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重度の食欲不振を解消する!トカゲの皮膚に触発された「胃の電気刺激カプセル」


病気やストレスが原因で、「食欲がない」「何を食べても吐き気がする」と悩むケースがあります。


こうした食欲不振が続くなら、必要な栄養が体と脳に供給されず、患者はますます弱っていきます。


これまでの研究で「胃に電気刺激を与える」方法が食欲不振の解消に効果的だと分かっていますが、外科的な処置が必要であり、患者の負担は大きくなります。


今回、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科に所属するカリル・B・ラマディ氏ら研究チームは、胃の中で電気刺激を与えて食欲不振を解消するカプセルを開発しました。


面白いのはこのカプセルがトカゲの皮膚に触発されて開発されたという点です。これはどういうことなのでしょうか?


研究の詳細は、2023年4月26日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。




目次



  • 胃の電気刺激で食欲不振を解消する
  • 砂漠のトカゲの皮膚に触発されたカプセルの表面構造

胃の電気刺激で食欲不振を解消する


がん患者の多くは、精神的なストレスや抗がん剤治療の影響で、食欲不振や吐き気が続く場合があります。


体は栄養を必要としているのに、どうしても食事することができない場合があるのです。


体は栄養を必要としているのに食欲がわかない
Credit:Canva

研究チームは、こうした患者をサポートするために、食欲不振を解消する方法を探ってきました。


今回彼らが注目したのは、胃で分泌される食欲ホルモン「グレリンです。


グレリンは空腹感を促進し、吐き気を軽減することで知られており、通常は私たちの胃が空っぽの時に分泌されます。


ところが病気などが原因で、これらの反応が低下し、食欲がなくなることがあります。


研究チームはこれまでの研究から、胃を電気で刺激することで、グレリンの分泌を促進させられると考えました。


電気刺激でホルモンを刺激し、食欲不振を解消する方法
Credit:Giovanni Traverso(YouTube)_FLASH –Full Length(2023)

そして動物の胃に電極を使って電気刺激を与える実験では、20分の刺激の後、血中グレリン値がかなり上昇しました。


しかも電気刺激による重大な炎症やその他の悪影響は見られませんでした。


ただし、電極で胃の内側を刺激する方法を人間に適用するのは簡単ではありません


ペースメーカーのような電気刺激デバイスを埋め込む方法もありますが、外科手術が必要であり、患者の負担も大きくなります。


胃組織に電気刺激を与えるカプセル
Credit:Khalil B. Ramadi(MIT)_Ingestible “electroceutical” capsule stimulates hunger-regulating hormone(2023)

そこでチームは、飲み込むだけで作用する「電気刺激カプセル」を開発することにしました。


ところが、この方法には1つの大きな課題があります。


それは胃の内側を覆っている胃粘液などに邪魔され、カプセル上の電極が胃組織に接触しにくいというものです。


カプセルが確実に電気刺激を与えるには、胃をコーティングする粘液を取り除かなければいけないのです。


そこで研究チームが着目したのが、砂漠に住むトカゲの皮膚にある表面構造でした。


砂漠のトカゲの皮膚に触発されたカプセルの表面構造


モロクトカゲの皮膚は、毛細管現象を利用して体中から水分を集めることができる
Credit:Giovanni Traverso(YouTube)_FLASH –Full Length(2023)

研究チームは、課題に取り組むために、オーストラリアの砂漠に生息するモロクトカゲ(学名:Moloch horridus)の特殊な皮膚に着目しました。


モロクトカゲが乾燥した砂漠でも生きていけるのは、水分を集めやすい特殊な皮膚のおかげです。


このトカゲの全身の皮膚には細い溝が入っており、すべて口に繋がっています。


皮膚に付着した水は、毛細管現象(細い管の内側の液体が静電気力によって管の中を移動する現象)によって自然と口元に集まるため、体全体に付着した水分を効率的に集めて飲むことができるのです。


ちなみに、この時作用する毛細管現象は、重力に逆らって水分を移動させることもあります。


カプセルの表面の「溝」が胃液を吸い取る。「山」の電極が胃組織と接触し電気刺激を与える
Credit:Khalil B. Ramadi(MIT)_Ingestible “electroceutical” capsule stimulates hunger-regulating hormone(2023)

研究チームは、モロクトカゲのように毛細管現象を生じさせる溝をカプセル表面に追加しました。


しかもこの溝には親水性コーティングが施されており、より水を引き付けやすくなっています。


これにより、カプセルが胃に接触することで表面の胃液を吸収し、電極(溝と溝の間の山部分)と胃組織が直に接触できるのです。


カプセルの溝の毛細管現象により、胃の表面を覆う胃液を吸い取る
Credit:Giovanni Traverso(YouTube)_FLASH –Full Length(2023)

またカプセル内部にはバッテリーと電子部品が内蔵されています。


この新しい電気刺激カプセルは「FLASH」と名付けられました。


今回の研究で使用されたプロトタイプでは電流が常に流れた状態ですが、将来的にはワイヤレスで電流のON/OFFを切り替える機能が追加されるでしょう。


そしてFLASHをブタの胃に投与する実験では、FLASH摂取後20分以内に効果が発揮され、約1時間にわたって血中グレリン値を大幅に上昇させることに成功しました。


そしてカプセルは最終的に糞便と共に排出され、有害な副作用は観察されませんでした。


ラマディ氏は、「カプセルの電気刺激で、体内ホルモンのレベルを上昇させた最初の例」だと主張しています。


研究チームは、FLASHを消化管の他の部分にも応用する予定であり、3年以内には、人間の患者でテストしたいと考えています。


近い将来、食欲不振や吐き気で苦しんでいる人が、カプセルを飲み込むだけで再び食事を楽しめるようになるかもしれません。



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参考文献

Ingestible “electroceutical” capsule stimulates hunger-regulating hormone
https://news.mit.edu/2023/ingestible-capsule-stimulates-hunger-regulating-hormone-0426
Gut-zapping lizard-inspired capsule could boost patients’appetites
https://newatlas.com/medical/flash-capsule-ghrelin-appetite/

元論文

Bioinspired, ingestible electroceutical capsules for hunger-regulating hormone modulation
https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.ade9676
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