「イルカが逆さまになり、空中に向かってオシッコする」
そんな奇妙な習性がカナダ・トレント大学(Trent University)らにより新発見されました。
このおかしな行動をとっていたのは、南米のアマゾン川に暮らす「アマゾンカワイルカ」のオスです。
彼らは一体何をしているのでしょうか?
研究の詳細は2025年1月27日付の科学雑誌『Behavioural Processes』に掲載されています。
目次
- 逆さまになって空中にオシッコの虹を描く
- なぜ空中放尿をするのか?
逆さまになって空中にオシッコの虹を描く
アマゾンカワイルカ(学名:Inia geoffrensis)は南米の淡水系に生息するイルカの一種です。
成体の体長はオスで約2.8メートル、メスで約2.3メートルに達し、体重は約100〜160キロになります。
餌は川底にいるカニや小魚、カメなどで、普段は単独ないし2頭のペアで行動することが多いです。
またアマゾンカワイルカは、海洋のイルカとは違って独特な習性を持つことで知られています。
例えば、頭に草や枝を載せて遊んだり、ヘビなどの生物を性玩具にしたりするのです。
しかしその中でも特に異質な習性が新たに発見されました。
研究チームはアマゾンカワイルカの群れを長期(約220時間)にわたって観察。
その中で、いくつかのオスが逆さまになってペニスを水面に突き出し、空中に向かってオシッコする行動が見つかったのです。
調査中だけでも計36回の空中放尿が見られ、たまたまやっているわけではないことは明らかでした。
そのときの実際の映像がこちらです。(※ 音量に注意してご視聴ください)
アマゾンカワイルカのオスはゆっくりと仰向けになり、水面上にペニスを露出させ、黄金色の弧を描くようにオシッコしています。
そして特筆すべきは、空中放尿をするオスの近くにはほとんど決まって別のオス個体が付き添っていたことです。
さらに彼らは仲間のイルカのオシッコを興味深げに観察し、場合によっては吻部(ふんぶ:口先の部分)を尿の落下地点へ近づけて触ったりしていました。
私たち人間も幼い頃は友だちと一緒に立ちションをすることくらいあるでしょうが、さすがに友だちのオシッコに触ることまではしません。
一体カワイルカたちは何をしているのでしょうか?
なぜ空中放尿をするのか?
研究チームは、空中放尿が単なる排泄行動ではなく、他のオスとの社会的なコミュニケーションの一環である可能性が高いと話します。
彼らの仮説によれば、アマゾンカワイルカのオスたちは尿に含まれる化学物質を利用して、互いの情報を読み取っているのではないかという。
アマゾンカワイルカは嗅覚や味覚があまり発達していませんが、その代わりに吻部には微細な剛毛が生えており、これが化学物質を検知するセンサーの役割を果たしています。
つまり、彼らは空気中や水面に落ちる尿を「嗅ぐ」のではなく、「触れる」ことで相手の健康状態や社会的地位などを感じ取っている可能性があるのです。
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これまでの研究で、動物界における放尿行動は仲間とのコミュニケーションやメスへのアピールに役立つことが示されてきました。
犬やオオカミはおしっこでマーキングすることで縄張りを主張しますし、オスのヘラジカを自分の体に尿を撒き散らすことでメスにアピールします。
アマゾンカワイルカも同じように、自らの尿を使って他のオスに自分の状態を伝えたり、優位性を示したりしているのかもしれません。
とはいえ、アマゾンカワイルカのオスたちが空中放尿をする正確な目的や、どうしてこの行動にメスはほとんど関わらないのかなど、解明されていない点は多々あります。
カワイルカたちのオシッコには「隠れたメッセージ」がまだまだありそうです。
参考文献
Male Amazon river dolphins pee into the air, confusing scientists
https://www.popsci.com/environment/amazon-dolphin-pee/
Some dolphins pee up into the air and we’ve only now learned this
https://www.zmescience.com/science/news-science/some-dolphins-pee-up-into-the-air-and-weve-only-now-learned-this/
元論文
Aerial urination suggests undescribed sensory modality and social function in river dolphins
https://doi.org/10.1016/j.beproc.2025.105149
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部