JR高田馬場駅の早稲田口改札付近に、真っ白なポスターが掲出されている。
遠くから見ると左半分が白紙に見えるこのポスター。近づいてよく見てみると、白紙のように見えた部分にはエンボス加工された白いひらがなと点字が書かれている。3月18日が「点字ブロックの日」だったことに合わせて、駅利用者に視覚障害への理解を深めてもらうため、JR東日本が16日から掲出した。
同駅周辺に点字ブロックが敷設されたのは1972年のこと。視覚障害者を支援する東京ヘレンケラー協会や日本点字図書館などの施設が、この街に多く集まっていたことがきっかけだった。その後、国鉄にも点字ブロック設置の要望が寄せられ、翌1973年には駅構内にも整備された。今でも同駅は視覚障害者の利用が多い。
今回の点字ポスターを企画したのはJR東日本東京支社の星野宏侑さん。山手線を中心とした魅力的なまちづくりに取り組む星野さんは昨年から、「視覚障害者が多い街」という高田馬場駅周辺の特性に着目し、同駅内に出店するブックカフェに点字の本を置くなどして、視覚障害への理解につなげる取り組みを行ってきた。店内で啓発イベントを開催することなども企画していたが、新型コロナウイルスの感染拡大で断念。何か他の取り組みができないかと考えていた中で、点字ポスターの掲示を思いついたという。
ポスターにはこのような文章が点字とエンボス加工されたひらがなで書かれ、その下にJR東日本のロゴマークが刻まれている。あえて文字を真っ白にしたのは、晴眼者(視覚に障害がない人)に向けて、視覚障害について少しでも関心をもち、気持ちを理解してもらうきっかけとするためだ。
星野さんは、「点字のほか、中途障害者の方に向けて、ひらがなを実際に触って読むこと(触察)が出来るように併記しました」と説明する。星野さんによると、実は点字を読める視覚障害者は10%前後しかいないという。また、視覚障害者には全盲よりもロービジョン(弱視)の人が圧倒的に多く、そうした人にとっては触察が文章を読む助けになる。
「どんな視覚障害をお持ちの方でも、晴眼者でも、誰もが同じ内容を読めることにこだわりました」(星野さん)。ポスターに触れた視覚障害者からは、「駅に広告のポスターがあること自体、私たちは知らなかったから嬉しい」といった声が寄せられたという。
「白杖をお持ちの方がポスターに触れて、『JRという名前は知っているけれど、ロゴマークはこんな形だったんだね。電車に乗るのが楽しくなっちゃうな』と言って下さったのを聞いて、本当に涙が出るほど嬉しかったです」(星野さん)。
「弱視の方の中にはスマートフォンを活用されている方が多くいらっしゃいますし、全盲の方にもデバイスを介して音や振動で情報をお伝えできます。駅の電光掲示板や、看板、ポスター枠をそれらの技術とうまく連動できれば、視覚障害者の方はもちろん、外国人の方なども含めて、これまでお伝え出来なかった情報をお届けできるようになると考えています」(星野さん)。
公共交通機関のバリアフリー化が急がれる中、「駅の情報をすべての人に届ける」という情報バリアフリー化への取り組みも進んでいる。(写真︰JR東日本)