犬には危険がいっぱい
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犬は愛玩動物としても使役動物としても、人間と非常に長い年月の間共に時間を過ごしており、犬を飼っている方の中には犬なしでは生きていけないと感じておられる方もいることでしょう。
それだけ犬は人間と苦楽を共にしている賢い動物ですが、中には、日常生活の中で要らぬものを口にして命を落としてしまったという犬もたくさんいるようです。
そのほとんどが、飼い主がわざと与えたわけではなく、犬が誤って口にしてしまったというものばかりなのも注目に値します。
では、犬が普段口にすることはないはずの食材で、かつ口にすると危険なものについて調べてみましょう。それらについて飼い主が正確な知識を持つことで、愛犬の命を無用な危険にさらすことが減るはずです。
犬が食べると危険な3つの食材
チョコレート
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最近でこそ周知も進んでいますが、やはり犬にとって危険な食材としてチョコレートを挙げないわけにはいきません。チョコレートは犬にとって毒性が強い食材です。
チョコレートに含まれるテオブロミンという有機化合物が犬にとって代謝の難しい成分となっているため、体内に残留して毒性を発揮する危険性があります。テオブロミンの仲間にはカフェインやモルヒネなどがあり、人間でもそれらの作用は明確に表れる場合がほとんどです。
テオブロミンそのものは天然に広く存在する化合物であり、コーラやお茶、コーヒーにも含まれています。人間の場合、カフェインを代謝することでテオブロミンを生成する仕組みになっており、コーヒーや紅茶を飲むことでいつも少量のテオブロミンに変換していることが知られています。
人間はテオブロミンに対する感受性がそもそも低いため、チョコレートを食べても通常死に至ることはありません(過剰摂取は人間でも致命的だが、現実的に食べきれない量のチョコレートを一度に摂取しないと発生しない)。
しかし、犬はテオブロミンを処理するのに時間がかかります。別の言い方をすれば、テオブロミンに“敏感”な体の作りをしているようです。テオブロミンを代謝する力も弱ければ、単純に排出する能力も非常に弱いのが犬の特徴です。
テオブロミンを摂取することで、犬は脱水症状や消化不良、心拍数の増加や精神の影響による興奮状態、失禁や震え、運動失調などの症状を起こします。この中でも最も強いのが心臓への作用で、心悸亢進作用や心拍数の低下を引き起こします。特に小型犬は大型犬に比べてその影響が強く、少量で中毒症状を起こしてしまうため注意が必要です。
そのテオブロミンは、チョコレートの種類によって含有量が変わってきます。テオブロミンを多く含むのは、ずばり「カカオの含有量が多いチョコレート」です。
ダークチョコレートや「カカオ○○パーセント」などのチョコレートは、犬がより中毒症状を起こしやすい危険なチョコレートということになります。
・ホワイトチョコレート無視できるレベル、ほとんど含まない
・ミルクチョコレート150~180ミリグラム
・ビターチョコレート450~600ミリグラム
・ブラックチョコレート1000~1200ミリグラム
以上がチョコレートに含まれるテオブロミンの目安になります。中毒症状を引き起こす目安量としては議論の余地があるものの、「体重1キロ当たり100ミリグラム」と言われています。
チョコレートの量に換算すると、「体重1キロ当たり25グラム」のチョコレートを食べると危険で、致死量は「体重1キロ当たり40グラム」とされています。つまり、体重2キロの小型犬が板チョコ1枚を食べると致死量に近く、命の危険があるということです。
チョコレートを食べた際の中毒症状は明確です。以下に代表的な症状を挙げてみました。
・嘔吐・呼吸が荒くなる、呼吸困難
・心拍数の増加、減少
・血圧低下
・震え、けいれん
・下痢
こうした状態を放置するとやがて昏睡状態となり、呼吸と心拍数をコントロールできずにショック性の死に至る危険性があります。テオブロミンの毒性は最大で72時間続きます。
下痢程度で済めばましですが、出来るだけ早い動物病院の受診が大切です。この中毒症状は、個体差や抵抗力によって異なります。下痢や嘔吐すらせず血圧上昇や心拍数増加で済みそれに気づかない場合や、ふらつきやけいれんなど明確に表れる場合もあります。
