「継続は力なり」という言葉は、勉強、ビジネス、スポーツなど、ありとあらゆる場面で通用する格言です。
筋トレの世界も例外ではなく、日々のトレーニングを継続することで、筋肉が成長し、筋力も高まります。
その一方、トレーニングを続けていれば、時にモチベーションを見失うことや、試験勉強など、別に優先順位の高い物事が生じることで、トレーニングを中断したくなることもあるでしょう。
最近、フィンランド・ユヴァスキュラ大学(University of Jyväskylä)の研究グループは、18~40歳の男女を対象にした興味深い実験結果を発表しました。
その実験とは、20週間連続で筋トレを続けるのと、10週間実施して、10週間休んで、10週間また実施するのとでは、トレーニング効果が変わるのかを調べたものです。
実験結果から示唆されたのは、生涯を通じて筋トレの効果を得たい場合、トレーニングを中断する時期があっても、気にする必要がないというものです。
本記事では、この研究成果を詳しく見ていきます。
今回の論文は『Scandinavian Journal of Medicine &Science in Sports』に2024年10月4日付けで公開されています。
目次
- 実験の概要
- マッスルメモリー効果
実験の概要
筋トレは、筋力を高めたり、筋肉を大きくしたりするなど、多様な健康効果をもたらしてくれます。
筋トレを中断すると、得られた効果は徐々に失われますが、およそ4週間未満の中断であれば、トレーニング再開以降の効果に悪影響はなく、また同じように成長できることも示されています。
一方で、1か月を超えるような長期の中断がその後のトレーニング効果に与える影響については、あまり理解されていませんでした。
そこで今回、研究グループは、18~40歳の男女を対象に、20週間トレーニングを継続するグループ(継続実施群)と、途中で10週間の中断を設けるグループ(断続実施群)に分けて実験を実施しました。
実際のトレーニング内容は、週2回の全身法(レッグプレス、ニーエクステンション、ベンチプレス、バイセップスカール、シーテッドロー)で、合計30週間の実験期間中、定期的に筋力や筋肉のサイズを測定しました。
さて、10週間の中断期間を経て再開したグループは、20週間続けたグループと同じように筋肉が成長したのでしょうか?
マッスルメモリー効果
早速主な結果を見ると、筋力、筋肉のサイズともに、最終的なトレーニング効果に両グループ間に有意差は見られず、どちらのグループも同じくらいの成長を遂げていました。
この結果は、20週間連続で実施する(継続実施群)のと、10週間実施して10週間休んで再度10週間実施する(断続実施群)との間で、トレーニング効果が変わらないことを示しています。
研究グループは、この結果が次の理由から重要な知見だと指摘しています。
筋トレの中断は、休暇や旅行、モチベーションの低下など、さまざまな要因によって起こることがあります。
実際、数年前の新型コロナウイルスの流行時には、ジムでのトレーニングが制限され、多くの人が筋トレを中断せざるを得ない状況にありました。
トレーニングの継続は確かに重要ですが、今回の研究結果は、トレーニングが再開される限り、年に一度、10週間といったような中断も、さほど心配する必要がないことを示しています。
ちなみに、断続実施群は最初の10週間で得られた効果を中断期間後に多少失っていたものの、実験開始時よりは成長した状態を維持しており、トレーニング再開5週間後には大幅に回復していたことも判明しています。
この結果は、「マッスルメモリー」と呼ばれる現象で、一度トレーニングを行った筋肉は、中断期間を挟んでもトレーニングの記憶を保持しており、再開後にすぐに成果を得やすいことを示しています。
さて、以前の記事では、完全にやめてしまうよりは、半月に1回でも運動を続けることが大切だと述べました。
一方、今回の研究結果をもとに考えると、長い人生において、1年に1回は2カ月ほど完全にトレーニングをやめてしまうことも、人にとっては合理的な選択肢と言えそうです。
ということで、トレーニングへのモチベーションを見失っている方や、他にやりたいことがある方は、この際思い切って2カ月ぐらい、トレーニングを休んでしまうのも良いのかもしれません。
そういった選択肢をとることで、心と体のリフレッシュを図りながら、また新鮮な気分でトレーニングに取り組むことができるでしょう。
参考文献
Muscle Memory: What It Is, + How It Helps You Build Muscle Faster
https://barbend.com/what-is-muscle-memory/
元論文
Does Taking a Break Matter—Adaptations in Muscle Strength and Size Between Continuous and Periodic Resistance Training
https://doi.org/10.1111/sms.14739
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部