海外旅行好きな人なら「ライアンエアー」という航空会社の名前を一度は聞いたことがあるだろう。ヨーロッパの格安航空会社(LCC)で、2017年の年間搭乗者数ではルフトハンザグループに次ぐ、欧州2位の規模を誇る。そんなライアンエアーの強みは、何といっても「運賃の安さ」だ。通常期でも片道総額3,000円前後、セール時には1,000円を切る価格で航空券が販売される。
ライアンエアーの性質からなのか、ライアンエアーを選ぶ乗客の性質からなのか、同社は「珍エピソード」の数でも群を抜いている。ライアンエアーに搭乗した男性が駐機場で脱糞する事件や、イギリスの青年が名義変更の手数料が高すぎて本名を変更してしまう、などといったニュースが過去に話題になった。
様々な意味で注目を集めるライアンエアーの、クラクフ発パリ行きFR3699便に搭乗する機会があったのでその様子をレポートする。
FR3699 クラクフ(6:55)〜パリ/ボーヴェ(9:15)
フライトは午前6時55分クラクフ発の早朝便。クラクフ中央駅から空港までは電車で22分かかるため、出発前日は中央駅付近に宿泊し、当日は午前4時に起床して駅に向かった。中央駅と空港を結ぶ電車の時刻表は鉄道会社のホームページの「TIME TABLE」から確認できる。
機内持ち込み手荷物として無料で持ち込めるのは、3辺が35センチx20センチx20センチ以下の小さいカバンと、3辺が55センチx40センチx20センチ以下で重量10キロ以下のカバンかスーツケース。それ以上の荷物が必要な場合は、事前に必要な分だけ受託手荷物を購入できる。事前に購入せずに空港に行った場合は、50ユーロの罰金がかかる。
面白いのが小さいカバンに関して重量の制限がないことだ。この点は多くのLCCと異なるユニークな特徴だといえる。無料の機内持ち込み荷物だけで済ませたいなら、小さいカバンをいかに活用するかがカギになりそうだ。詳しくはライアンエアーの機内持ち込み荷物の規約を確認したい。
ライアンエアーを利用する際に特に気をつけたいのは、事前に「オンラインチェックイン」をしないと当日空港で罰金として50ユーロ徴収されてまうということだ。このミスを犯してしまっただけで、ライアンエアーを使って運賃を節約した意味はなくなってしまう。オンラインチェックインはフライトの60日前から2時間前まで、座席購入をしない場合は4日前から2時間前まで可能で、やり方については解説ビデオで確認できる。ライアンエアーを使って少しでも運賃を抑えたい多くの旅行者は、予約時に座席購入をしないだろう。その結果オンラインチェックインを忘れて50ユーロを徴収されるという、実に巧妙な設定になっているので、チェックイン期限を忘れないように細心の注意を払いたい。
オンラインチェックインを終えると、搭乗券がもらえる。ここで確認したいのが「ビザチェック」が必要かどうかだ。ライアンエアーでは他の航空会社と異なり、EU国籍以外の乗客は当日チェックインカウンターでビザの確認を行い、スタンプを押してもらう必要がある場合がある。搭乗券に「VISA CHECK」と記載されている場合は、この作業のために受託手荷物がない場合でも、フライトの40分前までにチェックインカウンターに寄らなければならない。またスタンプを押してもらうため、搭乗券の印刷も必要だ。前述の通り座席指定をしない場合は、フライト4日前からしか搭乗券をもらえないので、長期旅行の際はホテルの人に頼んで搭乗券を印刷しなければならない。もちろん印刷を忘れれば、当日空港で罰金(15ユーロ)がかかるのはもはや言うまでもないだろう。もし「VISA CHECK」の項目がなく、荷物を預ける必要もない場合は、出発20分前までに直接ゲートに向かえば良く、搭乗券はスマホでpdfを見せればOKだ。
搭乗前にもう一点注意点がある。スーツケースはサイズや重量を満たしていても、機内に持ち込めるのは最初に搭乗した90人分だけだ。この90人に入れなかった場合は搭乗直前に荷物タグを渡され、受託手荷物として機体付近で回収される。この際の料金は無料だが、スーツケースの中に貴重品やパソコンなどをいれないようにしたい。どうしても荷物を機内に持ち込みたい場合は、5ユーロを支払って優先搭乗権である「Priority Bording」を買い、先に搭乗するしかない。
