東京から北に約1,000キロ、北海道。雄大な大自然とその恵みは、距離に関わらず、多くの旅行者を惹きつける。昨今は格安航空会社(LCC)の台頭により、心理的距離では、すごく近くなったと感じる。北海道新幹線の開通により、鉄道でも札幌までアクセスすることが、以前に比べ容易になった。
今回の記事は、もう1つの手「フェリー」を紹介したく、雪の舞う札幌から東京に移動してみた。航空機なら約1時間30分のところを、約27時間をかける大移動だ。実際に移動して見えてきたものが多々あったので、ぜひご紹介したい。
今回利用したのは、大洗~苫小牧航路のフェリーと、東京~大洗間と苫小牧~札幌間のバスがセットになった連絡きっぷ「パシフィック・ストーリー」だ。
2019年10月からの発売額は、東京~札幌間が片道10,260円から。期間によって料金は若干変動するが、ほとんどの期間が最低価格で設定される。商船三井フェリーに電話で予約する必要があり、各種条件はあるが、空席があれば乗車船当日でも予約できる。
航空機を利用した場合、セールを利用すれば数千円からで移動できるが、直前購入や繁忙期に利用する場合は1万円を超えることもしばしば。価格面のみで見れば、十分な競争力があるのではないか。
物は試しということで、雪が舞う12月某日に札幌から東京に移動してみる。この日は、道内で吹雪が予想され、一部空港では航空便が条件付きの運航となっていた。札幌も地面には積雪はないものの、断続的に雪が舞っていた。
「パシフィック・ストーリー」では、札幌側の最初の乗車は北海道中央バスの「高速とまこまい号」。1時間ヘッドで、札幌と苫小牧市街地を結ぶ。北都交通も同様の路線を運行しており、2社合わせると30分間隔の時間帯が多い。
札幌駅直結の札幌駅バスターミナルから乗車し、苫小牧駅などを経由し苫小牧フェリーターミナルまでは約3時間の道のり。白石区の大谷地インターチェンジ(IC)から道央自動車道に入るので、札幌市内の一般道を走行する時間が長めだが、この先もどうせ長いので、特に気にならない。
札幌市内最終乗車地の大谷地駅で、窓側は全て埋まった上で通路側も半分程度埋まるような乗車率(補助席を除いて75%程度、約30人)であった。平日の高頻度高速バスとしては乗車している方だろう。北海道の都市間バスの定着を感じる。
道央自動車道で苫小牧に向かった後、苫小牧市街地を経由する。イオンモール苫小牧で乗客の4分の1程度が降車したのが印象的。各所で乗客を降ろした後、終点・苫小牧フェリーターミナルまで残った乗客は10名程度。思っていたより多い印象だった。バスは定刻より約10分遅れで到着。
苫小牧フェリーターミナルで降車すると、多くの乗客がトランクから荷物を取り出す。バスもフェリーも常識的な自身で持ち運べる荷物は無料で持ち込むことができるから、荷物が多いとフェリーで移動して安く上がるのだろうと推測する。
フェリーターミナルでは乗船まで約1時間程度の時間がある。厳しい北海道の気候ではバスが遅延するのはしばしばなので、筆者が乗車したバス便の利用が推奨される。
乗船手続きを行ったが、きっぷを渡し、電話予約時に伝えられたコードを伝えるのみであっけなく終了。注意事項の説明と、乗船のためのカードが渡される。
フェリーターミナルは新しく、多くの座席がある待合室が完備されている。売店が1つと、筆者は利用していないがレストランがある。売店はおみやげやアルコール、軽食などが豊富に取り揃えられていた。
ちなみに、フェリーターミナルの外には、徒歩圏内で時間を潰せる施設は皆無なので、フェリーターミナル内で待つのが賢明だ。
乗船が開始されると、乗客はフェリーへつながるブリッジに向かう。20名程度のツアー客の団体も合わせて約40名程度が徒歩乗船。この航路を含め、メインはトラックなどの車両航送だろうから、時期も踏まえればこの程度の乗船なのだろう。
筆者は長距離・短距離含め何回かフェリーに乗ったことがあるが、やはり新しい船に乗るのが快適なので好みだ。今回のフェリー「さんふらわあ ふらの」も、2018年の新造船だ。明るい船内と、最近のトレンドとなりつつある豊富な共用スペースは、フェリー旅を快適にしてくれる。
「パシフィック・ストーリー」の利用クラスはツーリスト。いわゆる「雑魚寝」だ。ただ、枕元にはコンセントもあり、マットレスや毛布、シーツなどを利用し快適かつ衛生的に過ごすことができる。
ただ、このツーリストのスペースはいずれも窓なし。圧迫感や閉塞感は否めないので、大きな窓のある共用スペースで多くの時間を過ごした。共用スペースもコンセントが随所に配置されている。更に共用スペースでは、航路上の殆どの区間で、陸上の基地局からの電波を拾って携帯電話の通信ができる。客室内では難しいようだった。
