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宮崎さん:セダンはコンソールの幅がやや広く、あとの3車型は幅は共通ですが、色味だとか素材感をキャラクターによって変えています。スポーツのPHEVはドライバー席側が黒、助手席側は素材感も違う少しラメっぽい、和服のようなと言われるような赤をあしらい、助手席側はその赤に包まれ、ドライバー側は運転に集中するようなカラーリングにしています。
辻さん:アシンメトリーでPHEVだけが特別感のあるものに。ブラウン内装もアシンメトリーで少し遊んでいます。
宮崎さん:クラウン全体で内装は機能的であり、なおかつ運転に集中できるよう、華やかさに走るのではなく、セダンのイルミも行灯のイメージでドライビングに集中できる。その中でPHEVについてはちょっとスポーツ心をくすぐるように。
辻さん:デザインの基調は同じなのですが、カラーリングなどで少しずつ違うものにしています。
島崎:4タイプあるので、好みでどれか選べる。僕でしたらセダンか、まだ拝見していませんがエステートが気になるのかなぁ、と。スポーツの後席は座ってみると、包まれ感があるというか。
宮崎さん:タイトではないけれど心地いい包まれ感。無茶苦茶狭い訳ではなくて。
辻さん:クロスオーバーに対してホイールベースで80mm、全長で210mm短くしてデザイン的には凝縮感を特徴にしています。ですがフロントの乗降性、視界ではクロスオーバーを踏襲しています。カップルディスタンスは1000mmから920mmになっており、その920mmも通常でいえば十分な広さだと思っていますが、スポーツという特性上、一種の凝縮感と前席にゆとりをもたせたパッケージングになっています。
島崎:そういうことですね。
辻さん:はい。それとスポーツではクォーターの外形意匠に実はキモがありまして……。
島崎:半分ぐらい仰りたいことがわかるような気がします、物凄いプレスだな、と。
辻さん:はい、抑揚です。
宮崎さん:通常はサイドビューとかフロント、リアの3クォーターでデザインを進めていきますが、一番最初にリアのスケッチ、レンダリングを描きました。さらにこのスポーツでは1分の1のモデルを作った段階で生産技術、設計など皆に見せたところ、「それなら上司と喧嘩してでも作りたい」と言ってくれて。最初に作ったモデルと一寸違わないくらいのことは今まで本当になかったですね。
島崎:技術的にも生産が大変そうですね。
辻さん:ええ、プレスの際にエキセントリックにパネルを浮かせるといった技を使い、ちょっとお金もかかったりしているのですが、それも説得してあの1分の1モデルを作るんだ、と前向きにやってくれて実現したものです。
島崎さん:お話を伺ったから言うわけではないですが、そういうことは、クルマを見ていても伝わってきますね。
宮崎さん:ああ、ありがとうございます。プレスの若いメンバーの中から夢にプレスが割れたシーンが何度も出てきたという話を聞いた時は、これを実現してほしいと言ったのは凄く無理なことだったかもしれない、と。でもそれを前向きに捉えてくれてやり切れたのは、ワンチームとしてすごく嬉しかったことでした。
島崎:夢にまで……。
辻さん:クラウンだからできたんでしょうね。
辻さん:具体的にいうと700回くらいシミュレーションをしてトライして……。言葉で700回というのは簡単ですが……。
宮崎さん:ドアの絞りなど、このままできるとは思っていなかったところも、そのままちゃんと成立させてくれました。クロスオーバーの時にも、フードの見切りを内側に絞ったお話もしましたし、セダンでもベルトラインを水平にするところなども、かなり無理してやらせていただきました。
島崎:そんなお話を伺うと、街中で涙なくしてクラウンを眺められなくなります。
宮崎さん:クラウン・シリーズ全体に及んで、生産のほうでも前向きに、良くしようよと作ってくれています。
辻さん:どこのタイミングだったか忘れましたが、「宮崎さんすいません、ここはもうちょっと緩めてください」と言いそうになったことは何度あったことか。しかしやり切るんだの思いを持って、担当者本人から聞いていたそういう話はしませんでした(笑)。
島崎:壮絶なドラマですね。
辻さん:発売直前に販売店の方々への商品説明の場で思いを伝えさせていただいた時に、販売店の方に「かっこいいね!」と言われた時には、やってよかったと泣きそうになりました。
島崎:トヨタ車の中でも、かつてこんな深い絞りとか、なかったですね。
宮崎さん:レクサスLCなどは別にして、海外のクルマならプレスの工程を何回もやれると思いますが、トヨタでは工程数も少なくした上で造形をしているので、相当にハードルが高い中で無理を言ってお願いたというのが実情でした。それと大径タイヤにしたいというところ、クルマのかっこよさはタイヤの大きさとタイヤに対する周りの凝縮感だと思うので、タイヤの出代(でしろ)とかも頑張ってやってもらいました。
辻さん:そのバランスがないと、このクルマはできなかった。
宮崎さん:せっかくボディを立体的にしてもタイヤが小さくて中に入っていては、あれっ!?ってなってしまうので。
島崎:トミカのようになってしまう。
辻さん:トミカさんでも、タイヤの径は3つくらいあるんですよね。
島崎:あ、そうですか。勉強になりました。あまり失礼なことを言っちゃいけないですね。
辻さん:僕も小さい頃から集めていました。実車の話でいうと、同じ21インチでもスポーツは235でクロスオーバーは225なので、外径が10mm大きく幅も広いタイヤが入っています。
島崎:厳密に作るとしたら、トミカもタイヤを違えてもらわないとですね。実車もスポーツはセダンと乗り較べた場合、若々しい走りが実感できますね。
辻さん:乗り心地に関しては、車高の高いSUVに対して遥かにいいと思います。プラグインにおいてはさらに……。きょうは(注:本インタビューはスポーツとセダンの試乗会当日に話を伺っています)お乗りいただいていませんが。
島崎:それにしても今回のクラウンは、クロスオーバーを皮切りに段階を経ていますね。ポンポンポンと出てきたなんて軽く言っては申し訳ないくらいで、なかなか大変でしたでしょう。
辻さん/宮崎さん:はあ、ありがとうございます。
島崎:そもそも計画どおりだったのですか? 半導体やコロナ禍の影響もあったでしょうから。
宮崎さん:半導体やコロナ禍の話が来るなんて、開発初期にはなかったので。それと1番最初はクロスオーバーだけだと思っていました。
島崎:えっ、そうだったんですか!?
