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その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第66回は2023年11月に発売されたスズキの新型スペーシア/スペーシアカスタムです。人気のスーパーハイトワゴンの中でも個性が光る新型の内外装デザインについて、スズキ株式会社 商品・原価企画本部 四輪デザイン部 四輪インテリア課 係長の小木曽 貴文(おぎそ・たかふみ)さん、商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループ チームリーダーの佐藤 優花(さとう・ゆか)さん、商品企画部 製品・用品企画グループの小杉 好香(こすぎ・よしか)さんの3名に、チーフエンジニアの鈴木 猛介(すずき・たけゆき)さんも交えてお話を伺いました。

先代がスーツケースだったから今回はコンテナにしたのではない

写真:編集部

島崎:新型スペーシアのデザイン開発のポイントはどこですか?

小木曽さん:開発当初から、楽しい雰囲気とともに、室内空間の過ごし方を先代よりも改善し、収納、使い勝手を向上させていきたいという要望がチーフエンジニアや企画のほうからありました。

島崎:なるほど。

小木曽さん:そこでインパネでいいますと、まずレイアウトを検討したんです。もっとも大きい巨大な収納を達成しつつ、とにかく収納を増やしましょう、と。さらにスマホを充電するためのUSBタイプA、タイプCを付け、シートヒータースイッチも先代は足元に近い低い位置にありましたが、とにかく上に上げた。新しく電動パーキングスイッチも付きました。それらのレイアウトを決めてからスタイリングを進めました。ストレスフリーで使いやすい空間にしたのが1番のポイントです。

写真:編集部



島崎:一見すると機能主義的なデザインに感じるのは、そういう理由からなんですね。

小木曽さん:まず機能を達成するところは確実に。それと実際に座席に座ってパッと前を見た時に目線に入りやすい高い位置にこだわり、ただし造形的には丸みのあるやわらかな断面を使い、ドアトリムは奥行き方向に抑揚のある形にし、質感を表現しつつ、目に入りやすい色を使うなどしています。一方で下側は従来型スペーシアと同等の引き出し式の収納を設けるなどして使い勝手、機能をしっかりと作り込みました。それとドアトリムの下のほうにエクステリア同様のビード形状を入れています。

島崎:そのエクステリアのビードですが、断面形状で見ると先代は上下方向で対称の柔らかな弧を描いた、ある種IDチックだったのに対して、新型は上側に折れ線を入れて影をつけて、下方向にそのままなだらかにボディパネル面に深さを戻して繋げていく形状にしたのですね。

小木曽さん:そうですね。先代はもともとスーツケースをモチーフにして、それ自体がプロダクトチックでした。今回はより大きなコンテナをモチーフにしたので、コンテナのもっている頑丈さを表現するための断面になっています。

佐藤さん:先代がスーツケースだったから今回はコンテナにしたというのではなく、“Life Pro”というデザイン全体で考えたコンセプトを元にスタイリングデザイナーが描いた絵の中のひとつがコンテナでした。何となく先代のスーツケースからの繋がりもあるので、キープコンセプトですか?とよく聞かれるのですが……。

島崎:僕もお聞きしました……。

佐藤さん:より進化させて、使い勝手のいいストレスフリーなモノにしようと狙って作っていき、そうなりました。

島崎:ゼロハリバートンがリモワに変わったというより、より大きくということですね。

佐藤さん:今まではスーツケースにいろいろ詰め込んで持ち出せるお出かけ感、今回はもっと大きくいろいろなモノを入れてガンガン使えるようなということで、ドンと大きなコンテナをコンセプトにしました。

島崎:ユーザーのいろいろな使い方に応えるため……ということですね。

小杉さん:フロントだけでなく後席の快適性+利便性もかなり上げていますので、そのあたりの思いもデザイナーがコンセプトに落とし込んでくれました。広いのが当たり前になっているので、そこで何ができるか?が他社さんとの差別化になってきます。

新規部品は全体の1/4、本当に新しくしたいところを変えた

島崎:話が飛びますが、Dピラーのアクセントストライプは可愛らしいですね。

佐藤さん:ありがとうございます。スズキ初トライのアイテムでもあり、2トーンの時にルーフとボディを繋ぐ部品がガチャンとハマっているようなイメージでこのような処理を施しました。触ると凹凸感のあるヘアライン調のシボがデカールに入っていて、光り方もちょっとニブく、質感にこだわったものです。ボディカラーではミモザイエローパールメタリック、トーニーブラウンメタリックが今回の新色です。

島崎:こういったチャーミングな色もどんどん乗って欲しいですよね。

小杉さん:色でも個性を楽しんでもらえたらいいなぁと思いますね。

(ここでチーフエンジニアの鈴木さんにご同席いただく)

島崎:……と、皆さんにお話は十分伺えていますので、鈴木さんにはもう、ありがとうございましたということで……と、そうもいきませんので、アルトの時に続いてまたお話を聞かせてください。そういえばアルトの時に、その前はスペーシアをご担当なさってたと仰っていましたね。

鈴木さん:そうですね。スペーシアはもう10年ぐらい関わっている状態で、実はアルトの時も裏ではスペースアが動いていました(笑)。

島崎:働きすぎじゃありませんか?

