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【宇宙アイス】一度は食べてみたい、無重力で作る不思議な味覚!


宇宙でアイスを作ったらどうなるでしょうか?


地球上と何も変わらないと予想する人もいるかもしれませんが、実際は地球とはだいぶ違うものになるかもしれません。


フランスのボルドー大学(UB)で行われた研究により、アイスクリームの氷結晶の成長にかかわる相転移が地球と宇宙では違う可能性が示されました。


宇宙でアイスを作った場合、地球産に比べて氷の粒子が均一になるといった特徴があり、これはアイスの食感に影響すると考えられます。


またこの違いはアイスクリーム内の氷だけでなく合金中の金属結晶などにも当てはまると考えられており、宇宙では地球上で製造不可能な材料を作れる可能性があります。


アイスクリームから宇宙時代の合金製造まで、無重力環境では何が違いをうみだすのでしょうか?


研究内容の詳細は2024年7月3日に『Physical Review Letters』にて発表されました。




目次



  • アイスクリームの食感を左右する「オズワルト熟成」
  • 宇宙アイスは食感が違う

アイスクリームの食感を左右する「オズワルト熟成」


アイスクリームは、数ある食べ物の中でも「凍ったまま食べる」という珍しい特性を持っています。


アイスクリームのおいしさには、甘味、後味など通常の食品に加えて、冷たさや氷の結晶による食感など、さまざまな要因が関係しています。


そのためアイスクリームの製造過程には、他の食品の製造とは一線を画す「材料物理学」の仕組みが存在します。


特に、滑らかな食感はアイスクリーム中の氷結晶の量、サイズ、形状によって大きな影響を受けます。


アイスクリームの製造過程で、氷結晶の形成とその後の変化に影響を与える要因としては「オズワルト熟成」という現象が知られています。


オズワルト熟成を簡単に言えば、小さな氷結晶が溶解し、大きな氷結晶に吸収される現象です。


そのためアイスクリームは時間の経過とともに氷結晶のサイズが大きくなり、食感が変化します。


つまりアイスがジャリジャリするようになるわけです。


このプロセスは、大きな粒子の方が小さな粒子よりもエネルギー的に有利であるために発生します。


これは、粒子の表面にある分子が内部にある分子よりもエネルギー的に不安定であるという理由です。


といっても難しい話ではありません。


内部の赤い分子は6つの結合を持ち安定です。しかし表面の分子は4つの結合しかなく不安定になります。
内部の赤い分子は6つの結合を持ち安定です。しかし表面の分子は4つの結合しかなく不安定になります。 / Credit:Canva . 川勝康弘

例えば、上の図のように、内部の原子は常に周りの原子と結びついているため、とても安定しています。


しかし、表面にある原子は内部の原子としか結びついていないため、安定性が低くなります。


この不安定性は小さな粒子ほど大きな影響をとなります。


小さな粒子は大きな粒子に比べて相対的に大きな表面エネルギーを持っており、表面エネルギーが高いほど粒子は不安定だからです。


そのためアイスクリームが輸送と保管を繰り返す中で温度変化が起きると、エネルギー的に不利な小さな粒子は少なくなり、代わりに大きな粒子が増えていきます。


オズワルト熟成により小さな粒子が溶けてしまう一方、大きな粒子はそれを吸収してより大きく成長します
オズワルト熟成により小さな粒子が溶けてしまう一方、大きな粒子はそれを吸収してより大きく成長します / Credit:Zhandong Huang et al . A general patterning approach by manipulating the evolution of two-dimensional liquid foams . Nature Communications (2017)

上の動画では小さな粒子が消滅して、大きな粒子が育っていく様子を示しています。


アイスクリームの製造において、粒子の荒さは触感に重大な影響を与えます。


例えば、近年の研究によると「アイスクリーム中の氷結晶の径が30μm以下だと非常に滑らかな食感となり、35~55μmだと滑らかな食感、55μm以上だとザラザラとした粗い食感になる」と報告されています。


製造後にアイスクリームを適切に保存しないと、オズワルト熟成の影響で氷結晶が成長し、食感が悪化する可能性があるのです。


アイスクリーム作りはオズワルト熟成という物理現象をいかにうまくコントロールできるかにかかっているとも言えます。


そのためアイスクリームのレシピには材料に加えて温度変化の速度にかんする情報も含まなければなりません。


しかし新たな研究では、宇宙でレシピ通りにアイスクリームを作っても、地球と同じ食感にならない可能性が示されています。


宇宙アイスは食感が違う


なぜ宇宙で作ったアイスは地球産と食感が違うのか?


