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本能が恐怖を感じる仕組み「イモリをヘビ柄にすると生物は脅威を感じる」


名古屋大学の研究によると、ヘビが脅威と認識されるのは、ウロコの存在が大きな要因であることが明らかになりました。サルを対象に行われた実験では、イモリにヘビのウロコを貼り付けると、サルは通常のイモリよりも迅速にそれを脅威として認識したことが示されました。これは、人間やサルが霊長類の祖先から遺伝的にヘビの恐怖を受け継いでおり、特にウロコを脅威の基準としている可能性を示唆しています。研究内容は科学雑誌『Scientific Reports』に2024年11月10日付で掲載される予定です。

人混みの中にあっても「怖そうな人」にはすぐ気づけることがよくあります。

そんなとき、皆さんは何を目印に怖そうな人を見分けているでしょうか?

おそらく、いかついサングラスやタトゥー、奇抜な髪色、咥えタバコなどでしょう。

このように私たちは何らかの目印をヒントに「脅威の対象」を即座に検出できる本能があります。

そして名古屋大学の最新研究によると、ヘビの脅威の目印はぬるっとした見た目でも、うねうねした動きでもなく、ヘビのウロコ皮であることが明らかになりました。

サルを対象にした実験では、ヘビとイモリの写真を同時に見せるとヘビの方が早く見つけられましたが、イモリにヘビ皮を着せてみると、ヘビと同等かそれ以上に早く見つけられるようになったのです。

その興味深い実験の様子を見てみましょう。

研究の詳細は2024年11月10日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • 「ヘビが怖い」は生まれつき備わった本能
  • イモリにヘビ皮を着せると「脅威」と認識された⁈

「ヘビが怖い」は生まれつき備わった本能

弱肉強食の自然界を生き残るためには、脅威となる対象をすぐに見つけられる能力が不可欠です。

そのため、野生生物たちは自分たちにとって危険な相手を即座に検出できるようになりました。

その能力は私たちヒトにも受け継がれています。

人類は高度な都市社会を築く中で、天敵とほとんど遭遇しない環境を作り上げてきましたが、それでも尚、世界各地では野生生物による死傷者が続出しています。

中でも危険な動物のひとつが「ヘビ」です。

ヘビは蚊や寄生虫、そしてヒトを除けば、最も多くの人命を奪っている生物の一種であり、WHO(世界保健機関)によると、ヘビに噛まれたことが原因で死亡する人は毎年8.1万〜13.8万人いるという(WHO report)。

そのため、ヘビは間違いなく私たちにとって脅威の対象となっています。

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ヘビはヒトにとって脅威の存在/ Credit: canva

それは霊長類の仲間であるサルにとっても同じことです。

サルの祖先は恐竜亡き後の約6500万年前から樹上での生活を始め、地上を闊歩する大型の捕食者から安全に暮らすことができました。

しかしその中にあって唯一、樹上のサルの祖先を狙うことができたのがヘビでした。

それ以来、長きにわたるヘビの恐怖は霊長類の祖先のうちにしっかりと植え付けられ、それが現在のサルやヒトにも受け継がれていると考えられています。

実際、これまでの研究でも、本物のヘビを見たことのないサルは他の動物の写真よりもヘビの写真をいち早く見つけることができ、生後6〜11カ月のヒトの赤ちゃんもヘビの写真を見せられると顕著な脳波を示すことがわかっているのです。

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ヘビのどこを見て「怖い」と感じるのか/ Credit: canva

つまり、サルとヒトは大人たちからヘビの怖さを教わったり、ヘビに噛まれた経験からヘビを脅威と認識するのではなく、遺伝的に「ヘビが怖い」と感じる本能を生まれつき持っているのです。

