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「ホタルの求愛シグナルをハッキング」釣られたオスを捕食するクモを発見!


ゾッとするような罠をしかけるクモが見つかったようです。

中国・華中農業大学(HAU)はこのほど、東アジアに生息する「オニグモ」が巣にかかったオス蛍をハッキングして、メスの発光シグナルを強制させ、さらなるオス蛍の獲物を誘き寄せている証拠を発見しました。

オス蛍からしてみれば、「おっ、あそこにメスがいる!」と思って近づいてみると、その正体は捕食者のクモだったという、これ以上ない悪夢でしょう。

研究の詳細は2024年8月19日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

 

目次

  • 巣にかかったオス蛍が「メスの光信号」を放っていた?
  • オニグモがオス蛍の発光を「ハッキング」していた!

巣にかかったオス蛍が「メスの光信号」を放っていた?

研究主任のフー・シンファ(Fu Xinhua)氏は、蛍の生物発光による求愛シグナルを調査している昆虫学者です。

同氏はある日の野外調査中、オニグモの巣に引っかかっている蛍の奇妙なパターンに気づきました。

オニグモ(学名:Araneus ventricosus)はコガネグモ科の一種で、日本国内の北海道〜琉球列島まで、国外では中国・台湾・韓国の東アジア圏に分布しています。

体長は2〜3センチ程度で、円形の巣を張って獲物を待ち伏せするのが特徴です。

シンファ氏はオニグモの巣に蛍の一種(学名:Abscondita terminalis)がかかっているのを度々確認しましたが、不思議なことに、そのほとんどすべてがオス蛍だったのです。

同氏はその後も何度か野外調査を重ねたものの、オニグモの巣にメス蛍が引っかかっている例はめったにありませんでした。

「これは何かある… 」と直感したシンファ氏はオニグモの巣を詳しく観察することにします。

オニグモの巣に引っかかったオス蛍
オニグモの巣に引っかかったオス蛍 / Credit: Xinhua Fu et al., Current Biology(2024)

するとさらに奇妙な現象が発見されました。

オニグモの巣に引っかかったオス蛍がなぜかメス蛍に特有の光信号を発していたのです。

蛍のオスとメスは一般に、繁殖パートナーを探す上で互いに光信号で合図を送り合うのですが、このとき、光信号は性別に固有のパターンで発光します。

例えば、今回の蛍(学名:Abscondita terminalis)の場合ですと、オスは腹部にある2つの発光器官を使って、複数の光パルスを連鎖させます。

他方でメスは1つの発光器官を使って単発の光パルスを発することが知られています。

そして蛍の繁殖行動は、オスの方が空中を飛び回って、草むらや葉っぱの上でジッとしているメスの光信号を探す形が基本的です。

これを踏まえると、巣にかかったオス蛍がメスの光信号を放っていたのは明らかに奇妙なことでした。

シンファ氏は「これはオニグモの採餌戦略かもしれない」と考えて、本格的な調査を行いました。

オニグモがオス蛍の発光を「ハッキング」していた!

シンファ氏と研究チームは野外調査で観察された161のオニグモの巣を対象に、捕獲された蛍の性別や数、発光信号、クモの有無などの関連性を調べました。

その結果、クモのいる巣ほど蛍の捕獲率が高く、その蛍の性別はオスであることが確かめられています。

さらにクモのいる巣に引っかかったオス蛍は、メスに特有の発光シグナルを放って、さらなるオス蛍を誘き寄せていることがわかったのです。

一方で、クモのいない巣に引っかかったオス蛍がメスの発光シグナルを使うことはなく、さらなる犠牲者を誘き寄せることもありませんでした。

巣に囚われた2匹のオス蛍
巣に囚われた2匹のオス蛍 / Credit: Xinhua Fu et al., Current Biology(2024)

最も注目すべき発見は、発光しているオス蛍が巣にかかると、クモがすばやく糸でぐるぐる巻きにして、噛みつき攻撃をしていたことでした。

この行動が見られたときに、オス蛍はメスの発光シグナルを必ず放っていたのです。

一方で、元から発光していない停電状態のオス蛍がかかったとき、クモはこの一連の攻撃シークエンスを行いませんでした。

この結果からシンファ氏は、オニグモはすでに発光しているオス蛍であれば、その発光器官をハッキングして、メスの発光シグナルに変えることができるのだろうと結論しています。

そしてそのメスの発光シグナルを使って、さらなる獲物を意図的に誘き寄せていたと考えられるのです。

しかし、発光していないオス蛍を強制的に光らせる術は知らないようです。

オニグモの採餌戦略の図解
オニグモの採餌戦略の図解 / Credit: canva/ナゾロジー編集部

重大な謎として、チームはまだオニグモがオス蛍の発光シグナルをハッキングする仕組みを特定できていません。

現時点では、蛍に注入した何らかの毒素が原因で発光シグナルが変わるか、あるいは噛むこと自体で発光シグナルを変えている可能性が高いと見ています。

これほど高度な採餌戦略をクモが使っていたことは驚くべき発見です。

ただオス蛍の身になってみれば、せっかく求愛相手が見つかったと思ったのに自分が食べられることになるなんて、ゾッとするしかないでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

Spider Species Uses Male Fireflies as Ghastly Puppets to Seduce Its Prey
https://www.sciencealert.com/spider-species-uses-male-fireflies-as-ghastly-puppets-to-seduce-its-prey

Spider exploits firefly’s flashing signals to lure more prey
https://www.eurekalert.org/news-releases/1054078

元論文

Spiders manipulate and exploit bioluminescent signals of fireflies
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.07.011

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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