致死量は上に挙げた数値ですが、実は危険な兆候が見られるのはもっと少ない数値であり、ほんの少しチョコレートを食べただけでも中毒症状を発症することがあります。
体重1キロ当たり20ミリグラム程度でも犬によっては症状が表れ、毒性やけいれんは40~60mgで発生することもあります。100ミリグラム以下であれば大丈夫、という訳ではないのです。
もちろんこれは、「チョコレート=死を意味する」という意味ではありません。特に、カカオ含有量が少ないミルクチョコレートなどであれば、小型犬でも多少は抵抗力があります。
しかし、チョコレートを避けるに越したことはありません。ダークチョコレートであれば当然反応はより少ない量で発生し、繰り返しになりますが個体差でより重症になる犬もいます。出来ればチョコレートを口にしてから2時間以内には動物病院を受診し、チョコレートの管理はより厳重に行いましょう。
チョコレート以外にも、安全で楽しく食べられる食材やおやつは山のようにあるため、わざわざチョコレートを犬に与える理由はないと言えます。
アルコール
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アルコールは犬にとって毒性が強く、人間のように処理することができません。人間の場合、アルコールは飲料として特別で、楽しい気分になったり味わいを楽しんだりするために飲む方も多いでしょう。
これは、人間にはアルコールを分解する肝臓の機能が備わっているからです。肝臓は刺激物であるアルコールをアセトアルデヒドに分解します。アセトアルデヒドは有機化合物の一つですが、体内では毒性を持つ有害物質です。
人間の体はアセトアルデヒドを酢酸と水、炭酸ガスに分解できます。そのため、最終的に尿として排出されたり、時間がたてばアルコールが体から抜けていったりします。しかし犬の場合、このプロセスそのものがありません。アルコールを分解できず、神経を麻痺させるままになってしまいます。
ご存知のように、アルコールを飲むと酔いを感じ、飲み過ぎると様々な感覚器官が麻痺していきます。急性アルコール中毒で人間が死亡するのは呼吸や鼓動が麻痺するためで、嘔吐物をのどに詰まらせるなどの消化器官の異常を起こすこともあります。
これが、アルコールをまったく処理できない犬の場合は、さらに悲惨な結果を引き起こします。呼吸困難や心肺停止、運動神経が影響を受けることによるふらつきや、立ち上がれない等の症状が見られます。中には一舐めしただけで昏睡状態に陥ってしまった犬や、千鳥足が面白くてちょっとビールを与えたら死んでしまった、というケースも聞かれます。
犬のアルコール致死量は、一般的に次のような量になります。
・犬の体重1kgあたり
アルコール度数5パーセント未満110ml
アルコール度数15パーセント未満40ml
アルコール度数40パーセント未満13ml
・犬の体重2kgあたり
アルコール度数5パーセント未満220ml
アルコール度数15パーセント未満80ml
アルコール度数40パーセント未満26ml
・犬の体重3kgあたり
アルコール度数5パーセント未満330ml
アルコール度数15パーセント未満120ml
アルコール度数40パーセント未満38m
・犬の体重4kgあたり
アルコール度数5パーセント未満440ml
アルコール度数15パーセント未満160ml
アルコール度数40パーセント未満52ml
・犬の体重5kgあたり
アルコール度数5パーセント未満550ml
アルコール度数15パーセント未満200m
lアルコール度数40パーセント未満65ml
この計算でいくと、ウイスキーであればショットグラス3分の1程度で死んでしまうということになります。しかし、アルコールの危険はカクテルなどの甘いお酒の方が高くなります。
ウイスキーやウォッカなどの強いお酒は臭いも強いため、犬が自分から飲もうとすることはあまりありません。しかし甘いお酒の場合は、甘い香りが立ち込めるため、犬もその甘さに誘われて飲んでしまうことがあります。
ビールやワインも危険ですが、ミルクやクリームが入ったいかにも甘いお酒の場合、香りと味に惹かれる犬にとってはより危険になってしまうことがあります。
