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インドとヨーロッパの言葉の共通起源は8100年前のトルコ農耕地域だった!


もしバベルの塔の話が事実なら、それは8120年前だったかもしれません。

ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所(MPI EVA)で行われた研究により、インド・ヨーロッパ語族の起源が、およそ8120年前に現在のトルコ東部の農耕地帯にあったことが示されました。

インド・ヨーロッパ語族はヨーロッパから中東を経てインドに至る地域に住む30億人の人々が話している言語族であり、もともとは1つの起源から枝分かれしたと考えられています。

研究結果は過去に行われたDNAの分析結果とも一致するものとなっており、長年の謎を解き明かす第一歩になると期待されます。

インド・ヨーロッパ語族はどのようにうまれ、どのようなルートで拡散していったのでしょうか?

この研究の詳細は2023年7月28日に『Science』に掲載されています。

目次

  • 30億人が話す言葉の起源を探る
  • 8120年前のトルコ東部に住んでいた農耕民が起源

30億人が話す言葉の起源を探る

ヨーロッパから中東を経てインドに広がるインド・ヨーロッパ語族は元は単一の起源を持っていました
Credit:国立民族学博物館言語チーム

ユーラシア大陸の多くの人々は「足」を現すのに似た言葉を使っています。

フランスでは「ピエ(pied)」ベンガル語では「パー(pa)」初期ヴェーダ語では「pat(パット)」英語では「food(フッド)」などです。

どれも「P」や「T」を含む似た音を持つことがわかります。

また数字の3を現わす言葉は、英語なら「three(スリー)」ラテン語なら「tres(トレース)」ヒンディー語なら「तीन(ティーン)」となっています。

こちらもやはり「T」を基本にした音の響きを持っています。

このような類似点が存在するのは、ヨーロッパからインドにかけて使用されている言語が、インド・ヨーロッパ語族と呼ばれる、同じ系統の言語に属しているからです。

ヨーロッパ人とインド人は文化も肌の色も全く違うように思えますが、遺伝的にはヨーロッパ人もインド人も同じコーカソイドと呼ばれる人種に分類されます。

(※アジア系はモンゴロイド、アフリカ系はネグロイドと呼ばれています)

ヨーロッパ人とインド人は遺伝的に近く同じコーカソイドに属します
Credit:wikipedia

極論すれば「インド人は肌が黒いだけのヨーロッパ人」あるいは逆に「ヨーロッパ人は肌が白いだけのインド人」となるでしょう。

現在、インド・ヨーロッパ語族に属する言語を母国語とする人々は30億人に及び、多種多様の言語にわかれていますが、それらすべてが共通の母体となる言語(原語)から枝分かれしたと考えられています。

現在30億人に及ぶと言われているインド・ヨーロッパ言語属は「いつ・どこで・誰が」話しはじめたのでしょうか?

8120年前のトルコ東部に住んでいた農耕民が起源

これまでインド・ヨーロッパ語族の起源については草原地域とする説と農耕地域とする2つの説がありました
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

これまでは、インド・ヨーロッパ語族の起源について主に2つの有力な説が提示されていました。

1つ目は6500年前に黒海北部の草原地帯を起源とする「草原仮説」で、2つ目は9500年前に現在のトルコの東部からイラン北西部を起源とする「農耕仮説」です。

(※草原仮説はクルガン仮説とも言われており、農耕仮説はアナトリア仮説と呼ばれることもあります)

古代人の遺伝子をもとに人々の移動経路を分析した研究ではやや農耕仮説よりの結果が出ており、現在のトルコよりさらに東部、コーカサス山脈の南あたりが起源との結果が出ています。

しかし草原仮説を否定するまでには至らず、最終的な結論は得られていません。

言語の分岐を追跡するのは生物の進化の系統樹を作成するよりも困難です。

DNAの変異を元にした追跡ならば2系統への分岐が起こるまでの時間を予測可能ですが、言語の場合、外来語の流入や戦争による民族の征服や移民などによって「変異」が起こるタイミングが急加速したり、あるいは逆に停滞することもあるからです。

