JR東海は2027年の品川〜名古屋間開業を目指すリニア中央新幹線の技術開発のため、山梨県の実験線で日々走行試験を繰り返している。今般、8月17日に導入された新型試験車両の改良型L0系が報道関係者に公開された。本稿では同形式の車内を従来型L0系と比較しながら紹介していく。
1997年に走行試験が始まった山梨リニア実験線では、営業用仕様として製作したL0系を2013年に導入。約3年半に渡る試験を経て、2017年に国の評価委員会から「営業線に必要な技術開発は完了」という評価を受けた。その後、一層の保守効率化や快適性向上を目指し、同形式をブラッシュアップした改良型L0系の製作を2018年に発表。今年3月に先頭車1両と中間車1両の計2両が完成した。
改良型L0系の性能面での進化は主に3つ。1つ目は、前照灯と前方カメラの位置を車両上部に変更することで、前方視認性を向上させた点。2つ目は、照明や空調などに使用する車内用電力の供給方法を、灯油で発電する方式から、電磁誘導作用で電力を発生させる方式に変更した点。3つ目は、先頭形状を変えて空気抵抗を約13%下げ、消費電力と騒音を低減させている点だ。
▲改良型L0系中間車客室
座席や内装デザインも従来型から大きく変更している。シートの幅、奥行き、床からの高さはそれぞれ2.2センチ、4センチ、14センチ拡大した47.7センチ、44.5センチ、123センチ。多層構造のクッションを採用し、ゆったりとした座り心地に改良された。頭部のヘリも大きくなり、よりプライベート感のあるバゲットシートとなっている。従来型のリクライニング機構は背面だけが動くものだったが、改良型では座面も背面に連動して動く。
座席設備では、軽量化などのため背面テーブルをインアームテーブル(肘掛け部の収納式テーブル)に変更。さらに、肘掛け部に電源用のUSB Type-Aポートを装備した。
内装デザインは先頭車と中間車で異なる。従来型L0系の天井は、N700系のようなアルミパネルの平滑形状だったのに対し、改良型L0系の先頭車は吸音効果のある膜素材を採用。中間車の天井には吸音効果の高いガラス素材の凹凸パネルを採用し、静粛性を比較検討する。
大きく変化したのは荷物の収納場所だ。頭上の荷棚を小型化し、座席の足元に収納する方式とした。飛行機のように前の座席の足元に置くのではなく、自分の座席の下に収納することが想定されているようである。車端部には大型荷物の収納スペースも設けた。
山梨リニア実験線で現在走行しているL0系は、従来型L0系に改良型L0系が組み込まれた7両編成。東京方の6号車と7号車が改良型L0系となっている。
10月19日に行われた試乗会では、実験線の東側起点(上野原市)と西側起点(笛吹市)との間42.8キロを最高時速500キロで2往復し、報道関係者が試乗した。従来型と改良型の両方で乗り心地を比較してみたところ、改良型では厚みのあるシートクッションのためか、高速走行時の小刻みな揺れが明らかに低減している感覚だった。
実験線での技術開発は国土交通省に承認されている基本計画に基づき、2022年度末で一旦終了となる予定だ。改良型L0系の走行試験も同時期まで実施されると見られるが、JR東海によると現在のところ一般向けの試乗会の予定はないという。
品川〜名古屋〜大阪間を最短67分で結ぶ計画のリニア中央新幹線。全線開業時には、大規模災害時の東海道新幹線のバイパスとしての役割も持つ。まずは品川〜名古屋間の2027年開業を目指して工事が進められているが、沿線の一部自治体との協議が難航し、予定通りの開業が危ぶまれている。協議が速やかに決着し、三大都市圏を時速500キロで結ぶ超特急が実現される日が待ち遠しい。
▲改良型L0系中間車客室
▲改良型L0系先頭車客室
▲改良型L0系の座席
▲改良型L0系の座席をリクライニングした状態
▲改良型L0系の座席背面
▲改良型L0系のインアームテーブル
▲改良型L0系のリクライニングレバー
▲改良型L0系の座席下の手荷物収納スペース
▲改良型L0系の大型荷物収納スペース(提供︰JR東海)
▲従来型L0系中間車客室
▲従来型L0系の座席
▲従来型L0系の座席をリクライニングした状態
▲従来型L0系の座席
▲従来型L0系の座席背面
▲改良型L0系に描かれているロゴマーク