宮崎さん:本当の1番最初はクロスオーバーだけを作る。そのためにSUV的なセダンを作るということで、全部を網羅したクルマを1台だけ作ろうとしていたんです。で、作り始めていたのですが、当時の社長の豊田から「セダンを作ってみないか」と話があり、僕らならただのセダンは作らないだろうと思われていたのかどうか、ニューフォーマルというセダンを作った。そこで同時進行的にスポーツとエステートが、より多様性の世の中にはセダンだけではなく、クロスオーバーやSUVもいれば、エステートも昔はあったよね……と議論があり、順番に作りました。
島崎:バリエーションの全容は最初からの計画ではなかった?
宮崎さん:初期はクロスオーパーだけで、そこからは緻密に計画しながら。
島崎:クラウンというとかつてはピックアップもあれば、ハードトップも2ドアと4ドアがあってと、いろいろありましたよね。
宮崎さん:その頃の多様性にお応えしていたクラウンに対して、セダンも大事だし……と、僕らの中で閉じていたものが開けたというか。今までクラウンをご愛顧いただいている方もそうですが、今まであまりクラウンのイメージをお持ちじゃない若い人たちにクラウンを知っていただく機会をいただいたのかな、と。そのためのスポーツであり、エステート。逆にセダンも「いいよね」と仰る方もみえたりします。
辻さん:セダンはロイヤル・ユーザーと法人の方がやはり中心ですが、今まではクラウンというと父親や叔父さんが乗られていて“自分ごと”ではなかった。でも「自分ごとができた」と若い方からも仰っていただくようになった。六本木で4車型並べて発表会をさせていただいた時にも親子で来られたり、スポーツに乗って2人でどこかに行けるなぁと仰る年配のご夫婦や、「子供が巣立ったので車中泊ができるね」とメジャーを持ってこられて足元に冷蔵庫が置けるかどうか確かめておられた方とか。
宮崎さん:仙台へ行った時に、お子様はまだおられなくて犬がいるからこのスポーツをぜひ欲しいと仰っていただいて、年齢もそれほど高くない方で今までのクラウンでは考えられないことでした。そこは狙ったところでもありましたが、ご好評いただいているのかなぁ、と。
辻さん:そういう方がスポーツ、逆に若い方がセダンを見にこられたり。最初に出したクロスオーバーもここでまた見直されてきて、非常に幅広い現象といいますか。
島崎:開発の皆さんとしてはかなりの攻めだったと思いますが、ユーザーの方がそれに反応してちゃんと付いてこられてるということですね。
宮崎さん:セダンを若い女性が買われたとか、思いも寄らない反響もあって。ユーザーを想定することはこれからは意味がないのかもしれません。
辻さん:多様性とは、まさにそういうことなんだろうと思います。
島崎:これからどんなユーザーの方がお乗りになるか、楽しみですね。
宮崎:そうなんです。街中でクロスオーバーなど見かけると、どんな人が乗っているのか職業柄つい見ちゃいます。
島崎:そうでしょうね。僕も街中で見かけると、つい「白いクラウン」とひとりで呟いています、少々古めかしくも有名だったフレーズですが……。
辻さん:今、販売店と協力して、“ザ・クラウン”という専門店も開いておりまして、今までとは違って輸入車オーナーの方にもお見えいただいています。
宮崎さん:日本発信ということで、クラウンは全車に“格子”をあしらっていますが、その格子や軒のイメージをあしらって、日本的な寛ぎをクラウンという文脈で表現しています。ぜひお越しください。
島崎:あの王冠マークの暖簾をくぐってみたいと思います。ありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2024年2月時点の情報で制作しています。