ところがその一方で、サルやヒトが具体的にヘビのどこを目印に脅威と感じているのかは不明でした。

ヘビに特有のぬるっとした姿形なのか、うねうねした動きなのか、はたまたヘビのウロコなのか。

過去のいくつかの研究は「ウロコを脅威の手がかりにしている」ことが示唆されていますが、確かな証拠はありません。

そこで研究チームは今回、飼育下にあるサルを対象に実験を行うことにしました。

イモリにヘビ皮を着せると「脅威」と認識された⁈

この研究では、本物のヘビを見たことがない3頭のサル「シバ・ウメ・ペロ」に協力してもらいました。

3頭には用意した9枚の動物写真から1枚だけ異なる写真を選ばせて、その検出にかかった時間を測定します。

まず第一の実験では、8枚のイモリの写真の中に混ぜた1枚のヘビを選ぶ条件と、8枚のヘビの写真に混ぜた1枚のイモリの写真を選ぶ条件を実施し、ヘビとイモリのどちらを先に見つけ出せるかを調べています。

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実験に使用したヘビとイモリの写真/ Credit: Nobuyuki Kawai., Scientific Reports(2024)

その結果、3頭とも圧倒的にヘビを見つける方が早いことが確認できました。

これは3頭のサルが「ヘビ=脅威」であることを本能的に理解していることを示し、過去の研究結果とも一致します。

そこで第二の実験では、イモリの写真に「ヘビのウロコ皮」を合成写真として貼り付けて、先と同様の実験を行いました。

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ヘビのウロコ皮を着せたイモリ/ Credit: Nobuyuki Kawai., Scientific Reports(2024)

その結果、シバとウメはヘビと同等の時間でウロコ皮イモリを検出するようになり、ペロに関してはヘビよりも短時間でウロコ皮イモリを見つけられるようになったのです。

これは3頭のサルがヘビを検出する際の脅威マーカーとして「ウロコ皮」に敏感に反応していることを示すものでした。

今までは何の脅威でもなかったはずのイモリが、ヘビ皮を着せただけで急に脅威の存在に変わったと見られます。

この結果はまだヒトでは確認されていませんが、私たちでも同様の反応を示す可能性が十分にあります。

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左:ヘビとイモリの検出時間(ヘビの方が一貫して早い)、右:ヘビとウロコ皮イモリの検出時間(シバとウメはヘビと同等になり、ペロはヘビよりもウロコ皮イモリの検出の方が早くなった)/ Credit: Nobuyuki Kawai., Scientific Reports(2024)

この結果を受けて研究者は、今年10月28日に惜しくも亡くなられた日本漫画界の巨匠・楳図かずお氏の作品に触れて、次のような面白い見解を述べています。

「ホラーマンガの巨匠、楳図かずおさんの代表作の一つにへび女という作品があります。

そのなかの「ママがこわい」という話の冒頭で、主人公の少女は入院している母から「病院にはへび女がいる」という話を聞きます。

母親はへび女のことを「からだじゅうウロコがはえていて、口が耳もとまでさけて、すごい顔をしているそうよ」と説明します。

単行本の目次ページの背景には一面、ヘビのウロコが描かれています。

楳図さんは、わたしたちがヘビのウロコを怖れるということを無意識のうちに気付いていたのかもしれません

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Credit: 名古屋大学 –ヘビの怖さはウロコのせい!? ~ヘビのウロコを着たイモリは、ヘビと同じかそれより早く見つかる~(2024)

このように私たちはヘビのウロコ皮を脅威の目印にしているようですが、逆にこの知見は私生活に活かせるヒントとなるのではないでしょうか。

例えば、ヘビ柄の服を身につけていれば、街中でも友人にすぐ気づいてもらえたり、愛犬にヘビ柄を着せた写真をSNSにアップすれば、スクロールの中でも人の目にパッと留まりやすくなるかもしれません。

まあ、目に留まったはいいものの「何してんだ、この人は?」と気味悪がられるかもしれませんが…

全ての画像を見る

参考文献

ヘビの怖さはウロコのせい!? ~ヘビのウロコを着たイモリは、ヘビと同じかそれより早く見つかる~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/11/post-751.html

元論文

Japanese monkeys rapidly noticed snake-scale cladded salamanders, similar to detecting snakes
https://doi.org/10.1038/s41598-024-78595-w

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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