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空は本当に青でしょうか?「動物たちが見る世界の色」を再現するカメラ


人間にとって空は青く見えますが、鳥たちにも同じように見えているとは限りません。


このように、「人間や動物、虫たちでは知覚できる色が異なる」ことは、よく知られています。


「動物たちの色の見え方を再現した画像」を見たことがあるかもしれませんね。


今回、アメリカのジョージ・メイソン大学(George Mason University)生物学部に所属するダニエル・ハンリー氏ら研究チームは、「動物たちが見ている色」で動画を記録できるカメラシステムを開発することに成功しました。


この新しいカメラシステムを用いるなら、広大な空、花の蜜を吸うミツバチ、きらびやかに輝くクジャクの羽などが、動物たちにとってはどのように見えているのか知ることができます。


研究の詳細は、2024年1月23日付の学術誌『PLoS Biology』にて発表されました。




目次



  • 人間と動物で異なる「世界の色」の見え方

人間と動物で異なる「世界の色」の見え方


人間は3種類の受容体を持ち、それぞれを知覚できる
人間は3種類の受容体を持ち、それぞれを知覚できる / Credit:Wikipedia Commons_Trichromacy

人間の目は、赤、青、緑の3種類の光受容体を持つ「3色型色覚」であり、この組み合わせによって100万から1000万もの色を識別できると言われています。


しかしすべての動物や虫が、同じように色を識別しているわけではありません。


例えば鳥は、赤、青、緑に加えて、紫外線を識別する受容体を持つ「4色型色覚」であり、人間とは異なる世界の色を感知しています。


人間が空を見上げると「明るく澄んだ青色」に見えますが、実際には人間に知覚できない紫外線で満たされています。


つまり、紫外線を知覚できる鳥たちにとって、空は「青色」というよりも「紫外線の色」なのです。


鳥類の見え方。(青、緑、赤をそれぞれ青、緑、赤で表現。紫外線の色をマゼンダで重ねて表現)
鳥類の見え方。(青、緑、赤をそれぞれ青、緑、赤で表現。紫外線の色をマゼンダで重ねて表現) / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

また、マウスなどは緑と紫外線の「2色型色覚」であり、こちらも人間とは大きく異なった見え方であるはずです。


だからこそ、「動物たちの視点で世界を見てみたい」と感じる人は少なくありません。


そして、それを可能にしたのが、フォルスカラー(False colorと呼ばれる技術です。


例えば、3色型色覚(紫外線、青、緑)であるミツバチの視点を再現するために、「紫外線→青」「青→緑」「緑→赤」というように、人間の可視範囲にシフトした画像を作るのです。


ミツバチの見え方をフォルスカラーで再現したの画像。人間の指や葉、虫の卵が写っている。(紫外線、青、緑をそれぞれ、青、緑、赤で表現)
ミツバチの見え方をフォルスカラーで再現したの画像。人間の指や葉、虫の卵が写っている。(紫外線、青、緑をそれぞれ、青、緑、赤で表現) / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

とはいえ、ハンリー氏ら研究チームによると、このプロセスは「動かないオブジェクトにのみ適用できる」ため、動物たちが実際に見ている世界の色を動画として記録することは難しかったようです。


そこで今回、彼らは、「可視光を記録するカメラ」と「紫外線を記録するよう改造したカメラ」の2台を用いて、この課題に取り組みました。


新しいカメラシステムの開発により、動物や虫が見ている世界の色を動画で再現できる
新しいカメラシステムの開発により、動物や虫が見ている世界の色を動画で再現できる / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

この新しいカメラシステムでは、紫外線と可視光を分離し、それぞれのカメラで処理します。


その後、2台のカメラの記録を重ね合わせて同期。アルゴリズムで動画を調整することで、「様々な動物が見ている映像」を再現することに成功しました。


また、フォルスカラー画像を作るための従来の方法と比較したところ、環境条件にもよりますが、92~99%という精度で再現できていることも分かりました。


では、実際にどのような見え方なのでしょうか。


例えば、次の動画では、鳥の見え方を示しています。


鳥の見え方を再現したフォルスカラー動画。蝶を人間の指がつつく
鳥の見え方を再現したフォルスカラー動画。蝶を人間の指がつつく / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

この動画では、紫外線が紫で表現されています。


通常、人間には蝶の羽がオレンジ、黄、黒に見えるものです。


一方、紫外線を見ることはできませんね。


しかしこの動画からすると、鳥には、蝶が羽を広げた際に反射する紫外線(紫色)が見えていることが分かります。


次の動画では、ミツバチの見え方が示されています。


ミツバチの見え方を再現したフォルスカラー動画。人間の目には白と黒に見える蝶「Eurytides marcellus」が飛び立つ
ミツバチの見え方を再現したフォルスカラー動画。人間の目には白と黒に見える蝶「Eurytides marcellus」が飛び立つ / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

紫外線、青、緑を、それぞれ青、緑、赤のフォルスカラーで再現しています。


動画で青色が少ないということは、一般的な自然風景では、紫外線から得られる情報が少ないことを示しています。


一方、下の動画では鳥の見え方が示されていますが、空は紫外線で満ちていることが分かります。


鳥の見え方。木々と空
鳥の見え方。木々と空 / Credit:Daniel Hanley(George Mason University)et al., PLoS Biology(2024)

動画では、青、緑、赤をそのまま青、緑、赤で表示し、紫外線の色をマゼンダで重ねています。


鳥たちが見ている世界は、やはり人間とは異なりますね。


さらに下の動画では、ミツバチの見え方が示されており、日焼け止めの働きをよく理解できます。



ミツバチが持つ紫外線、青、緑の光受容体の反応を、それぞれ青、緑、赤で再現しています。


日焼け止めには紫外線を吸収する効果があるため、日焼け止めを塗布した部位には紫外線の反射を示す青色がほとんど存在せず、黄色(緑色と赤色が強くなるため)に見えていますね。


では、人間の目にカラフルな輝きを見せてくれるクジャクの羽はどうでしょうか。



この動画では、クジャクの羽を次の4つの見え方で再現しています。


(A)青、緑、赤をそのまま青、緑、赤として表示し、紫外線をマゼンダで重ねたもの、(B)人間、(C)ミツバチ、(D)イヌ。


クジャクの羽は構造色により鮮やかな色を示してくれますが、この色も、動物によって大きく見え方が異なると分かりますね。


「私たち人間が見ている世界の色は、共通ではない」ことが、新しいカメラシステムにより一層はっきりと示されました。


次にあなたが美しい景色を見る時、「他の動物にはどのように見えているのだろうか」と考えてみるのも楽しいはずです。


全ての画像を見る

参考文献

Animals see the world in different colors than humans: New camera reveals what this looks like
https://phys.org/news/2024-01-animals-world-humans-camera-reveals.html

Revolutionary camera sees the world through the eyes of animals — from bees to birds
https://www.zmescience.com/science/news-science/revolutionary-camera-sees-the-world-through-the-eyes-of-animals-from-bees-to-birds/

Camera captures the world as animals see it, with up to 99% accuracy
https://newatlas.com/biology/camera-captures-animals-sight/

New video camera system captures the colored world that animals see, in motion
https://www.eurekalert.org/news-releases/1031259

元論文

Recording animal-view videos of the natural world using a novel camera system and software package
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002444

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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