かつて世界第4位の広さを誇った湖「アラル海(Aral Sea)」。
しかし、現在ではそのほとんどが干上がり、「アラルクム砂漠」と呼ばれる荒涼とした土地に変わり果てています。
なぜこのような事態が起こったのでしょうか?
アラル海の縮小の原因とその影響について解説します。
目次
- 世界第4位の「アラル海」の縮小とその原因
- 砂漠化したアラル海がもたらす悲惨な影響
- 元に戻らない「アラル海」の未来への警鐘
世界第4位の「アラル海」の縮小とその原因
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アラル海は、中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンの間に位置する内陸湖です。
かつては約6万8000平方キロメートル以上の湖沼面積を誇り、日本の東北地方とほぼ同じ大きさでした。
世界第4位の湖だったアラル海は豊かな漁場として栄えていました。
1950年代までは、アラル海流域には300種類以上の植物、319種の鳥類、70種の動物が生息していました。
また、34種の魚が生息し、年間漁獲量は約6万トンでした。
アラル海周辺では、多くの人々が湖の恵みを受けて生活していたのです。
しかし、1960年代にソビエト連邦が行った大規模な灌漑(かんがい)事業が、アラル海の運命を変えました。
ソ連は、中央アジアの乾燥地帯に大規模な綿花栽培を導入し、そのためにアラル海へ流れ込む二大河川、アムダリヤ川(Amu Darya)とシルダリヤ川(Syr Darya)の水を灌漑用に大量に使用しました。
その結果、湖へ流入する水量が激減し、湖の水位は急速に低下。
1980年代にはすでに湖の半分以上が消失し、2000年代には90%以上の水が失われました。
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この動画からも、アラル海がどれほど急速に縮小していったかが理解できます。
現在アラル海は、僅か数カ所の小さな湖へと別れており、約8000平方キロメートルしかありません。
では、このような変化は生態系や人々にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。
砂漠化したアラル海がもたらす悲惨な影響
アラル海の縮小により、大量の水は無くなりました。
そして残ったのは真っ白な海底であり、その干上がった部分は「アラルクム砂漠」と呼ばれています。
かつて多くの船が渡った場所を、今はラクダが歩き回っているのです。
当然ながら、こうした変化は、周辺環境に多方面で深刻な影響を及ぼしました。
まず、生態系の崩壊が顕著であり、かつてこの湖に生息していた魚のほとんどが絶滅しました。
アラル海周辺に生息していた鳥や動物の半数も、消滅もしくは別の地域へ移動してしまいました。
また、湖の消失により地域の湿度が著しく低下し、気候の変化が加速しました。
夏は極端に暑く、冬の寒さは一層厳しくなり、地域の農業生産に深刻な影響を及ぼしました。
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さらに、干上がった湖底は塩分を多く含む粉塵を発生させ、砂嵐が頻発するようになりました。
この粉塵には過去に使用された農薬や有害化学物質も含まれており、それが大気中に拡散することで、周辺住民の健康にも悪影響を及ぼしています。
健康被害としては、呼吸器疾患やアレルギー症状が増加し、さらにはがんの発生率も上昇していることが報告されています。
これらの影響は、湖周辺だけにとどまらず、遠く離れた地域にまで及んでおり、アラル海の縮小が広範囲な環境問題を引き起こしていることが明らかになっています。
加えて、経済的な側面からもアラル海の消滅は地域社会に深刻な問題をもたらしました。
漁業の崩壊と農業の不振により、多くの住民が生計を立てる手段を失い、都市部への移住を余儀なくされています。
その結果、地域社会の人口が減少し、社会的な不安定要因となっています。
アラル海の縮小により、年間1億ドルの経済損失が発生しているとも推定さています。
このように、アラル海の縮小は単なる水位の低下ではなく、周辺地域の生活環境そのものを大きく変えてしまったのです。
では、アラル海の問題は今後も大きくなっていくばかりなのでしょうか。
元に戻らない「アラル海」の未来への警鐘
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近年、カザフスタン政府は、分裂したアラル海の1つである「小アラル海」を復活させるためのプロジェクトを開始しています。
全長13キロメートルのコカラル堤防を建設し、シルダリヤ川の水が大アラル海に流出しないようにしたのです。
これにより、小アラル海では部分的な水位回復に成功しています。
またウズベキスタン政府は、砂漠に強い樹種を植えるなど、植林活動を強化しています。
アラル海を元に戻すことは難しいので、せめて砂漠化の悪影響に対処しようとしているのです。
このように、アラル海を再生したり、問題に対処したりするための取り組みは行われていますが、アラル海全体を元に戻すのは現実的に非常に難しいと言えます。
この問題から学べる教訓は、適切な水資源管理の重要性です。
アラル海の悲劇を繰り返さないためにも、持続可能な水資源管理がいかに大切か、私たちは改めて考えるべきでしょう。
かつての湖が消えたという事実は、未来の環境問題への警鐘でもあるのです。
参考文献
Report Reveals World’s Fourth Largest Lake Now a Deadly Desert
https://www.sciencealert.com/report-reveals-worlds-fourth-largest-lake-now-a-deadly-desert
Central Asia Confronts Environmental Crisis as Aral Sea Dries Up
https://caspianpost.com/environment/central-asia-confronts-environmental-crisis-as-aral-sea-dries-up
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部