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火山噴火で炭化した古代ローマの「書物」を解読!研究者「当時のブログ記事かも」


今から約2000年前、古代ローマの町「ヘルクラネウム」は、貴重な巻物「パピルス」と共に、ヴェスヴィオ火山の噴火による高温の火砕物で埋もれてしまいまいました。


18世紀には、当時のパピルス「ヘルクラネウムの巻物(ヘルクラネウム・パピルス)」が発見されましたが、それらはいずれも炭化しており、どのような内容が書かれていたのかは知ることができませんでした。


解読研究の一環で、2023年3月にはヘルクラネウムの巻物の解読コンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が開催されることになりました。


そして2024年2月5日、ヘルクラネウムの巻物の最初の一節をAIによって解読した3人の学生チームが2023年度大賞を受賞し、70万ドル(約1億400万円)を受け取りました。


2000年前の文書には、いったいどのような内容が書かれていたのでしょうか。




目次



  • 2000年前の炭化したパピルス文書「ヘルクラネウムの巻物」
  • 3人の学生チームが解読に成功し、70万ドルの賞金を獲得する
  • ヘルクラネウムの巻物の内容とは!?「哲学論文」それとも「2000年前のブログ記事」?

2000年前の炭化したパピルス文書「ヘルクラネウムの巻物」


ヴェスヴィオ火山の噴火により、ヘルクラネウムは火砕物で埋もれる
ヴェスヴィオ火山の噴火により、ヘルクラネウムは火砕物で埋もれる / Credit:Vesuvius Challenge

西暦79年のヴェスヴィオ火山の噴火により、ヘルクラネウム・パピルス(またはヘルクラネウムの巻物)として知られるパピルス文書が数多く収められた古代図書館が埋もれてしまいました。


このパピルスとは、カミガヤツリ(パピルス草)の繊維で作った一種の紙であり、紀元前2000年から紀元後数世紀に至るまで使用されてきました。


火砕物で埋もれる書庫(左)と、もともとのパピルス文書(巻物)
火砕物で埋もれる書庫(左)と、もともとのパピルス文書(巻物) / Credit:Vesuvius Challenge

1枚1枚すべて手作業で製作されるため高価であり、当時の人々は、文章を書き記したパピルスを、「巻物」として丸めて書庫に保管していたようです。


そして、このパピルスが高温の火砕物で埋もれて炭化したということは、修復不可能なダメージを受けたということです。


炭化したパピルス文書「ヘルクラネウムの巻物」
炭化したパピルス文書「ヘルクラネウムの巻物」 / Credit:Vesuvius Challenge

実際、18世紀に発見されたヘルクラネウムの巻物のうち800巻以上は、現在、イタリアの図書館に保管されていますが、それらは「炭の塊」であり、内容を解読することなど不可能だと思われていました。


丸まった巻物を物理的に展開しようものなら、バラバラになってしまいます。


それでも解読を諦めるべきではない理由があります。


炭化した巻物を展開するとバラバラになる
炭化した巻物を展開するとバラバラになる / Credit:Vesuvius Challenge

なぜなら、パピルスは簡単に腐食してしまうため、当時のパピルス文書の99%はもう残っていないからです。


古代ギリシャ人やローマ人に対する理解を深めるうえで、たとえ「炭の塊」になっていたとしても、「ヘルクラネウムの巻物」は非常に貴重な記録なのです。


明らかになるパピルス文書の内容次第では、私たちのギリシャ・ローマ文学への理解が一変する可能性さえあるでしょう。


これまでにも解読研究は続けられてきましたが、2023年3月には、アメリカのケンタッキー大学(University of Kentucky)の科学者ブレント・シールズ氏と、シリコンバレーの起業家ナット・フリードマン氏の支援によって、ヘルクラネウムの巻物の解読コンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が開催されました。


3人の学生チームが解読に成功し、70万ドルの賞金を獲得する


シールズ氏は20年にわたるヘルクラネウムの巻物の解読研究を続けてきました。


それらの研究からすると、炭化したヘルクラネウムの巻物は、次のように解読できます。



まず巻物を3Dスキャンし、巻物各層の3D形状を識別します。


そしてその3Dデータを1枚の紙のように引き延ばした後、AIを利用して、巻物表面のインクの形状を画像化するのです。


それでもシールズ氏らの小さな研究チームでは、膨大な解読を行うのに限界がありました。


そこで、賞金付きの「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が開催されることになり、2つの巻物を構成する数千枚の3D画像と、インクの文字を読み取るためのAIプログラムが公開されました。


