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ニキビの原因「アクネ菌」は皮膚の保護バリアを強化する良い面もある


「アクネ菌」といえば、一般的にもその名が知られる皮膚の常在菌です。

残念ながら、アクネ菌は多くの人から嫌われています。ニキビの原因として非難されるされることはあってもに、皮膚に良いなどと感謝されることはありません。

しかし研究によれば、アクネ菌は皮膚の脂質産生を増加させ、皮膚のバリア機能を高め、皮膚の潤滑性を維持して抗菌活性を高める働きをしているようなのです。

この発見は、ニキビやその他の皮膚疾患に対する新たな治療法につながる可能性があります。

研究の詳細は、2023年8月18日付の『ScienceAdvances』誌に掲載されています。

目次

  • アクネ菌には皮膚健康に良い側面があることが指摘されていた
  • アクネ菌は脂質の蓄積を促して皮膚を「ふっくら」させる

アクネ菌には皮膚健康に良い側面があることが指摘されていた

皮膚は身体全体を包む人体最大の臓器とみなされていて、体温調節や保湿、病原体による感染防御など、複数の重要な役割を担っています。

皮膚の最外層を構成する脂質は、皮膚の機能に不可欠です。脂質組成が変化すると、保護バリアとしての機能が損なわれ、湿疹や乾癬をはじめとするさまざまな皮膚疾患を引き起こす可能性があります。

皮膚に生息する微生物群(マイクロバイオーム)は、脂質バリアと密接に相互作用しています。これらの微生物は、皮膚の脂質を栄養源として利用し、その過程で皮膚の健康に影響を与えます。

皮膚のマイクロバイオームは、多様な微生物種によって構成されており、アクネ菌(Cutibacterium acnes)もその一部です。

ニキビは、皮脂腺の過剰な活動と毛穴の詰まりにより引き起こされると言われる。
ニキビは、皮脂腺の過剰な活動と毛穴の詰まりにより引き起こされると言われる。 / Credit: Canva

ニキビの発生は、マイクロバイオームのバランス崩れによる皮脂の過剰生産が関連しています。

アクネ菌は、過剰な脂質を栄養源として利用するため、脂質が多いとアクネ菌が増殖しやすくなり、それがニキビ形成につながる可能性があるというわけです。

このようなアクネ菌のはたらきは、この菌をニキビの原因として有名にしましたが、一方で、アクネ菌には良い側面がある可能性も指摘されていました。

先行研究では、アクネ菌は黄色ブドウ球菌などの病原性細菌の増殖を抑制する効果がある可能性や、過剰に増えた常在菌の一種である表皮ブドウ球菌の活動も抑える可能性が示唆されていたのです。

このようにアクネ菌には、皮膚に対する悪い側面と良い側面があり、その全体像は完全には理解されていませんでした

そこで、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)のアルモウラビー(Almoughrabie)氏らの研究チームは、皮膚マイクロバイオームに焦点を当て、皮膚が感染症や環境から身体を守る仕組みを研究しました。

結果、アクネ菌が皮膚のマイクロバイオームのバランスを整え、水分損失を減らし、微生物の侵入に対する抵抗力を高めることを発見したのです。

アクネ菌は脂質の蓄積を促して皮膚を「ふっくら」させる

研究者らは、脂質の生成におけるマイクロバームの役割を明らかにするために、ヒトの皮膚ケラチノサイト(表皮の最上層を構成する細胞)を、皮膚に自然に存在する様々な細菌に接触させ、脂質組成の変化を分析しました。

その結果、アクネ菌のみが細胞内での脂質産生の増加を引き起こしたことがわかりました。

具体的には、セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸、トリグリセリドを含む総脂質が3倍増加したのです。これらは、皮膚のバリア機能を維持し、ダメージから保護するのに不可欠な脂質として知られています。

次に研究者らは、この脂質の増加が主にプロピオン酸という短鎖脂肪酸の生成によるものと特定しました。プロピオン酸は、病原菌の増殖を抑制し、ブドウ球菌の感染を抑え、腸内の抗炎症作用にも寄与する脂肪酸です。

さらに、遺伝子検査を通じて、アクネ菌がPPARαを刺激し、プロピオン酸の生成を増加させることを突き止めました。PPARαは、脂肪酸の酸化と輸送を制御するホルモン受容体で、アクネ菌の刺激により、皮膚細胞の脂質の合成が増加します。

これらの脂質はセラミドの前駆体となる脂肪酸に分解され、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たします。

研究者らこの研究で、アクネ菌によって誘導される脂質の蓄積が、皮膚のバリア機能を直接改善し、水分損失を減少させ、抗菌活性を増加させることを示したのです。

トリグリセリド合成に対するアクネ菌の影響と、表皮バリアを形成する他の脂質との関係のモデル。暗い赤色の太い矢印は、PPARαの活性化によって誘導される生成物を示す。
トリグリセリド合成に対するアクネ菌の影響と、表皮バリアを形成する他の脂質との関係のモデル。暗い赤色の太い矢印は、PPARαの活性化によって誘導される生成物を示す。 / Credit: Almoughrabie, S. et al. (2023)

この研究では、アクネ菌が皮膚の健康に良い影響を与える可能性が示されましたが、どの脂質が皮膚の健康に大きく寄与するかの特定には至りませんでした。

また、研究はヒトの皮膚サンプルとマウスモデルを用いて行われたため、実際の患者の皮膚でどのような影響があるかは、まだ正確にはわかりません。

とはいえ、皮膚のバリア機能改善という「良い側面」がさらに研究されれば、長らく「悪者」とされてきたアクネ菌も汚名を返上できるかもしれません。

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参考文献

Acne bacteria trigger cells to produce fats, oils and other lipids essential to skin health – new research
https://theconversation.com/acne-bacteria-trigger-cells-to-produce-fats-oils-and-other-lipids-essential-to-skin-health-new-research-211861

元論文

Commensal Cutibacterium acnes induce epidermal lipid synthesis important for skin barrier function | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adg6262

ライター

鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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