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若い頃「交尾ごっこ」で遊んでいたイルカほど将来リア充になる!


近年の日本では少子化が問題になっていますが、経済的な問題以外に、異性との付き合い方がよくわからない、魅力を感じないという意見もよく耳にします。

こういう話を聞くと、「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と親に怒られたとしても、若い頃に友達と街に出て積極的に遊ぶことは重要なことなのだと思い知ります。

そして、この問題は人間だけに限らないようです。

イルカのオスは、若い頃に他者と関わる「社会的な遊び」に多くの時間を費やします。

今回、西オーストラリアのシャーク湾を拠点とする国際チーム「Shark Bay Dolphin Research」のホルム氏たちは、若い頃によく遊んだイルカのオスほど、大人になってからより多くのメスとの交尾に成功していたことを発見しました。

どうやら、若いオスたちは、若い頃の社会的な遊びを通じて大人になってから必要な「交尾のお作法」を練習していたようです。

本研究成果は2024年6月10日付に科学誌「PNAS」に掲載されました。

目次

  • 若いころは遊ぶべき?
  • よく遊ぶオスほど、大人になってメスとの交尾に成功していた!

若いころは遊ぶべき?

「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」

学生のころ、だれしも一度はこのセリフを耳にしたことがあるのではないでしょうか。

これは親や先生といった子どもの世話する立場にある人が、学生の将来を思って口にする言葉です。

その一方、社会で働く世のおじさんたちはこう口にします。「若いころは遊んでおけ」と。

これは、「人付き合いやマナーなどは座って勉強しているだけじゃ身につかないから、遊びを通じて学びなさい」というポジティブなメッセージとして読み取れます。

さて、母や先生の言う勉強が「将来の役に立つ」ことは納得いきますが、おじさんの言う遊びも「将来の役に立つ」のでしょうか?

母は「学べ」といい、おじさんは「遊べ」という
母は「学べ」といい、おじさんは「遊べ」という / credit: いらすとや

 

ヒト以外の動物に目を向けてみると、社会生活を営むサルなどの哺乳類は「若いころは遊んでおけ」という教訓に従っているようです。群れ生活を営むイルカも、若いころによく遊ぶ哺乳類の一員です。

ただし、イルカの遊びといっても、水族館で華やかなショーをするイルカからイメージするような、穏やかな遊びではありません。

ミナミハンドウイルカという体長2.5mほどのイルカは若い時期(約4~14歳)に、複数頭があつまり「交尾ごっこ遊び」をします。

これはどういう遊びかというと、「1頭のメス役と、複数頭のオス役がおり、このオス役がメス役にマウントしたり、ペニスをぶつけたりする」遊びです。

なお、この遊びがオスだけで行われる場合は、いずれかのオスがメス役を担うことになります。

 

イルカたちは一風変わった遊びをするようですが、そもそも「なぜ、若いころに遊ぶのでしょうか?」。

とゆうのも、遊んでなどおらずに、たくさん餌を食べて、早く大きくなって、早く繁殖に参加したほうが、「たくさんの次世代を残す」という生物としての目的を達成するには都合がよさそうです。

加えて、「なぜ、遊びが交尾ごっこなのでしょうか?」。

一人遊びでもなく、モノを使った遊びでもなく、他者とかかわりあう社会的な遊びであり、しかもそれが交尾を真似た遊びであることに、なにか特別な意味があるのでしょうか?

この疑問に、西オーストラリアのシャーク湾を拠点とする国際チーム「Shark Bay Dolphin Research」が、ホルム氏(Holmes, KG)を筆頭として取り組みました。

今回の研究にて、チームはオスにおける遊びの重要さに着目しました。

とゆうのも、このミナミハンドウイルカのオスの社会は、私たちヒトの社会に匹敵するほど複雑であるとされているために、他者とかかわる重要性は、メスに比べて、オスのほうが高いと想定できるためです。

イルカのオスは仲間の恋愛をサポートするヒト以外で最大の「陽キャグループ」を作っていた!

研究チームは、「若いオスたちは遊びを通じて、交尾のテクニックを向上させたり、将来の一緒にメスを口説く仲間との友情を深めたりする」という仮説を立てました。

加えて、「若いころによく遊んでいたオスのほうが、オトナになってからメスとの交尾にたくさん成功する」という仮説も立てました。

チームはこれらの仮説を、32年にわたるフィールド調査データと、遺伝子解析の技術を組みあわせ、仮説の検証に取り組みました。

よく遊ぶオスほど、大人になってメスとの交尾に成功していた!

