その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第56回はラージミニバンの王者「トヨタアルファード/ヴェルファイア」です。なぜ旧型アルファードがあれほど売れたのか、消えると思われていたヴェルファイアはどうして存続したのか。気になるその開発背景について、トヨタ自動車株式会 CV Company CV製品企画 ZH2主査の菅間 隆博(すがま・たかひろ)さんと、トヨタ車体株式会社 製品企画室 ZH 主担当員の水本 大路(みずもと・おうじ)さんにお話を伺いました。

パッと見の高級感、分かりやすい豪華さ

島崎:きょうはこの週の試乗会の最終日ということで、部外者ですがお疲れさまでした。

菅間さん:お気遣いありがとうございます(笑)。

島崎:きょうまでのヨソの取材で言い足りないお話もまだおありかと思います。どうぞ肩肘張らず何なりとお聞かせいただければと思いますので、よろしくお願いします。

菅間さん:どうぞどうぞ、喋れるところまでは何でも話します(笑)。

島崎:恐れ入ります。早速ですが、先代の2022年1〜12月の国産乗用車販売台数のランキングを見ていたら、アルファードが何と10位に入っていて、僕らは驚いていました。今回のモデルチェンジの直前であり、普通に言えば末期モデルなのに……と。率直に、なんであれほど売れていたのでしょう?

菅間さん:なんでか、ですかぁ……。私自身はやっぱり大空間が大きな武器なのと、国内では大きいのですが大き過ぎないサイズ感。全幅1850mmで全長も5mを切っています。このサイズ感が、国内の駐車場などでギリギリ収まるサイズ。その上で後席も広く使え、運転しても取り回しも悪くない。適度なサイズの中でもバランス、そこが受けていると思います。

島崎:なるほど。

菅間さん:それとパッと見たときに高級感があって、所有をするという上で欲しいと思わせられる分かりやすい豪華さもある。

島崎:わかりやすい豪華さ。実にわかりやすいご説明ですが、これまでの反響の大きさは、開発の皆さんにとって、考えていらしたとおりだったのですか?それとも想定を遥かに上回ってのことでしたか?

新型のポイントは大空間+走り

新型のエグゼクティブラウンジのインテリア

 

菅間さん:やはり3代目から出した“エグゼクティブラウンジ”が、政治家の方や芸能人の方に使っていただいたことで、憧れというか、フォーマルな場でも使われていたことで、いいクルマだ、使いやすいクルマだと、ブランドとしての認知度が高まったとは思っています。

島崎:東京都知事の公用車だったり、ホテルの送迎でも使われていたりしてきましたからね。

菅間さん:もちろんファミリーとしても使えますし、ショーファーとしても使える。そういう商品としての幅広い魅力も受けた理由だと思います。

島崎:そもそもショーファーとしての用途は、アルファード/ヴェルファイアでは最初から想定されていたのですか?

菅間さん:3代目は想定していました。そこを狙って登場させたのがエグゼクティブラウンジでした。

島崎:そういうことですね。

菅間さん:実は2代目の最後のマイナーチェンジで豪華版のシートの仕様を作りました。その時にそういう需要があるんじゃないか、セダンではない大空間での送迎が徐々に増えているということはわかっていました。なので3代目のコンセプトを“大空間・高級サルーン”とし、それを体現するグレードとしてエグゼクティブラウンジを設定し、そこがイメージを牽引しながら、ファミリー層のグレードもそれに準じた高級感のある装備だとかを設定しました。そうした背景が今回の新型に繋がっています。

島崎:世代を追うごとに定着してきたものなのですね。

菅間さん:ええ。今回の新型は大空間、パッと見たときの高級感が魅力です。ただし正直なところ、とくに走りの性能の部分では、世界のフラッグシップセダンと比べてどうか?というと、従来は一歩譲るところがあった。

島崎:物理的にミニバンですからね。

菅間さん:なので大空間に一定の性能が付与されれば、本当に魅力のある商品にもっとなるんじゃないか。今回の4代目のポイントはそこにあります。

消える寸前だったヴェルファイアに必要なのは「いつまでも若くいたい」

写真上がヴェルファイア、下がアルファード

島崎:現状でライバル車不在の感がありますが、そこはどうお考えですか?

菅間さん:一緒に切磋琢磨していきたいという思いはあります。

島崎:現状ではつまらないとは思いませんか?

菅間さん:そこは僕らからは何も言えないですけれど……。

水本さん:ぜひ入ってきていただきたい。ボリュームのある層ですし、切磋琢磨しながら我々も進化していけたらいいなあという思いはあります。

島崎:走りの面で、トヨタの匠でいらっしゃる大阪晃弘さんに伺うと「今回のクルマはアルファードとヴェルファイアでかなり味付けを変えている」というお話ですが、新型ではそこも売りですか?

