひとつであり、今でも世界に2億人以上の患者がいます。

これにかかると、発熱や下痢、じんましん、血尿の他、お腹が太鼓のように膨れる腹水症状が見られます。

住血吸虫は淡水の巻き貝を中間宿主として成長し、住血吸虫に汚染された水田などに入ると人に感染します。

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住血吸虫症にかかった少年の腹水/ Credit: ja.wikipedia

当時は戦争の真っ最中だったため、アメリカ軍は海外に派遣された兵士が住血吸虫を自国に持ち込まないか非常に懸念していました。

そこでバーロウは住血吸虫がアメリカの淡水にいる巻き貝にも感染しうるかどうかを調べようと考えます。

もしアメリカの巻き貝にも感染できるなら、住血吸虫がアメリカに定着し、人々にも蔓延する可能性があるからです。

ところがアメリカの巻き貝をエジプトに輸送しようとしても、そのほとんどが旅の途中で死んでしまうことがわかりました。

巻き貝を運べないのなら、住血吸虫の方をアメリカに運ぶしかありません。

住血吸虫を運ぶには何かに寄生させておく必要があります。

そこでバーロウは自らの体を寄生虫の方舟にしたのです。

アメリカ軍の医師団は「危険すぎるから、やめておけ」とバーロウに釘を刺しました。

住血吸虫症にかかると、激しい赤痢や貧血、衰弱を引き起こすだけでなく、日ごとに大量の卵を産みつけるので、それが体内に溜まって炎症を起こすからです。

炎症がひどくなると臓器に必要な血流が阻害され、命を失う危険まで出てきます。

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クロード・バーロウ/ Credit: BioOne –Claude Barlow: A History of Self-Experimentation(2023)

それでもバーロウはまったく怯みませんでした。

3週間かけて住血吸虫を4回飲み込み、アメリカ行きの飛行機に搭乗。

その時点ですでにバーロウの体には異変が起こっており、大量の汗と目眩のほか、食欲もなくなっていました。

アメリカに着いてからは血尿と下血が始まり、耐え難いほどの痛みを伴う膀胱炎を発症。

20分おきに排尿しなければならず、ほとんど眠れなくなりました。

さらに40度の高熱が続き、バーロウの体からは1日に1万2000個もの卵が排出されたとのことです。

もはや研究どころではなく、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていました。

バーロウはついに薬による治療を始め、なんとか一命を取り留めたものの、完全に弱り切ってしまい、実験は断念してしまったようです。

ここまでの話を聞くと、多くの方は「なんて恐ろしい、寄生虫なんて絶滅すべきだ!」と思われるかもしれません。

しかし寄生虫の大半は無害であり、なんなら中には人体にとって有益なものもいるのです。

寄生虫で「花粉症」が治った?実は人間の味方かも

寄生虫は何万年にもわたって人類と共生してきました。

考えてみれば、寄生虫とはその名の通り、宿主の体を間借りする居候(いそうろう)なわけですから、借家をメチャクチャにしてしまっては自分たちも絶滅してしまうだけでしょう。

なので寄生虫にとっては宿主に健康でいてもらった方がいいわけです。

実際に人体に対して悪さをする寄生虫は一部であり、そのほかの大半はほとんど無害か、むしろ宿主を健康にしてくれる場合もあります。

例えば、これまでの研究で、寄生虫は人々の体内炎症やアレルギー反応を緩和してくれることが示されています。

炎症やアレルギーは普通、人体の過剰な免疫反応によって引き起こされるものですが、この免疫システムが過度に働いてしまえば、寄生虫までもその攻撃目標になってしまいます。

そこで寄生虫は宿主の免疫反応を弱めることで体内で生き延びるのですが、これが体内炎症やアレルギーを緩和してくれる引き金となるのです。

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鉤虫/ Credit: en.wikipedia

実際、イギリスのある医学研究所では、花粉症持ちが意図的に鉤虫(こうちゅう)を体内に取り込んだところ、花粉症の症状が軽減されたことが報告されています。

そして寄生虫を体内から排除すると、再び花粉症はひどくなり始めたのです。

これ以外にも、糖尿病になりやすくしたマウスに住血吸虫の抽出物を与えたところ、糖尿病を発症しなくなったりとか、アフリカ人集団を対象とした研究で、住血吸虫の感染者は糖尿病やリウマチを滅多に発症しない証拠などが見つかっています。

寄生虫は何かと悪者に見られがちですが、場合によっては私たちの強い味方になってくれるのです。

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参考文献

In 1944 A Physician Infected Himself with Parasites for Research
https://journal.medizzy.com/in-1944-a-physician-infected-himself-with-parasites-for-research/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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