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古代ローマ人が愛したワインの風味が判明!スパイシーで焼きたてパンみたいな香りだった


古代ローマ人がワインの愛好家だったことはよく知られています。

ワインは貴族だけでなく庶民の間でも親しまれ、宗教上ではワインの神バッカスに捧げる供物としても使われました。

しかし一方で、古代ローマ人が愛したワインが実際にどのような味だったのかは分かっていません。

甘かったのか、苦かったのか?フルーティーなのか、土っぽい渋みがあったのか?

今回、ベルギー・ゲント大学(Ghent University)が新たに調査したところ、ローマワインはスパイシーで、トーストしたパンのような風味があったことが示唆されました。

研究の詳細は2024年1月23日付で学術誌『Antiquity』に掲載されています。

目次

  • 古代ローマのワイン作りに欠かせない「ドリウム」とは
  • スパイシーで、トーストしたパンみたいな味わい?

古代ローマのワイン作りに欠かせない「ドリウム」とは

ワインの味を解明するにあたって研究チームが調査対象としたのは「ドリウム(Dolium)」と呼ばれる粘土性の壺です。

ドリウムは古代ローマ時代にワインの醸造や貯蔵に使用された大きな容器でした。

一般的には卵型の丸い容器に広い口、面積の狭い底部という作りになっています。

粘土性の壺「ドリウム」
粘土性の壺「ドリウム」 / Credit: en.wikipedia

その一方で、ドリウムでの醸造がワインの味や香りにどんな影響を与えていたかに関する研究はありません。

そこでチームは、古代ローマ時代のドリウムを使ってワインを醸造するとどんな風味が生まれるかをシミュレーションしました。

その際に参考にしたのは、現在のジョージアで伝統的に使われている「クヴェヴリ(qvevri)」という土器です。

ジョージアはワイン発祥の地と考えられており、約8000年のワインの歴史があります。

ワイン醸造に伝統的に使われてきたクヴェヴリは、古代ローマのドリウムとほぼ同じ見た目をしており、歴史的な記録を参照すると、ワインの製造プロセスまでかなり酷似していることが分かっています。

ジョージアの伝統的なワイン製法に用いられる「クヴェヴリ」
ジョージアの伝統的なワイン製法に用いられる「クヴェヴリ」 / Credit: ja.wikipedia

ちなみにクヴェヴリを用いたワイン製法は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。

これらを踏まえてチームはクヴェヴリを参考にしながら、ドリウムでワインを醸造するとどんな風味が生まれるかを調査しました。

スパイシーで、トーストしたパンみたいな味わい?

チームは歴史的文献の調査とクヴェヴリでのワイン製法を合わせることで、ドリウムでの醸造プロセスの全体像を明らかにできました。

まず、古代ローマのワイン醸造における発酵は自然発生的であり、完全にブドウに存在する酵母に依存しています。

ブドウを種子や茎ごとドリウムに入れて、種までは潰さないよう優しくかき混ぜ(足踏みを使ったと見られる)、容器の口を開けたまま約9〜30日間放置する「一次発酵」に入ります。

この間に糖の大部分がアルコールに変わります。

それが終わるとドリウムの口を蓋で密閉し、5〜6カ月放置する「二次発酵」に入りました。

またこのとき、ドリウムは口から下の部分を土中に埋め込まれます。

古代ローマ時代の遺跡で見つかったドリウム(口から舌を土中に埋め込む)
古代ローマ時代の遺跡で見つかったドリウム(口から舌を土中に埋め込む) / Credit: Dimitri Van Limbergen et al., Antiquity(2024)

この発酵プロセスの中でチームは、ドリウムの形状や材質がワインの風味に大きな影響を与えることを見出しました。

発酵によって二酸化炭素が発生し、ドリウム内の温度が変化するとワインの中で対流が発生し始めます。

この対流が自然なポンプシステムとして働き、ワインをゆっくりとかき混ぜて、発酵の均一性を促すのです。

加えて、対流によりブドウの皮や茎、種および死んだ酵母などの固形物がドリウムの底部に沈殿します。

これらは苦味の元になってしまいますが、ドリウムの底面が非常に狭いので熟成中のワインと接触しすぎるのを防ぎ、芳醇な香りが守られると考えられました。

発酵による二酸化炭素の発生で、熟成中のワイン内に自然な対流現象が起こる
発酵による二酸化炭素の発生で、熟成中のワイン内に自然な対流現象が起こる / Credit: Dimitri Van Limbergen et al., Antiquity(2024)

さらに現代の密閉されたステンレスタンクとは違い、ドリウムは粘土性で多孔質な作りをしています。

チームは、このミネラル豊富な粘土がワインの味わいに影響し、口の中に少し乾いたドライな感覚を引き起こすと予想しました。

また密閉環境とは違って、多孔質ゆえに酸素に晒されやすくなり、ワインが酸化することでローストしたナッツや酸味のあるリンゴのような複雑な香りがもたらされるといいます。

加えて、ドリウムが地中に埋められていることで温度が適度に保たれ、ワイン表面に形成される酵母の層や酒類によく見られるソトロンという化合物の生成が促されます。

研究者らは、これらがワインにスパイシーな味わいとトーストしたパンのような香りを与えると指摘しました。

以上の結果は、古代ローマ時代のワインがかなり複雑な風味を持っていたことを示唆する初の成果です。

当時のローマ人たちは現代ワインとはまったく違う、スパイシーで焼きたてパンやナッツの香りがする独特な味わいを楽しんでいたのかもしれません。

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参考文献

Spicy wine: New study reveals ancient Romans may have had peculiar tastes
https://phys.org/news/2024-01-spicy-wine-reveals-ancient-romans.html

Toasted Bread and Walnuts: The Secret to Sophisticated Roman Wine Revealed
https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/roman-winemaking-sophistication-0020248

元論文

Making wine in earthenware vessels: a comparative approach to Roman vinification
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/making-wine-in-earthenware-vessels-a-comparative-approach-to-roman-vinification/21CE9DC73E121EE173E902625E9E559D

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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