この3月、京浜急行電鉄の新逗子駅が逗子・葉山駅に改名されることでも注目されている葉山エリア。ここに山口蓬春記念館という施設がある。この施設を運営しているのはJR東海生涯学習財団。なぜJR東海の関連施設が葉山の地にあるのだろうか。
山口蓬春は1893年に北海道で生まれた日本画家。フェルディナント・ホドラーやアンリ・マティスなど西欧の画家の影響を受け、西洋美術の解釈を取り入れた「新日本画」という画風を確立させた。帝国美術院美術展覧会において2年連続で特選に選ばれるなど、大正から昭和にかけて活躍。代表作は「望郷」など。1965年には文化勲章を受章した。
1971年に蓬春がこの世を去ってからは、春子夫人が蓬春の作品を管理していた。しかし、将来的に作品が散逸してしまうことを懸念した春子夫人は、知人の画廊に相談する。そこで知り合ったのが、JR東海の初代社長である須田寛氏だった。実は、須田氏の父は著名な洋画家の須田国太郎氏。父の影響を受け、本人も美術に造詣が深かった。
当時、企業の社会貢献活動の一環としてメセナ(文化・芸術活動支援)が重視されていたこともあり、JR東海はジェイアール東海生涯学習財団(現・JR東海生涯学習財団)を設立。そして、1991年、蓬春の誕生日である10月15日に、邸宅を記念館として開館させたのである。
記念館となっている邸宅は、東京美術学校(現・東京藝術大学)で同窓の建築家・吉田五十八氏の設計によるもの。蓬春は1948年に転居し、終の住処とした。現在も当時のままの状態で保存され、数々の作品や四季折々の草木が楽しめる庭とともに公開されている。
4月5日までは、新春記念展「福を求め、描き、そして愛した吉祥の美」を開催中だ。展示作品の一部を紹介する。
「武陵桃源図」は、桃林の向こうにあると言われる桃源郷の図。理想郷への憧れから、中国や日本の多くの画家が同題で描いている。
「春野」(3月10日から展示予定)は、中国・北宋の花鳥画に着想を得た作品。振り返る一羽の白兎の視線が、画面において対角線をなしている。菜の花が咲き、スギナが顔を出す陽光あふれる画面は春の到来を感じさせる。
入館料は一般600円、高校生以下は無料。JR東海エクスプレス・カードまたはEX予約専用ICカードを提示すると100円引きになる。