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「粘着力じゃない」サンショウウオが壁に貼り付ける不思議な仕組みを解明!


アメリカのカリフォルニア州とオレゴン州の森に生息するハイカイキノボリサンショウウオは、血液の流れを利用して樹木を登る独自の方法を持っています。ワシントン州立大学の研究チームは、このサンショウウオが血液を指先に流し込むことで接地面積を調整し、より強固なグリップ力を確保することを発見しました。これは、ヤモリやカエルの粘着性の足裏とは異なる新しい登攀メカニズムです。この発見は、ロボット工学や医療技術に活用が見込まれ、より適応性の高いクライミングロボットや義肢開発への応用可能性があります。

壁や木の幹を自在に登る生き物といえば、ヤモリやカエルを思い浮かべるかもしれません。

彼らは「微細な毛」や「粘着性の足裏」によって、壁登りを可能にしているのです。

しかし、アメリカ西海岸の森に生息する「ハイカイキノボリサンショウウオ(学名:Aneides vagrans」は、それらとはまったく異なる方法で樹上を移動していることが判明しました。

ワシントン州立大学(Washington State University)のクリスチャン・E・ブラウン氏ら研究チームは、このサンショウウオが「血液の流れを利用して指先のグリップ力を調整している」ことを発見しました。

これは、従来知られていたヤモリやカエルとはまったく異なる、新たな登攀メカニズムの発見です。

この研究の詳細は、2025年1月29日付の『Journal of Morphology』誌に掲載されました。

目次

  • 壁を登るサンショウウオ
  • 指先の血液量が変化することでグリップ力を調整していた

壁を登るサンショウウオ

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木を楽々登ることができるハイカイキノボリサンショウウオ / Credit: Christian Brown(Washington State University)_Blood-powered toes give salamanders an arboreal edge(2025)

ハイカイキノボリサンショウウオ(学名:Aneides vagrans)は、北アメリカのカリフォルニア州やオレゴン州の巨大なセコイアの森に生息しています。

特に驚くべきは、地上から最大88メートルもの高さの樹冠で生活できることです。

このような環境では、強い風や急な木の表面を克服するために、高度な登攀技術が必要です。

では、このサンショウウオはどのようにして樹木を登っているのでしょうか。

私たちの身近に存在する生物は、さまざまな方法で壁を登ります。

例えば、ヤモリは、足裏の微細な毛を利用し、分子間力(ファンデルワールス力)でくっつきます。

またアマガエルは、粘液を分泌することで湿った表面でも滑らずに登ることができます。

クモや昆虫は、小さな鉤爪や粘着パッドを使って登攀することで知られています。

実は、ハイカイキノボリサンショウウオの指には、これらの動物とは異なる特徴があります。

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ハイカイキノボリサンショウウオがどのように壁を登るのか、血液の流れを観察 / Credit: Christian Brown(Washington State University)_Blood-powered toes give salamanders an arboreal edge(2025)

これまでの研究では、ハイカイキノボリサンショウウオの指先は四角形をしており、他のサンショウウオよりも広がった形状を持つことが知られていました。

また、指先に血液が溜まりやすい構造になっていることも確認されていましたが、その機能は明らかになっていませんでした。

そこで研究者たちは、このサンショウウオの指先に隠された秘密を探るため、以下の方法で実験を行いました。

まず、サンショウウオの標本を利用し、その指を細かく切り出し、特殊な染色技術で血管を可視化しました。

また、生きたサンショウウオを透明なアクリル板の上で歩かせ、カメラで指先の血流を撮影。

画像処理ソフトを使用し、指先の「赤み(血流)」を数値化することで、血流がどのように壁登りと関係しているか分析しました。

指先の血液量が変化することでグリップ力を調整していた

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血洞に血を流し込んで指先の形を変化せる / Credit:Christian Brown(Washington State University) et al., Journal of Morphology(2025)

実験の結果、サンショウウオの足の指先には「血洞」と呼ばれる空間があり、そこに血液を流し込んだり排出したりすることでグリップ力を調整していることが判明しました。

具体的には、登る時に血液が減少し、指先が柔軟になって木の表面の凹凸にフィットすることで、より強固なグリップを確保できると分かりました。

この時、指先の皮膚と筋肉は柔軟性を増し、より多くの接触面積を確保することで摩擦力が最大化します。

一方で、指先が木の表面から離れる時には、血液が急激に流れ込み、血洞が拡張することで指先がわずかに膨張します。

その結果、指先の接触面積が減少することで摩擦力が低下。サンショウウオはスムーズに足を離すことができるのです。

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ハイカイキノボリサンショウウオは指先に血を送り込むことで、壁に対する接着力を調整していた / Credit:William P. Goldenberg_Blood-powered toes give salamanders an arboreal edge(2025)

通常、動物たちはグリップを強化するために筋力や特殊な粘着機構を使いますが、サンショウウオは逆に、足を離すときに血液を流し入れるという独特な方法を採用しています。

これは、離脱を効率化する新たな生物学的戦略であり、エネルギーの節約やスムーズな移動に寄与している可能性があります。

そして、この発見は、ロボット工学や医療技術にも応用できる可能性があります。。

例えば、クライミングロボットへの応用です。

現在のクライミングロボットは、吸盤や機械的な鉤爪を使って登攀します。

もし、サンショウウオの血液洞システムを模倣すれば、より滑らかで適応性の高いロボットを作ることができるかもしれません。

また、義手・義足に血洞のメカニズムを取り入れることで、「柔らかく持つ」「力強くつかむ」「スムーズに離す」といった動作が可能になるかもしれません。

ハイカイキノボリサンショウウオの「血流を操る力」は、きっと私たちに新たな技術をもたらすはずです。

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参考文献

Blood-powered toes give salamanders an arboreal edge
https://news.wsu.edu/press-release/2025/01/29/blood-powered-toes-give-salamanders-an-arboreal-edge/

Take a back seat, gecko feet – blood-pumping salamander toes get a great grip
https://newatlas.com/science/salamander-toe-tips-blood-grip/

元論文

Vascular and Osteological Morphology of Expanded Digit Tips Suggests Specialization in the Wandering Salamander (Aneides vagrans)
https://doi.org/10.1002/jmor.70026

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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