鈴木:みんなが優秀なので僕は席に座ってればいいんです(笑)。

島崎:羨ましいです(笑)。きょうはまだ別の取材のテーブルへの移動もおありでしょうからサクサク伺いますが、新型スペーシアは先代に対してキャリーオーバーというと、部品でいうとどれくらいになるのですか?


鈴木さん:部品点数的には1/4が新規、3/4がハスラー、ワゴンRスマイルなどと共通、そんなイメージです。

島崎:そうですか。3/4は鈴木さんの頭の中にデータがある部品を開発の皆さんにコレを使うように……と押し付けて……。

鈴木さん:あははは。デザインのところで言うと、当然新しいほうがいいという話もあるのですが、実はスライドドアのインナートリムは先代とまったく共通。とはいえそれを前提に他に部品のアワセやエクステリアデザインなど逆に制約も出てきます。

島崎:ガラスは? 共通のニオイもしたのですが?

鈴木さん:怪しいニオイがするかもしれませんが(笑)、一緒ではないです。フロントウインドゥシールドも、外周の位置は合わせていますがガラスの作り方自体も違います。取り付けは共通でも意匠が変わっていたり。何らかの工夫をして新しい部品に投資するという考え方です。

島崎:そういうことですか。

鈴木:インパネは今回、ものすごく質感が高いものにできましたが、これもみんなで吟味した結果です。

島崎:皆さん、そういうところで汗と涙を流されたんですね。

小木曽さん:どうしようか……と。

鈴木さん:今は笑えるけど(笑)。

島崎:あっ。

鈴木さん:部品なのか設計なのか取り付けなのか、とにかくどこかを共通にしていくことで、本当に新しくしたいところを変えました。

島崎:次のインタビューでは、変えた部品、変えなかった部品を手短にお答えいただけるようにチェックシートを用意してきますね。ルーフは新旧で共通ですか?

鈴木さん:まったく別物です。どこかを共通にしてあとは別物というのは大変です。

小木曽さん:そうですね。変えるなら全部変えるほうが自由度があってデザイン的には楽です。どこかが共通となると、さあどうしよう。ここは一緒だけれど見た目は変わったように見せないと……。

スタイリングはかなり自由にやらせてもらった

島崎:この際、あそこはどんでもなく苦労した……と、このインタビューを口実に言いたいことがあればお話になっては?

小木曽さん:でもだいぶ好き勝手はやらせていただいてます。本当に守らなければならない機能性やストレスフリーなところは最小にしっかり決めて、それ以外のスタイリングはかなり自由にやらせてもらってます。

島崎:ところで先代のアタッシェケースから今回はコンテナというコンセプトは、鈴木さんがアルトを見ていらっしゃる間に皆さんがまとめられて、それを「よし、それでいこう」と決めたものだったのですか?

鈴木さん:そ、そうですね。“みんなが考えられるような言葉で伝えられているかどうか”を僕は仕事の自己評価にしているのですが……。

島崎:鈴木さんの仕事術ですね。

鈴木さん:今回いろいろ考えた中でLife Proやコンテナと出てきたのは、僕的には「ちゃんと伝えたかったことが伝わって、考えてもらっている」と思いました。企画部署の中でちゃんと伝えることができて、その分アウトプットがすごくよかった。返ってきたものがすごく大きかった。

島崎:感動的なお話です。

佐藤さん:先代のスーツケースもインパクトがあり、魅力的でした。が、それを超えなさいと。カラーにしても先代のオフブルーメタリックが凄くよかったので、それを超える色にしなければならなかった。今でも他のクルマに展開している人気色で、新型でもラインアップしていますが、さらに新色を入れるということでウーンと大変でした。

マルチに使っていただけることが軽自動車であり、スペーシア

写真:編集部

島崎:鈴木さんがアルトの方に行っておられる間に、皆さん、しっかりと進めていらしたのですね。ところでホンダN-BOXも新型が登場してきましたが、あのクルマが存在することによるプレッシャーなどは?