結論から言えば、主な原因は重力のあるなしとなります。


地球にあるアイスクリームの融けた部分を顕微鏡で拡大してみると、重力の影響を受けて比重の軽い成分は上側に、比重の重い成分は下側に移動していることがわかります。


しかし宇宙の無重力環境ではこのような比重による成分の分離が起こりにくくなります。


そのため地球と宇宙ではアイスクリームの成分分布に微妙な違いが生まれます。


特に融解と凍結が繰り返されやすい表面付近では、成分分布の微妙な違いが、オズワルト熟成の違い、つまり氷結晶の成長具合の違いとして現れると考えられます。


といってもそれを確認するために、国際宇宙ステーションにアイスクリーム製造機を持ち込んで、オズワルト熟成の違いを調べるのは非常にコストがかかります。


そこで新たな研究では無重力でのオズワルト熟成を再現するにあたり、レーザーを使いました。


実験ではまず水・油・界面活性剤・共界面活性剤という異なる4つの成分を含む混合液が用意されました。


アイスクリームの成分とは違いますが、オズワルト熟成の過程を調べるにはクリームや牛乳を使うよりもこの4種類のほうが適しています。


というのも、クリームや牛乳は不透明であり、内部で氷の結晶が成長する過程を観察するのが難しいからです。


この4種類の成分は重力がある状態では密度によって「油のほうが水より上」というように層状に分布します。


左の2列がレーザーをあてて攪拌したときの混合液の垂れかた。右の2列はレーザーをオフにしたときの混合液の垂れかたです。このことから攪拌するだけで混合液の物性が大きく変わることがわかります。
左の2列がレーザーをあてて攪拌したときの混合液の垂れかた。右の2列はレーザーをオフにしたときの混合液の垂れかたです。このことから攪拌するだけで混合液の物性が大きく変わることがわかります。 / Credit:Raphael Saiseau et al . Decay Dynamics of a Single Spherical Domain in Near-Critical Phase-Separated Conditions . Physical Review Letters (2024)

次に研究者たちはこの混合液に対してレーザーを照射し、光放射圧を加えて混合液を攪拌しました。


光放射圧とは光が物体に衝突することで発生する圧力です。


光には質量はありませんが運動量は持っているため、レーザーなどの強い光が物体に当たると微小な力を加えることができます。


この力は小さいものの、集中したレーザー光では無視できない効果を持ちます。


そのため宇宙開発などでは地球からレーザーを発することで光学帆船を加速させるプロジェクトも検討されています。


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実験ではこの仕組みを利用し、混合液をレーザーで攪拌することで比重による層が破壊され、無重力と同じ状況が作られました。


そしてこの状態でオズワルト熟成がどう進行するかが調べられました。


すると、レーザーを当てて無重力環境を真似た場合、オズワルト熟成の進行が違った様子を見せることが判明しました。


この結果から無重力環境では、氷結晶の成長に重大な影響を与えるオズワルト熟成が、地球上と異なる進行を示すことがわかりました。


つまり宇宙で作った「宇宙アイス」と地球で作った「地球アイス」は同じレシピでも、舌触りが微妙に異なる可能性があるということです。


具体的には、宇宙アイスのほうが成分が常に混ざり合うため結晶の成長が均一になりやすく結晶の大きさが均等に分布することになります。


これまで物体の凍結などの現象は重力のある地球環境での研究が主であり、無重力環境で反応がどのように進むかはあまり考えられていませんでした。


オズワルト熟成はアイスクリームだけでなく合金内部での金属結晶の成長にもみられる現象です。


そのため地球で作った合金と宇宙で作った合金にも微妙な違いが生まれると考えられます。


もしかしたら未来の宇宙時代では、宇宙でしかつくれない合金が戦略的に重要な価値を生むようになるかもしれませんね。


全ての画像を見る

参考文献

Gravity Alters the Dynamics of a Phase Transition
https://physics.aps.org/articles/v17/104

元論文

Decay Dynamics of a Single Spherical Domain in Near-Critical Phase-Separated Conditions
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.018201

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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