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「パンドラの箱」を開けたがる好奇心は人間特有の性質かもしれない


童話などでは、「絶対開けてはダメだ」と言われた箱を開けてしまって大惨事が起こるといった展開をよく見かけることがあります。

日本だと浦島太郎の玉手箱、海外ならギリシア神話に登場するパンドラの箱が有名でしょう。

独マックス・プランク進化人類学研究所(MPI for Evolutionary Anthropology)の研究チームは今回、この好奇心が霊長類にも備わっているかどうかを調査しました。

実験では、中身が見えるご褒美(透明なカップを被せた報酬)と、中身が見えないご褒美(色付きのカップを被せた報酬)を提示。

その結果、霊長類は「中身の見えるご褒美」を、人間の子供は「中身の見えないご褒美」を選ぶ傾向が強いことが判明したのです。

パンドラの箱を開けたがるのは人間の宿命なのかもしれません。

研究の詳細は、2023年5月31日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。

目次

  • 人間の子供は「中身の見えない未知なもの」を選ぶ

人間の子供は「中身の見えない未知なもの」を選ぶ

人間は好奇心旺盛な生き物です。

私たちには未知なものに惹かれ、探求しようとする強い好奇心が普遍的に備わっています。

では、この好奇心は人類にのみ特有の性質なのでしょうか?

それを検証すべく、研究チームは米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と協力して、私たちの進化系統上の従兄弟である霊長類を対象に実験を行い、その結果を人間の子供と比較しました。

パンドラの箱のような逸話は、ダメと禁止されると逆にやりたくなるという好奇心と、中身が見えない未知のものをリスクを冒してでも確かめたくなるという好奇心、2つの好奇心について言及していると考えられます。

今回の研究が確かめようとしているのは、中身が未知のものであるときに、その中身をリスクを冒してでも確かめたくなるという好奇心の方です。

禁止されたことを逆に破りたくなるという問題は、「カリギュラ効果」という呼び名で有名ですが、今回の研究はこちらにはスポットを当てていないので注意しましょう。

実験では、飼育されている大型の霊長類と人間の子供が「見えている報酬」「見えない未知の報酬」のどちらを選ぶ傾向があるかを調べました。

対象としたのは、15頭のチンパンジー(オス5頭・メス10頭・平均30歳)、3頭のゴリラ(全員メス・平均14歳)、6頭のボノボ(オス2頭・メス4頭・平均22歳)、5頭のオランウータン(オス2頭・メス3頭・平均26歳)です。

これらの霊長類には、カップを被せた状態のブドウを報酬として、目の前に2つ提示しました(下図を参照)。

1つは透明のカップで中のブドウは見えるがサイズが小さいもの、もう1つは色付きのカップで中身が見えないが大粒のブドウが入っています。

一方で人間の子供では3歳から5歳の72人を対象に、報酬のブドウをステッカーに変えました。

透明なカップにはステッカーが1枚、色付きのカップの下にはステッカーが3枚隠されています。

人間の子供たちには実験前に、カップの下に何があるかを聞かされていません。つまり、何も入っていない可能性もありますし、今回の報酬とは何も関連しないものが入っている可能性もあるのです。

今回の研究は、同じ実験セットを使って人間の子供と霊長類の「好奇心」を比較した世界初の研究とのことです。

霊長類を対象とした実験のイメージ図
Credit: MPI for Evolutionary Anthropology –Curious children, less curious apes(2023)

テストを何度も繰り返してデータを集めた結果、人間の子供の方が、中身の分からない未知のカップを選ぶ傾向が遙かに強いことが示されました。

一連の実験では、およそ77〜85%の子供が中身の分からない報酬を選択したのに対し、霊長類では24%に留まっていたのです。

霊長類の大半は、すでに報酬の内容が見えているカップを積極的に選んでいます。

しかし追加実験で、霊長類に色付きのカップを開けて中に大粒のブドウが入っていることを学習させてから選択させてみました。

すると88%以上の霊長類が色付きのカップを選ぶようになっています。

霊長類は中に入っているものを学習することで、得られる報酬を最大化しようとする知力は働いているようです。

しかし人以外の霊長類は報酬が得られないリスクを冒してでも、見えないカップの中身を知りたいという好奇心はあまりないことがわかります。

生まれつきの好奇心が人類をアフリカから脱出させた?

2枚目の画像
Credit: canva

人間の子供たちは報酬が得られない可能性があるにも関わらず、色付きのカップを積極的に選んでいました。

これは私たち人類に「未知なるものへの探究心や好奇心」が生得的に備わっていることを示唆するものです。

一方で霊長類は中身が見えない報酬には消極的であり、全体を通してリスクを嫌う傾向がありました。

この結果を受けて、研究者らは「人類に生まれつき備わった強い好奇心が、他の霊長類とは違って、アフリカから他の大陸への進出を促した可能性がある」と述べています。

しかし未知なるものの探求には常に、無限の可能性とともに大小さまざまなリスクが付き物です。

あらゆる災いをもたらす「パンドラの箱」を開ける性向は、人間を人間たらしめている本質的な部分なのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Curious children, less curious apes https://www.mpg.de/20388599/0531-evan-curious-children-less-curious-apes-150495-x The Temptation to Open Pandora’s Box Could Set Us Apart From Other Apes https://www.sciencealert.com/the-temptation-to-open-pandoras-box-could-set-us-apart-from-other-apes Children are more curious than apes, often choosing a ‘mystery box’over a certain reward https://phys.org/news/2023-05-children-curious-apes-mystery-reward.html

元論文

Comparative curiosity: How do great apes and children deal with uncertainty? https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0285946
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