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泳ぎながら寝落ちする!?キタゾウアザラシのすごく危険な睡眠方法


北アメリカ西岸に分布する「キタゾウアザラシ(Mirounga angustirostris)」は、12月〜翌3月の繁殖期になると、陸上で1日10時間以上も爆睡します。

ところがそれ以外の採餌期には一転して、1日2時間のショートスリーパーに変貌するようです。

米カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)はこのほど、野生のキタゾウアザラシの脳波を記録し、海で過ごす数カ月間の睡眠習慣を世界で初めて解明しました。

それによると、潜水中にほとんど気絶したように沈んでいきながら、一回に10分ほどの短い睡眠を取っていたようです。

研究の詳細は、2023年4月20日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次

  • 一日ずっと潜水しているキタゾウアザラシはいつ寝ているのか?
  • 気絶したように落下しながらパッと寝る!

一日ずっと潜水しているキタゾウアザラシはいつ寝ているのか?

研究チームは過去25年以上にわたり、カリフォルニア州のアニョ・ヌエボ保護区に生息するキタゾウアザラシの追跡調査を行ってきました。

アニョ・ヌエボには毎年、繁殖シーズンになると1万頭を超える個体が上陸します。

陸に上がったキタゾウアザラシたちは、1日に平均10時間以上も爆睡するのです。

陸では1日10時間以上も爆睡する
Credit: UCSC –Elephant seals drift off to sleep while diving far below the ocean surface(2023)

しかしそれ以外の8カ月間は海に戻り、巨体を維持するために24時間体制で餌を探し回っています。

1日のほとんどを潜水に当てており、通常は水深300〜800メートルで狩りをしますが、水深1500メートルまで潜ることも可能です。

そうは言っても哺乳類なので、息継ぎのために水面に上がらなければなりません。

サメやシャチなどの天敵に最も襲われやすくなるのはこのときです。

そのため、キタゾウアザラシは一回約30分の潜水ごとにわずか1〜2分しか水面に浮上しません。

アニョ・ヌエボで爆睡するキタゾウアザラシたち
Credit: en.wikipedia

しかし一番の問題は「彼らがいつ睡眠を取っているのか」ということです。

研究主任のダニエル・コスタ(Daniel Costa)氏は「潜水記録を見てみると常に潜水しているので、いつどのように寝ているのかが不明でした」と話します。

そこでチームは、アニョ・ヌエボに集まるキタゾウアザラシを対象とした睡眠調査を実施しました。

気絶したように落下しながらパッと寝る!

チームは脳波活動を記録できるヘッドキャップを準備し、アニョ・ヌエボ保護区にいる野生のキタゾウアザラシのメス13頭に装着。

合計104回の潜水行動から脳波を記録し、潜水データのみから睡眠周期を特定できる高精度のアルゴリズムを開発しました。

そして2004年〜2019年にかけて、334頭の成熟個体から数カ月にわたる潜水データを集め、先のアルゴリズムを適用して睡眠習慣を明らかにしています。

その結果、キタゾウアザラシたちは「ドリフトダイブ」と呼ばれる、泳ぐのをやめてゆっくり沈む行動の合間に短い睡眠を取っていることが分かったのです。

記録によると、まず水深60〜100メートルまで潜水した後、リラックスモードに入りながらゆったりと潜り続け、「徐波睡眠」という深い睡眠段階に移ります。

深い眠りの「徐波睡眠」に移行
Credit: Scripps Oceanography –Study Reveals Sleeping Habits of Elephant Seals at Sea(youtube, 2023)

その後、水深200メートルを越えたあたりから眠りの浅い「レム睡眠」に移行し、睡眠麻痺によって姿勢が維持できなくなると、逆さまにひっくり返った状態(お腹が上を向く)になっていました。

もはや傍目から見ると、死んでいるようにしか見えないでしょう。

そして、チームが「睡眠スパイラル(sleep spiral)」と呼ぶ、まるで落ち葉が落下するように螺旋を描きながら沈み続けます。

この深さまで来ると、サメやシャチなどの天敵もいないので安心して眠れるそうです。

螺旋を描きながら沈んでいく(レム睡眠)
Credit: Scripps Oceanography –Study Reveals Sleeping Habits of Elephant Seals at Sea(youtube, 2023)

こうして一回の潜水につき5〜10分ほど眠ると、目を覚まして水面まで浮上します。

結果、この一連の動作を何度か繰り返して、1日に平均2時間の睡眠を取っていました。

これは他の哺乳類と比べても世界最短級の睡眠時間です。

現時点で最も睡眠時間の短い哺乳類はアフリカゾウの2〜3時間と言われています。

眠りのままに螺旋を描きながら落ちていく
Credit: UCSC –Elephant seals drift off to sleep while diving far below the ocean surface(2023)

さらに不思議なことに、キタゾウアザラシの睡眠習慣は、これまで知られている他の海洋哺乳類とはかなり違っていました。

研究主任の一人であるジェシカ・ケンダル=バー(Jessica Kendall-Bar)氏は「多くの海洋哺乳類は、一度に右脳か左脳のどちらか半分だけを休ませる」と指摘。

「イルカやアシカ、オットセイなどは、この半覚醒状態によって文字通り片目を開けたまま眠り、常に周囲を警戒できるのです」と説明します。

ところがキタゾウアザラシは、私たち人間と同じように脳全体を休ませてガッツリ睡眠を取っていたのです。

イルカは常に半脳だけ寝かせる、アシカ・オットセイは水中では半脳だけ、陸では全脳を寝かせる
Credit: UCSC –Elephant seals drift off to sleep while diving far below the ocean surface(2023)

右脳も左脳も完全にシャットダウンすることで、周囲は警戒できず無防備になってしまいますが、短い時間でしっかり深い睡眠を取ることができます。

それが可能なのは、天敵のいない深さまで潜水しながら眠れるキタゾウアザラシの秘技のおかげでしょう。

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参考文献

Elephant seals drift off to sleep while diving far below the ocean surface https://news.ucsc.edu/2023/04/sleeping-seals.html#:~:text=They%20sleep%20for%20about%2010,lying%20motionless%20on%20the%20seafloor. Northern elephant seals sleep just two hours a day at sea https://www.sciencenews.org/article/northern-elephant-seals-sleep-sea

元論文

Brain activity of diving seals reveals short sleep cycles at depth https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf0566
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