鈴木さん:我々はチャレンジャーと言われています。3番4番争いから抜け出しようやく2番目争いとしてお客様に認知されている。一気に1番を取りに行けというより、魅力あるクルマを作ることが大事で、あの商品がこうだからこういうクルマを出さなければいけないというのではなく、鈴木社長からも価値、内容、魅力といったところは言われても、絶対に倒せ!といったことはなかったです。まあ、倒せたらいいですけど。

島崎:そうですか。では改めて鈴木さんから、新型スペーシアの1番の魅力というとどこになるのでしょう?

鈴木さん:まあ全部が1番だと思っていますが、ひと目でスペーシアと判るエクステリアデザインはまず1番に見ていただきたいです。それと室内のデザイン、機能、レイアウトも考え抜いて作っており、お客様がそこで移動したり休憩していただく時に、リビングとして過ごしやすくなるように考えています。魅力は1個にはならないです(笑)。

島崎:後席のマルチユースフラップは目がいきますね。小杉さんからもお話があったのですが、今回は実際にユーザーさんのクルマに同乗しながらリサーチした中から生まれたアイデアだったそうですが。

オットマンモード(写真はもっともリクライニングさせた状態)

座面の短さを補うレッグリラックスモードは長距離ドライブの味方

後席に置いた荷物をサポートする荷物ストッパーモード

鈴木さん:たとえば自分が乗る時に荷物は運転席側のスライドドアを開けて載せる。その時にシートの上だと落ちてしまうから、本当は置きたくないけれど諦めて床に置いていた。我々も“物落ち”は仕方ないと思っていたところ、試行錯誤の結果、レッグサポートにもなるあの形をご提案しました。物落ちの対策だけでしたら、もっと簡単に作れたと思います。

島崎:機能がひとつじゃないところがスズキらしいですね。

鈴木さん:そのへんは、マルチに使っていただけることが軽自動車であり、スペーシアなのかなと。

ヤンチャだった方も落ち着き方向になっている

写真:編集部

島崎:ところでスペーシアとスペーシアカスタムの足回りの設定は共通ですか?

鈴木さん:はい。タイヤサイズ違いだけでバネ、ダンパーは一緒です。そこは共通で成り立つ設計で作っています。

島崎:乗り味に違いを感じるのはタイヤの違いによるものなんですね。

鈴木さん:はい。今回は予防安全のシステムなどいろいろ入っていて制御も多く、適合もある程度まとめることで開発をよりスムーズに深くできるので、サスペンションは揃えました。

島崎:カスタムは従来でいうとスポーティなイメージでしたよね。

鈴木さん:実は今回、カスタムはスポーティではない味付けをいろいろなところにしています。デザインについても企画側からもあまりスポーティなものに色気を出していないんです。

島崎:スポーティではないというと、どういう方向ですか?

小杉さん:上質さということを最初の頃からやってきました。デザインにしても迫力をまったくなくしたいということではないのですが、ダウンサイザーの方もお乗りになるようになってきて、今までヤンチャだった方も落ち着き方向になっているのがトレンドですので、デザインもそういう方向で作り込んできました。

島崎:そういう中でスペーシアカスタムはまだ必要だったのですか?

鈴木さん:我々の気持ちとしては、スペーシアカスタムを軽自動車の中でも質の高いものとしての表現を入れていますので、支持していただけると、我々の考えていること、やっていることが評価されるんじゃないかなと思っていますので、売れるといいなと。まあ1番は両方売れることです(笑)。

島崎:今後のバリエーション展開のお話ですが……。

鈴木さん:いろいろ考えますよ!

島崎:楽しみにしています。そういえばカタログは、今回からスペーシアとスペーシアカスタムで1冊になったのですね。

鈴木さん:販売店からはまとめて欲しいという声が以前からありました。ただカタログをラックに並べる時にスペーシアしか見えなくなるので、裏をスペーシアカスタムにして、両方を見せて並べられるようにしました。

島崎:PDFをネットで一括ダウンロードせよといわれても、家庭用プリンターではインクカートリッジが大容量タイプでもスグ空になって困るので、たとえ1冊になっても紙のカタログがまだあるのは助かります。いろいろなお話をどうもありがとうございました。


(特記以外の写真:島崎七生人)

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※記事の内容は2023年12月時点の情報で制作しています。

情報提供元: カルモマガジン
記事名:「 【新型スズキ「スペーシア」】「“一番”を取りにいくより、魅力あるクルマを作ることが大事」〜開発者インタビュー・デザイン編