※2018年1月15日以降は、事前に「Priority Bording」を購入していない全ての乗客が、機内持ち込みスーツケースを受託手荷物として回収されるようになった。機内持ち込みスーツケースは搭乗口付近で回収されるが、サイズと重量を満たしていれば料金は無料。小さいカバンは今まで通り機内に持ち込むことができる。「Priority Bording」は予約時には5ユーロ、予約後の管理画面からは6ユーロで購入できる(搭乗時刻の45分前まで可能)。
クラクフ空港での搭乗ゲートは13。今回のフライトでは手荷物の厳密なチェックはなく、搭乗時に目視で確認されただけであった。多額の罰金を課せられてしまう怖さから、そもそも手荷物ルールに違反する人が少ないのだろう。制限エリア内にはカフェ等が充実しているので、早めについて朝食を食べるなどして余裕をもって出発時刻を待ちたい。
座席前のポケットはなく、緊急時の脱出方法は前の座席にプリントされている。通常であればこれは紙に印刷され、座席の前ポケットに入れられているが、盗難・破損などのコストがかかるだけでなく足元スペースを圧迫してしまう。前の座席にプリントしてしまえばコスト削減にもなり、より乗客の目につきやすい。非常に合理的であるが、乗客はフライト中あまりリラックスできないだろう。ここまで徹底してコスト削減をしてしまう航空会社が世界には存在するということに驚いてしまう。
座席の足元スペースは、標準的なLCCのサイズであり、極端に狭いといった印象は受けなかった。筆者は身長178cmだが、普通に座った状態で、パスポートが横向きに入るぐらいの余裕があった。前回搭乗したマリンドエアの座席幅と比べると狭いが、エアアジアなどとあまり変わらない広さだ。座席の作りは非常に簡素で、プラスチック製で幼児向けの室内用アスレチックのような質感だった。
パリでの到着空港はボーヴェ空港。日本からの直行便が就航するシャルル・ド・ゴール空港や、LCCなどが多く乗り入れているオルリー空港とは異なり、ほぼライアンエアー専用空港といってもいいほど簡素な作りである。地球の歩き方などのガイドブックに載っておらず、そもそもパリの空港としてカウントされていないように思える。ボーヴェ空港からパリ市内まではバスで1時間15分ほどかかる。
パリ市内行きのバスはパリの西端の「Porte Maillot」に到着する。バスはフライトの20分後に来るようにダイヤが決まっており、乗客全員分の座席が保証されている。チケットは別途購入する必要があり、公式サイトからのオンライン予約では片道15.9ユーロ、往復29ユーロ、空港の券売機では片道17ユーロで購入でき、場合によっては航空券より高額だ。ボーヴェ空港にはFree Wifiがあるので、到着後にオンラインで予約すれば若干安く済む。筆者は到着後にオンラインで購入したが、チケットは一瞬でメールで送られてきて、乗車時にスマホで提示すれば乗車できた。
筆者は以前にもライアンエアーを利用したことがある。初めて利用した際、オンタイムに到着すると「パンパカパーン」とライアンエアーお決まりのファンファーレが鳴ることに驚き、数々の関門を突破し無事目的地に到着できたことを讃えているようであった。ここまでコスト削減を徹底されると安全性が心配になるが、ライアンエアーは設立から30年以上経つ今も一度も死亡事故を起こしたことがない。
罰金だらけの航空会社なんて使いたくないと感じるかもしれないが、搭乗率の高さが需要の高さを示している。郊外にある空港までの交通費がかかることや、利用しづらい時間帯であるなどのデメリットはあるが、それでも他の航空会社を利用するよりはるかに安く済むことが多い。ライアンエアーのCEOマイケル・オライリー氏は「3年間で運賃は13%削減されたが、利益率は2倍になっている。」と述べている。運賃を限界まで下げて搭乗率を上げ、オプション料金や罰金で儲ける姿はまさにLCCの究極形だ。様々なメディアに酷評されながらも、ライアンエアーは依然として多くの人にとってなくてはならない存在となっている。
(搭乗日:2017年11月27日)