興味深いことに、猫はそれほどアルコールの危険が及ぶことはありません。
誤解の無いように言えば、もちろん猫にもアルコールは危険です。猫の方が体が小さいことがほとんどであるため、致死量もより低くなります。しかし、猫は甘さを味わう味蕾を持っていません。体の作りとして甘さを感じないようになっているため、香りや味に誘われて飲んでしまうことがあまりないと言われています。
いずれにしても、犬にアルコールは禁物です。神経を麻痺させるアルコールが与える影響は、それを処理できない犬にとっては非常に強力です。遊びでも事故でも、とにかく犬がアルコールを口にしない環境を作りましょう。
自宅で飼い主が飲んでいるうちに寝てしまい、その間に犬が飲んで中毒症状を起こした、というケースもあります。気を抜く自宅だからこそ起こってしまったケースですが、自宅で飲む際には普段以上に気を付けなければならないのかもしれません。
キシリトール
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キシリトールは「糖アルコール」と呼ばれる成分の一つで、甘味料や虫歯予防の成分として使用されています。主にガムや歯磨き粉に配合されているのを見かけるでしょう。
感じる甘味としては砂糖と同じほどでありながら、カロリーが大幅に低いのが特徴です。自然界では野菜や果物に含まれており、人間の肝臓でも毎日生成される成分です。人体には安全で、1日に摂取する上限も特にないと言われるほどです。
そんなキシリトールですが、犬にとっては糖を失わせる原因になります。ご存知のように、動物の体は糖分をエネルギーとして動いており、過度な糖分をインスリンというホルモンによって調節する機能も備わっています。糖や炭水化物を摂取することで脳や細胞のエネルギーとなる糖分を摂取・生成し、余った糖は脂肪として蓄えることも出来ます。
しかし犬がキシリトールを摂取してしまうと、インスリンの働きを過度に強化してしまうことが知られています。インスリンは糖を捕まえて蓄えたり変換したりするため、インスリンが働き過ぎると血糖値を低下させ、必要な糖まで取り除いてしまいます。
そうすると犬の体は低血糖状態に陥り、各臓器や脳がきちんと機能しなくなります。人間でも、低血糖症で動悸や意識障害などを発症することがあります。犬も同じで、キシリトールによって血糖値が異常に下がり、脱力やけいれん、昏睡状態に陥る、意識の低下などが懸念されます。
つまり、キシリトールそのものの毒性というよりは、その作用によっておこる低血糖症が問題視されているということです。興味深いことに、猫に対しての影響は観察されておらず、未だ詳しいことは分かっていません。犬は、体重1キロ当たり1グラムのキシリトールを摂取すると低血糖症になるとされています。
1グラムということですから、非常に少ない量で低血糖症になることが分かります。
しかしアメリカの動物の中毒情報センターでは、2年間キシリトールを摂取し続けて問題のなかったケースと、少量で低血糖症になって死亡したケースと、まるで矛盾するかのようなケースも幾つも報告されています。
これは、キシリトールを摂取する際に他のブドウ糖源があるかどうかに左右されているようです。つまり、キシリトールを摂取した時に炭水化物や甘いものも一緒に摂取しているかどうかが関係しています。インスリンの働きで血糖値を下げるという性質であるため、同時に糖となるものを摂取すると症状が緩和されます。
逆に言うならば、単独でキシリトールだけを摂取した場合が危険で、血糖値を一気に下げてしまう危険性があります。お腹が空いている時にキシリトールガムを食べてしまうと危ない、ということです。
低血糖症に陥った場合は、すぐさまかかりつけの動物病院に連れて行きましょう。症状が出始めた時点で何か砂糖の入ったものを与えると、症状を緩和できます。その場合でも、念のため動物病院を受診するべきかもしれません。虚脱状態や糖への反応もなくなると生存率が下がってしまうため、予断を許しません。
犬は、口腔内のPH値などが関係して虫歯になりにくいため、キシリトールを摂取する必要がありません。キシリトールを含んだ食品を扱う際は細心の注意を払ってください。不思議なことに、人間の場合はインスリンへの作用や反応が見られません。そのため、毒性も中毒症状も一切ないことが知られています。