菅間さん:売りというか、アルファードとヴェルファイアですが、ヴェルファイアの台数が下がってきていたこともあり、実は当初はアルファード統一で進めていました。けれどあるタイミングで現会長の豊田章男から「ヴェルファイアも大切にしたほうがいいんじゃないか」とアドバイスもありまして。

島崎:あ、そうでしたか。

菅間さん:そこでヴェルファイアのお客様はどういうお客様なのか改めてもう1度、見つめ直しました。

島崎:ヴェルファイア・ファンが聞いたら涙を流して喜びそうですね。

菅間さん:そうした時に、今まではただ顔を分けることが主目的だった。が、ヴェルファイアのお客様はyoung at heartのいつまでも若くいたい……そういう方で、どちらかというとご自分でも運転もするし、ちょっとカッコよくいたいと思われていることが再認識できました。そこでそういう方に響く専用のパワーユニットとか、足回りだとか、気持ちいい操舵感が必要だろうということで、結果として今回は差を付けました。

操縦安定性が気持ちいいヴェルファイア、乗り心地がいいアルファード

ヴェルファイアオーナーに向けてインテリアカラーもアルファードとは異なる設定

島崎:試乗してみても、その差のつけかたも本当にわかりやすいですね。「自分はコチラだ」と選びやすい、僕らも試乗レポートが非常に書きやすい……。

菅間さん:あははは。あの、GA-Kプラットフォームになって、リヤのVブレースだとかストレートロッカーだとか、環状骨格構造だとか、いろいろなアイテムがあって、基本性能が上がった。そこでアルファードの乗り心地がベースにあって、ヴェルファイアはブレースを追加して気持ちいい走りにと、ベースの性能が上がったからこそいろいろな振り代(しろ)、ポテンシャルが持てたことはプラットフォームを変えた1番の大きなポイントですね。

島崎:カタチにこだわる島崎とはいえ、今までのように、もうグリルのデザインの違いで原稿の大半を費やすようなことはしなくて済みそうです。ダンパーも専用になっているのですね。

菅間さん:エグゼクティブラウンジで言うと、ヴェルファイアの19インチ、ヴェルファイアの17インチ、アルファードの19インチ、アルファードの17インチの順で操縦安定性が気持ちいい→乗り心地がいい……そんなイメージ。とはいえヴェルファイアの19インチも走りが気持ちいいけれど決して乗り心地が悪いわけはなく、後席も適度に硬いながらも快適な乗り心地が保っている。片やアルファードの17インチは後席の乗り心地がすごくよく、トータルバランスのいい運転もできます。

島崎:菅間さんがセールスマンに見えてきました。

「これ、ちょっと違うよね」と言っていただける世界観

菅間さん:実際にはそこに2.4ℓターボのヴェルファイアの19インチがさらにその上の位置付けです。これの4駆となると操縦安定性、気持ちよさで作ってきました。他方でアルファードの17インチのハイブリッドE-Fourは後席の乗り心地を軸として作り込みました。そこからいろいろな仕様ごとに適正チューニングをかけています。

島崎:試乗した印象でも、アルファードは穏やかでゆったりとした走りっぷり、他方でヴェルファイアは基本的にフラットライドが印象的でした。

水本さん:19インチは入力が伝わりやすいのは確かですが、最初のアタリのカドは取れていて、収まりもいいので、ショックは感じることはあっても不快ではないと思っています。

島崎:タイヤの指定空気圧も19インチは260kPa、17インチは230kPaとそれぞれ違っているのですね。きょうの試乗車リストの中では、僕は“ヴェルファイアの2.4ℓターボのFFがベスト”とメモしています。

試乗車リストに記された島崎さんのメモ

菅間さん:運転されて? ああ、先ほどお話したハイブリッド系のさらに上と申し上げたやつですね。

水本さん:エンジンユニットもヴェルファイア専用で、運転されて非常に楽しい仕様だと思います。

島崎:僕は決してサーキットでタイムを刻むタイプではないですが、一般公道を走らせて、ドイツ車的なフラット感や挙動、入力に対するダンピング、操舵感があって、セダンのような安心感がこのミニバンで味わえるのかぁ……と、声を上げてかなり感動していました。きょうは1人で試乗していましたけれど。

水本さん:仰られるとおり、欧州車的なフラットで入力は入ってもちゃんと抑える。ずっと乗っていてもストレス、不快なく運転できるヴェルファイアの目指しているところを体感していただけたかな、と。一般のお客様に乗っていただいても「これ、ちょっと違うよね」と言っていただける世界観をご提供したかったので、このヴェルファイアとアルファードと「どちらがいいかな?」と選んでいただけるのも楽しみのひとつかなと考えております。

島崎:一般のユーザーの方もそのあたりの差はわかる?

菅間さん:わかると思います。今回のヴェルファイアとアルファードの差は十分わかると思いますし、ずっと乗り継いでいただいているお客様もかなり多いのですが、伸び代は十分わかっていただけるはずです。

後編「ヴェルファイアが上でアルファードが下ということではない」に続きます

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2023年8月時点の情報で制作しています。

情報提供元: カルモマガジン
記事名:「 新型【トヨタ アルファード/ヴェルファイア】開発者が語る「アルファードが売れた理由、ヴェルファイアが消えなかった理由」