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元ダイバーが100日間の水中生活に挑戦!


地球の環境もだんだんと変化しており、地上が必ずしも過ごしやすい場所とは言えなくなってきました。

地下都市や水中都市のようなSF的な暮らしも、近い将来では当たり前になるかもしれません。

しかし水中施設では、気圧が地上と異なったり、直接日光を浴びられないなど人体にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

そこで南フロリダ大学(University of South Florida)の医用生体工学者であり元ダイバーのジョー・ディトゥリ氏は、水中ホテルで100日間生活する実験に挑戦しています。

2023年3月1日に始まったこのチャレンジは、現在も進行中であり、100日間の滞在に成功するなら、水中滞在の世界新記録が樹立されます。

詳細は、2023年3月1日付の南フロリダ大学のニュースルームで報告されています。

目次

  • 元海軍のダイバーが仲間のために外傷性脳損傷の治療法を研究する
  • 水中生活100日ミッションがスタート

元海軍のダイバーが仲間のために外傷性脳損傷の治療法を研究する

宇宙で人間が長期滞在することは、宇宙探査や微小重力環境ならではの実験、それが人体にもたらす影響の調査などを推し進めるのに役立ちます。

同様に水中で人間が長期滞在するなら、深海探査を推し進め、海洋資源の有効活用法を発見したり、高気圧環境がもたらす人体への影響(医療への応用)を分析したりできます。

元ダイバーで現研究者のジョー・ディトゥリ氏
Credit:Joseph Dituri(University of South Florida)_USF researcher attempts to set world record by living underwater for 100 days – hopes to emerge ‘super-human’(2023)

今回の主役であるジョー・ディトゥリ氏は、アメリカ海軍で28年間潜水士として勤務してきました。

そしてその仕事を引退した後、南フロリダ大学に入学。現在では博士号を取得して、医用生体工学のクラスを受け持っています。

彼が特に関心を抱いているのは、外傷性脳損傷です。

外傷性脳損傷とは、頭に強い衝撃が加わることで脳が傷ついたり、出血したりすることであり、症状としては、記憶障害、半身麻痺、感覚障害などが挙げられます。

衝撃による直接的なダメージだけでなく、脳内の血腫(血のかたまり)による脳の血流障害が原因だと言われています。

ディトゥリ氏は「軍隊にいる私の仲間の多くが外傷性脳損傷に苦しんでおり、彼らを助ける方法を学びたかった」と述べています。

高気圧環境である水中生活が、外傷性脳損傷の治療に役立つかも
Credit:Canva

そして高気圧環境が脳の血流を増大させて血流障害を改善する可能性に注目し、高気圧環境である「水中での長期滞在」が人体にもたらす影響を調査したいと考えました。

もし悪影響が見られず、外傷性脳損傷の治療に役立つことが分かれば、多くの人を救う新たな治療法を生み出すことができるはずです。

水中生活100日ミッションがスタート

ディトゥリ氏による水中生活100日ミッションがスタート
Credit:University of South Florida(YouTube)_Media Availability: USF researcher attempts to set world record by living underwater for 100 days(2023)

今回ディトゥリ氏は、自らが実験対象となり、長期の水中生活を送ることにしました。

アメリカ唯一の水中ホテル「ジュールス・アンダーシー・ロッジ」で、100日間生活することにしたのです。

この施設は、フロリダ州の細い列島フロリダキーズ付近の海面下約10mに位置し、55m2のスペースがあります。

ジュールス・アンダーシー・ロッジの様子。潜水して出入りする
Credit:Classroom Under the Sea(YouTube)_Tour of the underwater habitat(2014)

水中ホテルと言っても、滞在者は絶えず水に接するわけではありません。

施設自体がコップを逆さにして海に沈めたような構造であり、居住空間の上部には空気のポケットが存在するのです。

ホテルに出入りするには、10mほど潜水する必要がありますが、普段は空気のある場所で生活できます。

しかし同じ空間でも、このホテルと潜水艦では環境が大きく異なります。

通常、潜水艦の内部は気圧が調整されているため、何百m潜ろうと、人体への大きな影響はありません。

ところがこのホテルでは、そのような気圧調節がなされていないため、水深10mで海面の2倍の気圧が滞在者に絶えず加わります

水中ホテルで「ダイバーが運んできたピザを食べる」なんてことも可能
Credit:Classroom Under the Sea(YouTube)_Tour of the underwater habitat(2014)

そしてこの100日生活ミッションは、2023年3月1日に始まっており、2023年4月現在も続いています。

現在の水中生活の世界記録は73日間(2014年)であるため、このミッションを完遂した時には、世界新記録が誕生することになります。

ディトゥリ氏はTwitterやYouTubeで近況を伝えており、3月末には専門家の健康診断を受けたり、健康を維持するためにトレーニングしたりする映像が投稿されました。

水中ホテルで検査を受けたり、トレーニングしたりしている様子
Credit:Dr. Deep Sea(YouTube)_Crazy house calls by great doctor…UNDERWATER(2023)Dr. Deep Sea(YouTube)Working out underwater(2023)

30日以上経過した現在では、特に問題もなく元気そうな表情を見せています。

また4月1日のエイプリルフールでは、「プレスリリース:水中で生活する研究者にエラと水かきが発達」という写真付きのネタを投稿しました。

水深30m以上の気圧下では、空気中の窒素が肺の壁を越えて血液中に溶け込み、「窒素酔い(ナルコシス)」と呼ばれる酔ったような状態を生じさせます。

今回の実験は水面下10mで行われているため、そのような状態になることはありませんが、長期の滞在が人体に悪影響を及ぼさないか慎重に観察する必要があるでしょう。

そのうちの1つは、日光(紫外線)を浴びて生成される「ビタミンD」の不足です。

ディトゥリ氏は、ビタミンD不足による免疫機能の低下を生じさせないため、食品やサプリメント、またUVランプなどでビタミンDを補充しています。

それでも今後の体調の変化には敏感でなければいけません。

水中生活は新たな治療法をもたらすのか
Credit:Joseph Dituri(University of South Florida)_USF researcher attempts to set world record by living underwater for 100 days – hopes to emerge ‘super-human’(2023)

そして当初の目的である「高気圧環境での長期滞在」が、外傷性脳損傷の治療に役立つのかどうかも、今後の観察と研究で明らかになるでしょう。

またディトゥリ氏は、「高気圧環境では細胞が5日間で2倍になった」という過去の発見から、「今回の実験は、人間の寿命を延ばし、加齢に伴う病気を予防する可能性を秘めている」とも主張しています。

人類で初めて水中で100日間生活するディトゥリ氏は、果たして彼の望む通り「超人」となり、新たな治療法をもたらすのでしょうか。

彼の今後の報告に注目できます。

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参考文献

USF researcher attempts to set world record by living underwater for 100 days – hopes to emerge ‘super-human’ https://www.usf.edu/news/2023/usf-researcher-attempts-to-set-world-record-by-living-underwater-for-100-days-hopes-to-emerge-super-human.aspx A professor is going to live in an underwater hotel for 100 days – here’s what it might do to his body https://theconversation.com/a-professor-is-going-to-live-in-an-underwater-hotel-for-100-days-heres-what-it-might-do-to-his-body-202644
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