1日弱をすごす船内には、展望風呂が備え付けられているが、まるで船内とは思えないほどの充実した設備だった(もちろん、外洋の揺れによって嫌でも船の感覚が叩き込まれてしまうが)。特にサウナがついているのは、サウナ好きにはたまらない。
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利用には、タオルは必要だが、シャンプーなどは備え付けられている。常連の乗客には自前のシャンプーを持ち込んでいた人もいたが、旅行者には不要だろう。
深夜・早朝の時間帯を除き、すべての時間帯で利用できる。個人的には、朝風呂・朝サウナがオススメだ。人も少なく快適だった。
フェリーの醍醐味は食事だと思う。このさんふらわあにも、きれいな船内レストランがあり、夕食と翌日の朝食・昼食(軽食の位置づけ)を摂ることができる。
夕食はメインディッシュ1品を選び、ご飯・みそ汁・副菜・デザートなどは食べ放題の半ブッフェスタイル。朝食は全て食べ放題。なかなか豪勢なのだが、その分値が張る。
確かにフェリーでの食事は陸上に比べて高くなりがちなのは理解できるとはいえ、メインの客層に食事内容や料金が見合ってない感じは否めない。もちろんそれでもレストランの利用状況が良い船はあるが、残念ながら自分が乗船した便はそうではなく、乗客数に対しても少ないと感じた。
現状なら、北海道発ならご当地コンビニ「セイコーマート」で惣菜をたくさん買って、夕食は船内の無料の電子レンジで温めて食べるのが筆者のオススメだ。セイコーマートのパスタやサラダなど一部商品(北燦食品製)は苫小牧フェリーターミナル内の売店でも取り扱いがあった。
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朝食バイキングのみならレストランを利用するのも悪くないようで、確かに夕食よりも朝食のほうが利用者が多く感じた。
筆者が利用した客室「ツーリスト」は、いわゆる「雑魚寝」スタイル。ほかの航路で雑魚寝自体は経験しているが、20名程度が、小学校の教室より少し狭い、窓なしのスペースに詰め込まれているといったところ。あまり好きにはなれないというのが正直な感想だった。しかし、船内には豊富な共用スペースがあるので、寝る時以外の、1日の大半は共用スペースで過ごせば良いと思う。
船内には無料のコインロッカー(冷蔵は有料)があるので、共用スペースで過ごすとしても身軽で過ごせる。
ただ、筆者はもし次に乗船するとしたら、1ランク上の「コンフォート」を選ぶと思う。プラス約2,000円で、カプセルホテルのようなキャビンを利用できる。別の航路で同様のキャビンを利用しているが、今回の「ツーリスト」と比較すると、快適性は格上だった。
午後6時30分ころに苫小牧港から乗船後、午後2時ころに大洗港に着岸。約20時間の船旅は、新造船の最新の設備によりとても快適だったと感じた。
この後、約1時間の待ち時間があったため、近くの「めんたいパーク大洗」へ。名物の1つ、めんたいソフトを食す。「塩バニラ」フレーバーに近い何かを感じつつ、辛子明太子の辛さに少し攻撃される。「なぜアイスが辛いんだ」と混乱しながら食べたが、変わりものが好きな変わった人間なら美味しく食べられるだろうと感じた。
午後3時発の茨城交通「みと号」に乗車し、直通で東京駅日本橋口まで向かう。大洗港からは、筆者ともう1組の計3名の乗車。水戸駅や水戸市街地で乗客を拾い、窓側は全て埋まる程度の乗車率に。常磐道を経由し、東京駅到着は午後6時を回るくらい。札幌から約27時間の旅は、無事に終わった。
今回、実際に乗車船してみて感じたのは、フェリーとバスを乗り継いで東京~札幌間を移動するのは、確かに時間がかかる(約27時間)が、時間に余裕があるならば1つの選択肢になり得るということだ。
例えば、さっぽろ雪まつり(2020年は1月31日から2月11日まで)期間中は、航空券の価格が高騰するが、この「パシフィック・ストーリー」は片道10,260円で移動できる。学生の長期休暇の旅行などに使えると思う。
また、手荷物が多くなりがちな帰省シーズンも、多少料金は変動するが、1つの手になると思う。ただ、繁忙期は予約できないこともあるので要注意だ。
冬季において、雪が交通を妨げることが度々ある。東京~札幌間は、航空機での移動が主流であるから、航空機が運航できないような吹雪などの天候の場合、移動が困難になってしまうのは言うまでもないだろう。
鉄道という手もある。東京~札幌間は、北海道新幹線の開通により、鉄道の乗り継ぎ1回で移動できるようになった。ただ、所要時間は約8時間で、定期寝台列車がない今、座席での移動は厳しいのは否めない。運賃・料金も片道約3万円と値が張る。
東京~札幌間の移動で、時間に余裕があるときの1つの選択肢。「パシフィック・ストーリー」は頭の片隅においておいても良さそうだ。