長寿遺伝子そのものが薬になるかもしれません。
イタリアのIRCCS MultiMedica病院で行われた研究によって、長寿の人々が持つ長寿遺伝子の1つを、無害なウイルスに乗せて高齢マウスに移植したところ、心臓機能が大きく改善すると同時に「心臓の若返り」が起きていることが示されました。
心臓に起きた若返りを人間の年齢に換算すると、およそ10歳に相当するとのこと。
もし同じ仕組みが人間でも機能する場合、心臓をはじめとしたさまざまな器官の生物学的年齢を若返らせる、抗老化遺伝子治療法となるでしょう。
研究内容の詳細は2023年1月13日に『Cardiovascular Research』にて掲載されました。
目次
- 100歳以上の人間の遺伝子を移植するとマウス心臓が若返ると判明!
100歳以上の人間の遺伝子を移植するとマウス心臓が若返ると判明!
若作りや老け顔などに代表される言葉のように、老化スピードは個人によって大きく異なっています。
老化を加速する要因としては古くから喫煙やアルコール、運動不足などの要因が知られていましたが、近年の老化研究は、遺伝子が老化速度に与える影響が非常に大きなことがわかってきました。
たとえば2021年に行われた研究では、平均寿命を大きく超えて生きているスーパーエイジャーと呼ばれる人々は、普通の人には存在しない「長寿遺伝子」を持つことが明らかにされています。
IRCCS MultiMedica病院の研究者たちも以前から遺伝子が寿命に与える研究を行っており、90代以降でも元気に生きている人々の多くには、心臓を良好な状態に保つために重要なBPIFB4と呼ばれる遺伝子に特殊な変異(LAV)が起きていることを発見しました。
(※通常のBPIFB4遺伝子に長寿につながる変異(LAV)が起きるとLAV-BPIFB4と呼ばれる長寿遺伝子になります)
そこで今回研究者たちは、この人間でみられる長寿遺伝子が老齢マウスに与えられた場合、どんな変化が起こるかを調べることにしました。
調査にあたってはまず長寿遺伝子(LAV-BPIFB4)を無害なウイルスに組み込んで、老齢マウスの心臓に感染させました。
すると人間の長寿遺伝子を組み込まれた老齢マウスの心臓機能が回復し、新しい血管の形成を促進するとともに心臓の血流や心血管の状態、心室の機能も改善されていることが判明。
また細胞レベルでは、老化した細胞の数が減少しており、タンパク質の製造能力も回復して、老化現象の一種である心筋の線維化レベルも低下していました。
この結果は、人間の長寿遺伝子を組み込まれた老齢マウスでは心臓の若返りが起こり、構造や機能が大きく改善していることを示します。
また若返りの影響を人間の寿命に換算してみたところ、若返り効果は人間の10歳ぶんに相当することが明らかになりました。
同じ操作を中年マウスに対して行ったところ、新機能の低下を停められることも示されました。
次に研究者たちは、長寿遺伝子の効果を高齢患者から摘出された心臓細胞を用いて調べることにしました。
するとマウスの心臓で起きたの同じような、心臓細胞の若返りが起きていたことが示されました。
この結果は、老化にともなうさまざまな症状に対しても長寿遺伝子の効果があることを示します。
研究者たちは将来的に、長寿遺伝子を患者の細胞に組み込む遺伝子治療や、長寿遺伝子から作られるタンパク質を用いることで、人間の心疾患をはじめとするさまざまな病気の治療につながると結論しています。
参考文献
Transplanting a Gene Common in Centenarians Could Rewind The Heart’s Age by Years https://www.sciencealert.com/transplanting-a-gene-common-in-centenarians-could-rewind-the-hearts-age-by-years元論文
The longevity-associated BPIFB4 gene supports cardiac function and vascularization in ageing cardiomyopathy https://academic.oup.com/cardiovascres/advance-article/doi/10.1093/cvr/cvad008/6986428?login=false