改良されたAIにより、ヘルクラネウムの巻物の一部の解読に成功
改良されたAIにより、ヘルクラネウムの巻物の一部の解読に成功 / Credit:Vesuvius Challenge

多くのチャレンジャーたちは、既存のツールやモデルを改良したり、もっと良いアイデアを採用したりして、ヘルクラネウムの巻物の解読に取り組んだのです。


その結果、2024年2月5日には、エジプト、スイス、アメリカの学生3人からなるチームが、2023年度大賞を受賞し、70万ドル(約1億400万円)を獲得ました。


3人の学生チームが解読に成功。70万ドルを獲得
3人の学生チームが解読に成功。70万ドルを獲得 / Credit:Vesuvius Challenge

彼らは、比類のないインク検出技術を構築し、巻物全体の約5%に相当する15段以上の文章(数百の単語)を解読したのです。


では、解読された「ヘルクラネウムの巻物」には、いったいどんなことが書かれていたのでしょうか。


ヘルクラネウムの巻物の内容とは!?「哲学論文」それとも「2000年前のブログ記事」?


解読された「ヘルクラネウムの巻物」は、エピクロス主義に関連したものであり、その著者は、エピクロスの信奉者であり、巻物が発見された書庫で働いていた哲学者フィロデモスだと考えられています。


エピクロス主義とは、ギリシャ哲学者エピクロスに影響を受けた学派であり、幸福の追求を自分の主義(快楽主義)としていました。


心の平安や精神的な快楽を追求し、当時の禁欲的な考えと対立していたようです。


ヘルクラネウムの巻物の5%の解読に成功
ヘルクラネウムの巻物の5%の解読に成功 / Credit:Vesuvius Challenge

そして実際に解読された巻物では、「食料などの品物の入手可能性が、喜びにどのような影響を与えるのか」といったトピックが扱われています。


例えば、著者は「大量に手に入る物よりも、少量しか手に入らない物の方が、喜びは大きいのか?」などと論じています。


また、音楽が聴く人に与える影響についても書かれており、そのことを食べ物や飲み物が提供する楽しみと比較しているようです。


もちろん、これらは巻物に記された内容のたった5%に過ぎないため、これだけで巻物全体の価値を測ることはできません。


ヴェスヴィオ・チャレンジの次の目標は、2024年の年末までに巻物の85%を解読することであり、今後の進展も楽しみにできます。


ちなみに、ヴェスヴィオ・チャレンジのサイトでは、今回の結果について、次のようにコメントされています。


学者たちは、これを哲学論文と呼ぶかもしれません。


しかし、この文章は私たちにとってなじみのあるものです。


私たちが最初に発見した文章は、人生を楽しむ方法について記した2000年前のブログ記事であるような気がしてなりません


ヘルクラネウム・パピルスの内容は、2000年前のブログ記事のようだった!?
ヘルクラネウム・パピルスの内容は、2000年前のブログ記事のようだった!? / Credit:Canva

「長年秘められてきた古代文書が、実は2000年前のブログ記事のような内容だった」という表現は、現代のあらゆるメディアが将来どのように扱われるかを想像させます。


現代には、様々な「記録」が存在していますね。


ネットにあふれる様々なブログ記事や、私たちの手帳に記された手書きの日記、SNSに投降した動画やハードディスクに収まった写真などです。


それは現代ではありふれたものの一部ですが、はるか遠い未来にまで残ったなら、きっとヘルクラネウムの巻物のように当時の様子を知るための貴重な資料として大切に扱われるのでしょう。


現代のブログ記事もまた、将来において、「どこかなじみ深い」古代文書となるかもしれません。


全ての画像を見る

参考文献

First passages of rolled-up Herculaneum scroll revealed
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00346-8

Vesuvius Challenge 2023 Grand Prize awarded: we can read the first scroll!
https://scrollprize.org/grandprize

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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