そこで今回、マックス・プランク進化人類学研究所の研究者たちは、数字、水、火、黒、夜、母、父、兄弟といった基本的な概念に絞って、言語の変化を追跡することにしました。

これら基本的な言葉は、DNAで例えるならば脳や手足、目の遺伝子に相当する部分であり、戦争や移民などで他言語との接触があっても、短期的な影響を受けにくく、それゆえ研究者たちは起源を探るような長期的な分析が可能になると考えました。

インド・ヨーロッパ語族の最初の話者は8120年前に誕生し、その1000年後には既に7つの主流な枝に分岐をはじめていました
Credit:PAUL HEGGARTY et al . Language trees with sampled ancestors support a hybrid model for the origin of Indo-European languages . Science (2023)

調査にあたっては80人以上の言語の専門家からなるチームを編成し、109の現代言語と52の古代言語(合計で161言語)に対して「水」などの基本的な言語の分析を行いました。

結果、インド・ヨーロッパ語族の起源は「草原仮説」とも「農耕仮説」とも異なり、8120年前にトルコ東部(コーカサス山脈の南)に住む農民たちが最初の話者であることが判明しました。

また言語ツリーを分析すると、1000年後には既に7つの主流な系統に分岐していることが判明しました。

トルコ東部のコーカソイド山脈の南が起源であり、草原地域に伝わったことで拡散が早まった
Credit:PAUL HEGGARTY et al . Language trees with sampled ancestors support a hybrid model for the origin of Indo-European languages . Science (2023)

さらに言語がどのような拡散のしたかを調べたところ、トルコ東部(コーカサス山脈の南部)で発生した後に、ほぼ全方向に向けて拡散していたことが判明。

ただ、7000~6500年前に黒海北部の草原地帯に住む遊牧民に伝わったことが、特に東西両地域への飛躍的な拡散につながっていたことがわかりました。

遊牧民たちは馬による長距離移動を行いながら生活をしているため、農耕民族に比べて言語を拡散させる速度が圧倒的に早かったと考えられます。

現在、インド・ヨーロッパ語族の話者は30億人という膨大な数に登るのも、遊牧民によって話者が広い地域に拡散したことが原因のようです。

研究者たちはこの草原地帯をインド・ヨーロッパ語族の「第2の故郷」と述べており、ヨーロッパへの進出も主に草原地帯からの拡散によって起きてたことがわかりました。

一方、インドへは北回りと南回りの経路が複雑な絡み合いをした後に、カスピ海の北側を通るルートや南の中東地域に沿うような南側ルートを経て、およそ5000年前にインド地域に拡散したと考えられます。

新たな研究は農耕仮説をベースに草原仮説の部分を第2の故郷として取り組んだ形になっており、両方の説をハイブリッドしたものと言えるでしょう。

また新たな研究結果はこれまで行われてきた、DNAを用いた人類の移動経路の分析結果とも一致するものとなっていました。

ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』(1563年頃)、ウィーン・美術史美術館蔵
Credit:wikipedia

旧約聖書の記述では、人類がかつてバベルの塔を作ったことで神に罰せられ、言葉が通じなくなったとされています。

しかし実際は、同じ言葉を話していた人々が異なる方向へ進出するにつれて、徐々に言葉が変化し、やがてほとんど通じないレベルに達していたのです。

研究者たちは今回の結果がインド・ヨーロッパ語族の起源問題の最終決定に向けて第一歩となると述べています。

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参考文献

New insights into the origin of the Indo-European languages https://www.mpg.de/20666229/0725-evan-origin-of-the-indo-european-languages-150495-x#:~:text=The%20language%20family%20began%20to%20diverge%20from%20around%208100%20years,Europe%20around%205000%20years%20ago.

元論文

Language trees with sampled ancestors support a hybrid model for the origin of Indo-European languages https://www.science.org/doi/10.1126/science.abg0818?adobe_mc=MCMID%3D34454017283676066229219756601692225856%7CMCORGID%3D242B6472541199F70A4C98A6%2540AdobeOrg%7CTS%3D1690526046#fa
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