研究チームはまず、「交尾ごっこ遊び」において、オスが、オス役とメス役をどれぐらい担うかについて調べました。

オスだけが参加する交尾ごっこ遊びでは、オスはオス役とメス役を交互に行うことがわかりました。

オスからすれば、交尾の練習になるのは当然、オス役をしているときに限るので、メス役ばかりを担うオスはいないということです。

一方、オスとメスが参加する交尾ごっこ遊びでは、オスはオス役ばかりする傾向にありました。

つまり、オスは交尾ごっこの参加者の性質に応じて、できるだけオス役を担うことで、交尾の練習をしていることが示唆されます。

できるだけオス役を担うことで、交尾の練習をしている
できるだけオス役を担うことで、交尾の練習をしている / credit: 海の仲間たちイラストAC、近本賢司

この交尾の練習仮説を支持するために、チームは音にも注目しました。

ミナミハンドウイルカは、メスへとアプローチするときに「ポップ音 (pop sound)」と呼ばれる音を出します。

この音は、実際にメスの動きをコントロールする機能をもっているために、オスからメスへの口説く文句のようなものです。

このポップ音の音響学的な特性を、まだ若いオスと、既に交尾に参加しているオトナのオスで比較しました。

その結果、「若いオスのポップ音は、大人に比べて、持続時間が短く、音と音の間隔もばらばらである」ことがわかりました。

つまり、若いオスの口説き文句は、オトナほど洗練されていないことが示唆されます。

若いオスの口説き文句は、オトナほど洗練されていない
若いオスの口説き文句は、オトナほど洗練されていない / credit: 海の仲間たちイラストAC、近本賢司

つぎに研究チームは、交尾ごっこ遊びにおけるオス同士の「連携プレー」に注目しました。

ミナミハンドウイルカが大人になって本番の交尾を試みるとき、オス同士は2~3頭が協力してメスにアプローチすることが知られています。

この交尾のときに協力するオス同士の関係は「同盟」と呼ばれ、この同盟を形成できるかどうかが、交尾が成功するかどうかを大きく左右します。

イルカのオスは仲間の恋愛をサポートするヒト以外で最大の「陽キャグループ」を作っていた!

オスからしたら、同盟を組むことになるであろう将来の仲間と、交尾ごっこにて連係プレーを磨くことで、将来の繁殖成功度が向上すると考えられそうです。

チームは「親密なオス同士ほど、連係プレーをとる」ことを明らかとし、オスは将来の同盟相手と交尾のテクニックを磨いているという仮説を支持しました。

親密なオス同士ほど、連係プレーをとる
親密なオス同士ほど、連係プレーをとる / credit: 海の仲間たちイラストAC、近本賢司

最後に、チームは「若いころに交尾ごっこのオス役をしていた時間が長いオスほど、オトナになってからたくさんのメスとの交尾に成功している」ことを明らかとし、若いころに遊ぶことにはたしかにオトナになってから役立つことを実証しました。

若い頃に遊んだオスのイルカほど、大人になってメスとの交尾に成功していた
若い頃に遊んだオスのイルカほど、大人になってメスとの交尾に成功していた / credit: 海の仲間たちイラストAC、近本賢司

私たち人間は、遊びを通じて、人生を全うするのに必要な、コミュニケーション能力や社会性を培うとされています。

また、私たちと同じ社会生活を営む哺乳類にとっても、遊ぶことが他者との関係を築いたり、大人になってから必要なスキルの習得に重要な役割を果たすようです。

社会で暮らすことを選んだ哺乳類たちは、他者と共に生きていくために、遊ぶという行動を今もなお続けているのでしょう。

遊びが大事なことはわかりましたが、だからといって「若者よ、机になど向かっていないでもっと遊べ」といっているわけではありません。

子どもや若者たちが、気がすむまで学び、そしてだれに咎められることもなく、自由に遊べるような社会を皆で作っていくことが大事なのでしょう。

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参考文献

Shark Bay Dolphin Research
https://www.sharkbaydolphins.org/

元論文

Juvenile social play predicts adult reproductive success in male bottlenose dolphins
https://doi.org/10.1073/pnas.2305948121

ライター

近本 賢司: 動物行動学,動物生態学の研究をしている博士学生です.動物たちの不思議な行動や生態をわかりやすくお伝えします.

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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