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机や椅子がありません!古代エジプト人「過酷なデスクワーク」で関節が変形するほど苦しんでいた


現代人の悩みは古代エジプトから存在していたようです。

今日のデスクワーカーに特有の「座りっぱなし」は、腰痛や肩こり、関節痛など、様々な健康問題を引き起こしています。

これはデスクワークが急激に増えた現代ならではの悩みと思われていました。

しかしチェコのプラハ・カレル大学(Charles University)らの研究により、古代エジプトの書記官も座りっぱなし仕事のせいで、かなりひどい関節痛に悩まされていたことが明らかになったのです。

研究の詳細は2024年6月27日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • 古代エジプトの書記はかなりの激務だった?
  • 書記官ならではの関節変形が起こっていた!

古代エジプトの書記はかなりの激務だった?

古代エジプトでは少なくとも5000年以上前から今日のような筆記が行われていました。

ペンには葦(あし)の茎を切り取って先を斜めに削ったものを使い、それをインクに浸してパピルスという紙に文字を書いていたのです。

しかし古代エジプトの識字率は非常に低く、読み書きができるのは一部の選ばれた男性だけでした。

書記官になれたのは全体の人口のわずか1%ほどで、これらの男性は社会的地位が高く、重要な行政業務を担っていました。

古代エジプトの書記官をかたどった彫刻
古代エジプトの書記官をかたどった彫刻 / Credit: commons.wikimedia

主な仕事内容は公文書の作成です。

例えば、法律や税金、契約書を作成したり、王であるファラオの功績や戦争の詳細を記録していました。

また神殿や宗教儀式に関する文書の作成や、葬儀の際に使用される呪文や祈りの筆記も担当していたといいます。

ただ書記官の仕事はまったく楽なものではなく、相当な激務でした。

歴史的な記録によると、彼らは日の出とともに仕事を始め、最も猛暑になる昼間は休みを取って、暑さが和らいだ午後から再び日没まで作業を続けたと考えられています。

それから当時の書記官は今日のデスクワーカーのように机を使うことがありませんでした。

彼らは書記板といって、平らな木製の板や石板をひざの上に乗せた状態で、地面に座ったまま作業をするのが一般的だったのです。

ごく一部の高官や宮廷の書記官は椅子に座って作業をすることもあったと見られますが、これは基本的に例外だったといいます。

古代エジプトの書記官は机を使わなかった
古代エジプトの書記官は机を使わなかった / Credit: Petra Brukner Havelková et al., Scientific Reports(2024), canva / ナゾロジー編集部

その苦しさを想像してみてください。

これを今日のデスクワーカーに置き換えてみれば、地べたに座ってひざにノートパソコンを置いたまま何時間も作業を続けるようなものですから、心身に相当なストレスを与えたはずです。

研究主任のベロニカ・ドゥリコバ(Veronika Dulíková)氏によれば、古代エジプトの書記官は10代で仕事を始め、その後数十年間にわたって同じ仕事を続けたと述べています。

現代のデスクワークも、何時間も同じ姿勢を続けるため、健康上の様々な問題を起こすことが知られています。

エジプトの書記官もこんな無理のある姿勢で何十年間も働き続けるわけですから、体に何らかの支障が起きていても不思議ではありません。

そこで研究チームは今回、古代エジプトの書記官の遺骨を詳しく調べてみました。

すると古代エジプトにおける過酷なデスクワークの状況が見えてきました。

書記官ならではの関節変形が起こっていた!

本調査では、古代エジプトの都市メンフィスに残されているアブシール遺跡で回収された69体の男性の遺骨を対象としました。

これらは紀元前2700〜2180年頃のものであり、墓に刻まれた記録から、そのうち30体は書記官の遺骨であることが判明しています。

そして書記官と他の職業人の遺骨を詳しく調べた結果、書記官のみ、身体的ストレスの反復によって生じる関節変形が起きていたのです。

関節変形が見られたのは、あご、首の後ろ、右肩、右親指の付け根、ひざ、足首、尾てい骨などでした。

関節変形が起きていた身体部位
関節変形が起きていた身体部位 / Credit: Petra Brukner Havelková et al., Scientific Reports(2024)

これは書記官が仕事をするときの特徴的な姿勢と一致しています。

先ほど言ったように、当時の書記官たちは机を使わず、地べたに座った状態で作業をしていました。

そのスタイルは様々で、あぐらをかいたり、正座したりしたといわれていますが、特に多かったのが片膝を立てた姿勢でした。

この作業スタイルは書記官を描いた壁画や彫刻などによく見られるものです。

その結果、特定の場所に持続的な負荷がかかり続けたため、これらの部位に骨の変形が起きたと考えられます。

また片膝を地べたにつけっぱなしだったせいか、ひざのお皿の陥没も見られました。

片膝を立てたスタイルが主流
片膝を立てたスタイルが主流 / Credit: Petra Brukner Havelková et al., Scientific Reports(2024)

各部位ごとの原因を見てみますと、右肩と右親指の付け根の変形はおそらく、右利きが多かったことに関係するものでしょう。

首の付け根は文字を書くときに背中を丸め続けたことが原因です。

尾てい骨は地べたに座り続けたことによる負荷で、あご関節の変形は葦のペン先を整えるために頻繁に筆を噛んでいたことが原因と説明されています。

また研究者らは「当時の書記官たちはおそらく、手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん:手首の中の神経が痛む病気)も患っていたと予想されますが、残念ながら遺骨からは確認できませんでした」と述べています。

左:立つスタイルもあったらしい、右:座位姿勢での足の組み方パターン
左:立つスタイルもあったらしい、右:座位姿勢での足の組み方パターン / Credit: Petra Brukner Havelková et al., Scientific Reports(2024)

以上の結果は古代エジプトの書記官たちが今日のデスクワーカーと同様に、座りっぱなし仕事に伴う身体の痛みや関節痛に悩まされていたことを示唆する貴重な成果です。

デスクワークは見た目の印象とは裏腹に、かなり過酷な職業であることは従事している人なら実感のある問題でしょう。

長時間同じ姿勢を続けるために、身体にさまざまな不調が出てきます。

研究者は「当時の書記官はエリートに属する高位の高官でしたが、私たちと同じ悩みを抱え、今日のほとんどの公務員と同様の職業リスクにさらされていたのでしょう」と話しています。

また今回の知見は、肩書きや職業がわかっていない古代エジプトの遺骨の中から「書記官」を特定するのにも役立つと考えられています。

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参考文献

Ancient Egyptian ‘office workers’had terrible posture just like us, disfigured skeletons reveal
https://www.livescience.com/archaeology/ancient-egyptians/ancient-egyptian-office-workers-had-terrible-posture-just-like-us-disfigured-skeletons-reveal

Occupational hazards for ancient Egyptian scribes
https://phys.org/news/2024-06-occupational-hazards-ancient-egyptian-scribes.html

Egyptian scribes suffered work-related injuries, study says
https://www.theguardian.com/science/article/2024/jun/27/egyptian-scribes-work-related-injuries-study

元論文

Ancient Egyptian scribes and specific skeletal occupational risk markers (Abusir, Old Kingdom)
https://doi.org/10.1038/s41598-024-63549-z

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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