【甲子園】仙台育英・佐々木義恭主将、歯をくいしばり乗り越えた「仲間の笑顔」は一生の宝物
<全国高校野球選手権:沖縄尚学5-3仙台育英>◇17日◇3回戦
仙台育英(宮城)の夏が終わった。沖縄尚学との好左腕同士の対決は、延長11回タイブレークの熱戦の末、3-5で敗れた。23年夏以来、遠ざかっていた甲子園。今夏の宮城大会からスタメンを外れた佐々木義恭(よしたか)主将(3年)は、悔しさを抱えながらも「仲間の笑顔のために」とチームを率いてきた。この日は途中出場し1打数無安打1三振。涙を流しながら、泣き崩れるチームメートに最後まで寄り添った。4季ぶりの甲子園で2勝を挙げた仲間の笑顔を胸に刻み、全国制覇の夢は後輩たちに託した。
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喜ぶ仲間の笑顔が大好きだった。だからこそ、なんとしても決めたかった。3-3の9回1死一、二塁。一打サヨナラの場面で、佐々木のバットは空を切った。「最後の夏も結果がでない」。唇をかんだ。そのまま延長戦に突入し、11回で力尽きた。試合後、応援席へのあいさつ。そこで勝利の喜びをわかち合うのが、最高の瞬間だった。「高校野球をやっている中で一番の幸せでした」。
なぜ甲子園に行きたいのか-。6月、話し合った。「夢の舞台でプレーしたい」「活躍したい」。そんな答えが飛び交う中、佐々木だけが違った。「仲間の喜ぶ顔を見たい」。その思いは、スタメンを外れても変わらなかった。みんなの笑顔のために、できることを必死にこなした。相手の投球や配球の傾向、ポジショニングの調整。ベンチでも一緒に戦っていた。須江航監督(42)から「プレーヤーでありながら、注意喚起をしてくれる。監督1人だけの指示では通り切らないので、大きな存在です」と感謝されるほど、頼りになる主将だった。
中学までは「お山の大将」だった。母圭子さんは「キャプテンをやる」と打ち明けられた時、初めて息子の考えに反対した。「性格的にもそうですし、育英のキャプテンは相当覚悟がいると思ったので」。それでも熱意に押し切られた。主将に立候補し、4季ぶりの甲子園出場に導いた息子の成長ぶりを、甲子園のアルプス席から見届けた。かつての「お山の大将」の姿は、もうなかった。「最初で最後の甲子園に連れてきてくれたことが全てです。あの子がやってきたことは間違いではなかったんだと思います」。圭子さんの目からも涙があふれていた。
強豪校の主将としてのプレッシャーと常に闘った。秋春の宮城王者も夏に勝てる保証はない。その恐怖に打ち勝ち、みんなで止まっていた時計の針を動かした。夢の続きは後輩に託し、佐々木は目に涙をためて言った。「最後に甲子園で仲間の喜ぶ姿を見ることができて、本当に充実した高校野球でした」。何度も歯をくいしばり、乗り越えた先にあった仲間の笑顔。一生の宝物だ。【木村有優】
○…対戦相手が決まった数時間後には、宿舎のホワイトボードに相手のデータがそろっていた。メンバー外となってから分析を担当してきた広瀬敦晟(としあき)捕手(3年)は「実力差がない甲子園では、相手を知ることが大事だと思うので、重要な役割を任せてもらいました」。地方大会からの動画を全部視聴。選手1人1人を調べ、性格までも分析する。「ベンチに入れず悔しい思いもあります。でもこのチームで、このユニホームで日本一になるために、最後まで違う形で戦いました」。まさに全員で戦った甲子園だった。