多くの学生や社会人は、差し迫る期限と戦うために徹夜で作業した経験があるはずです。
また医療や介護施設など、定期的に夜勤業務を果たさなければいけない職場もあります。
子育て中の親たちは、「毎日が夜勤」のような状態かもしれませんね。
ではそれら過酷な夜勤をサポートするために、より効果的な仮眠の方法はあるのでしょうか?
広島大学大学院医系科学研究科の折山早苗氏は、これまでに行われたいくつかの研究を再分析し、理想的な仮眠の方法を報告しました。
120分仮眠できる場合、1度にまとめるよりも、90分と30分の仮眠に分ける方が、眠気を感じずに作業できるというのです。
研究の詳細は、2023年6月18日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
- 夜勤の看護師たちを助ける「仮眠の研究」
- 眠気を抑えるには90分と30分に分割した仮眠が効果的
夜勤の看護師たちを助ける「仮眠の研究」
人間の身体では、光に敏感な体内時計が日中の覚醒を促します。
逆に夜間では睡眠に向けて脳のスイッチが切れやすくなり、集中力が低下していきます。
しかし、2交替制が採用されている医療機関では、夜勤の看護師たちが夕方16時から朝9時まで働き、その中で2時間の仮眠を取っています。
命を扱う現場だからこそ、仮眠によって集中力を持続させ、ミスや事故を防ぐ必要があるのです。
折山氏は、これまでに夜勤や仮眠に関する複数の実験を行ってきました。
それら過去の研究では、それぞれ実験した年が異なるものの、夜勤の間に「120分の1回の仮眠(2012年)」「90分と30分に分けた2回の仮眠(2014年)」「仮眠なし(2018年)」の3つの条件がテストされています。
参加者は、合計41名(20代女性)です。
ちなみに睡眠のサイクルは、浅い睡眠(30分)と深い睡眠(60分)の繰り返しであり、個人差はあるものの、1セット90分だと考えられています。
90分ごとの仮眠であれば、疲労回復に役立つだけでなく、スッキリと目覚められるのです。
一方、30分以内の仮眠は深い睡眠に入る前に覚醒するため、目覚めが良く作業効率を高めることができます。
そのため仮眠を2回に分割するケースでは、仮眠時間を60分と60分ではなく、90分と30分にしているのでしょう。
そして今回、折山氏は、これらの研究データを再分析することで、16時から翌9時までの夜勤における理想的な仮眠の方法を見つけようとしました。
眠気を抑えるには90分と30分に分割した仮眠が効果的
再分析の結果、120分(22時~24時)の1回の仮眠を取った人は、4時になると強烈な眠気と疲労感に襲われ、それがシフト終わりまで続くと判明しました。
一方、2回の仮眠(22時30分~24時、2時30分~3時)に分けた人は、6時まで眠気を感じませんでした。
また午前9時までの疲労感も軽減しました。
同じ睡眠時間でも2回に分割した方が、眠気や疲労感を感じにくかったのです。
認知課題のパフォーマンスに関しては、1回の仮眠と2回の仮眠に差はありませんでした。
ただし、分割した90分の仮眠において、眠りに落ちるのに時間がかかった人は、内田クレペリン精神検査(タスクの速度と正確性を測定する試験)のスコアが悪かったようです。
眠りに落ちるのに時間がかかったため90分の睡眠サイクルが崩れ、深い眠りの途中で起きなければいけなかったからでしょう。
加えてこの研究では、仮眠のタイミングも重要だと判明しました。
仮眠のタイミングが遅くなるほど、眠気や疲労感を防ぐ効果が高まる傾向にあったのです。
ただし遅すぎると、睡眠欲が高まって作業中の集中力が妨げられる可能性もあるため、今後より適切なタイミングを探す必要があります。
また、今回は2回の仮眠で6時まで眠気を抑えることができましたが、研究者は「5時から6時までの間に30分の仮眠を追加する」ことも提案しています。
そうすることで、7時から8時に襲ってくる眠気に対処し、夜勤の最後まで眠気に勝つことができるかもしれません。
結論として折山氏は、「長期的なパフォーマンスを維持するための90分の仮眠と、疲労感を軽減して素早い反応を維持するための30分の仮眠を組み合わせることで、早朝の作業効率と安全性を高めることができる」と述べています。
今回の結果は、看護師だけでなく、夜勤や徹夜で作業する多くの人々、また乳幼児を育てる親たちにとって有益ですね。
もし今晩、徹夜の予定があるなら、90分と30分の仮眠を試してみてはいかがでしょうか。
参考文献
New parent? Night shift? New analysis suggests ideal nap strategy to survive all-nighters https://www.hiroshima-u.ac.jp/en/news/78987 The best snoozing strategies for surviving an “all-nighter” https://newatlas.com/health-wellbeing/best-napping-strategies-for-surviving-an-all-nighter/元論文
Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study https://www.nature.com/articles/s41598-023-37061-9