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フグにフグ毒(テトロドトキシン)を与えるとどうなるのか?


フグは高級食材として長年愛されてきましたが、同時にフグ毒の危険性も広く知られています。

フグ毒は、青酸カリの500~1000倍に達するほどであり、死亡率が高く、日本で起こる食中毒死亡者の過半を占める場合もあるようです。

では、人間にとって猛毒なフグ毒は、フグ自体にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

最近、東京大学大気海洋研究所に所属する濵﨑恒二(はまさき こうじ)氏ら研究チームは、トラフグの稚魚にフグ毒入りのエサを与え、その影響を調べました。

研究の詳細は、2024年7月31日付の学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

  • 「青酸カリの1000倍!?」致死率の高いフグ毒
  • フグはフグ毒の影響を受けない
  • フグ毒を食べたトラフグ稚魚は、腸内細菌叢が変化する

「青酸カリの1000倍!?」致死率の高いフグ毒

致死率の高いフグ毒
致死率の高いフグ毒 / Credit:Canva

フグは、神経を麻痺させるフグ毒「テトロドトキシン」を持っており、その毒の強さは青酸カリの500~1000倍とも言われています。

ただし、フグの種類や部位によって毒の強さは大きく異なり、特に肝臓や卵巣、皮には強い毒があります。

人間がフグ毒を食べてしまうと、食後20分から3時間程度でしびれや麻痺症状が生じ、頭痛や腹痛などを伴いながら、激しい嘔吐が続きます。

その後、呼吸困難、血圧の下降、全身の麻痺へと続き、重症な場合には死亡することもあります。

厚生労働省によると、日本では毎年50名ほどが中毒になり、そのうち数名が死亡します。

死亡率が高く、日本で起こる食中毒死亡者の過半を占める場合もあるようです。

では、これほど強力なフグ毒「テトロドトキシン」の影響を、フグ自身は受けないのでしょうか。

フグはフグ毒の影響を受けない

フグは海洋微生物・貝・ヒトデを通して、テトロドトキシンを体内に蓄積させる
フグは海洋微生物・貝・ヒトデを通して、テトロドトキシンを体内に蓄積させる / Credit:Canva

フグは、フグ毒「テトロドトキシン」を自ら作り出しているわけではありません。

テトロドトキシンは、有毒プランクトンなどの海洋微生物が微量に作り出すものであり、それらプランクトンを食べる貝やヒトデの体内に蓄積されます。

そしてフグは、テトロドトキシンを含む貝やヒトデを好んで食べて、その毒を体内(主に肝臓や卵巣など)に蓄えているのです。

当然ながら、このテトロドトキシンを体内に取り込む過程で、フグ自身が悪影響を受けたり死んでしまったりすることはありません

その理由は、テトロドトキシンとフグの特性にあります。

私たちの神経細胞は、外部からナトリウムイオンを取り入れることで情報を伝達しています。

そしてテトロドトキシンは、細胞の「ナトリウムイオンを取り入れる働き」を妨害することで神経に情報が伝わらないようにし、結果として麻痺を生じさせます。

フグ毒「テトロドトキシン」は、人間を含む哺乳類の細胞の「ナトリウムイオンを取り入れる働き」を妨害。麻痺を生じさせる。
フグ毒「テトロドトキシン」は、人間を含む哺乳類の細胞の「ナトリウムイオンを取り入れる働き」を妨害。麻痺を生じさせる。 / Credit:Canva

しかしフグは、そもそもナトリウムイオンを取り入れる仕組みが人間を含む哺乳類とは異なっており、テトロドトキシンで麻痺しにくいと言われています。

さらにフグでは、肝臓でテトロドトキシンを排出したり、血液内のタンパク質がテトロドトキシンと結合したりして、テトロドトキシンの影響が抑えられています。

ちなみに、エサを厳選して育てた養殖のフグは、上記の理由から毒を持たないことで知られています。

一方で野生のフグは、海中の貝やヒトデから地道にフグ毒「テトロドトキシン」を手に入れており、この毒で天敵から身を守ることができます。

またフグ毒には、フグ自身のストレスを軽減させる効果もあると報告されています。

とはいえ、フグがフグ毒を取り入れるプロセスについては、まだよく分かっていない点が多く残っています。

そこで今回、東京大学の濵﨑恒二氏ら研究チームは、フグにフグ毒を与えた時に、腸内細菌叢がどのように変化するのか調べました。

フグ毒を食べたトラフグ稚魚は、腸内細菌叢が変化する

これまで、フグ毒「テトロドトキシン」は、神経伝達をブロックするだけで、細菌に対する阻害効果は無いと考えられてきました。

しかし近年、「テトロドトキシンが一部の細菌に対して増殖を阻害する効果を持つ可能性」が報告されています。

このことは、テトロドトキシンが腸内細菌にも何らかの影響を及ぼすことを示唆しています。

トラフグ稚魚へのテトロドトキシン投与実験のイメージ
トラフグ稚魚へのテトロドトキシン投与実験のイメージ / Credit:濵﨑恒二東京大学 大気海洋研究所)_フグにフグ毒を与えるとどうなる?  ―テトロドトキシン摂取によるトラフグ腸内細菌叢の変化―(2024)

そこで今回、濵﨑氏らの実験では、トラフグの稚魚を対象にテトロドトキシンを混ぜたエサを与え、腸内細菌叢が変化するかどうか調べました。

「フグ毒入りのエサ」を1日2回、合計8日間与え続けたのです。

その結果、毒入りのエサを食べたトラフグの稚魚は、毒なしのエサを食べたトラフグの稚魚と比べて、腸内の半数以上の細菌種が異なっていると分かりました。

今のところ、この細菌種の違いがフグに対して良い影響を与えるのか、それとも悪い影響を与えるのかは分かっていません。

それでも、それら細菌種の違いによって、脂質代謝や糖代謝などいくつかの機能に違いが生じる可能性があると分かっています。

つまり、「フグにフグ毒を与えるとどうなるのか」という疑問に対して、現時点では、「フグは、フグ毒によって麻痺することはないが、腸内細菌叢が大きく変化する」という答えが得られているわけです。

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参考文献

フグにフグ毒を与えるとどうなる?  ―テトロドトキシン摂取によるトラフグ腸内細菌叢の変化―
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/20240731.html

自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_01.html

元論文

The impact of tetrodotoxin (TTX) on the gut microbiome in juvenile tiger pufferfish, Takifugu rubripes
https://doi.org/10.1038/s41598-024-66112-y

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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