【甲子園】広陵前代未聞の出場辞退 暴力事案「厳重注意」も誹謗中傷収まらず「人命最優先」で決断
春夏通じて53度の甲子園出場を誇る広陵(広島)が10日、第107回全国高校野球選手権大会(甲子園)の2回戦以降の出場辞退を発表した。大会直前に、1月に起きた野球部内の暴力事案がSNS上で公にされ、新たな事案もあったと広まった。同校への誹謗(ひぼう)中傷にまで発展。堀正和校長がこの日、大会本部に出場辞退を申し入れ、了承された。代表校が甲子園期間中に不祥事によって出場を辞退するのは高校野球史上初。中井哲之監督(63)は、同校による調査期間中は指導から外れる。
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激震が走った。全国屈指の名門、広陵が負けずして甲子園を去った。午後1時過ぎ。堀校長は兵庫・西宮市内で行われた会見に出席。テレビカメラ5台、計50人以上の報道陣を前に、冒頭「先ほど大会本部に出場辞退させていただくことを申し入れ、ご了承をいただきました」と悲痛な表情で発表した。続けて「各方面のみなさまに多大なご迷惑、ご心配をおかけしましたこと、深くおわび申し上げます」と25秒間、無数のシャッター音が響く中、深々と頭を下げた。
発端は1月だった。同22日に部員間で発生した暴力事案を加害者が申告。日本高野連に報告がいき、3月5日の審議委員会で野球部に厳重注意、当該部員には1カ月間の公式戦出場禁止が下されていた。同事案が今大会開幕直前、SNS上で公となり、大会本部は8月5日、同校が既に厳重注意されたことを公表。同校は6日に謝罪文を出し、大会本部は「出場の判断に変更はない」と断言した。
ただ、SNS上では、新たな暴力事案もあったとされた。学校側は「事実確認はできませんでした」とし、6月に第三者委員会を設置したと説明。だが、事態は収まらず、野球部寮に「爆破予告」、同校生徒が登下校の際に誹謗(ひぼう)中傷を受けるまでに発展した。重く受け止めた堀校長は「高校野球の名誉、信頼を大きくなくすことになる。校長として生徒、教職員、地域の方々の人命を守ることは最優先にすること」と判断。9日に同校の理事会を開き、全会一致で出場辞退を決定。選手たちには同日に部長を通じて伝えられた。この日の朝9時半ごろに宿舎を出発し、失意の中、広島に戻った。
中井監督の進退については、堀校長は「監督とはそういう話はまだ一切しておりません」とした上で、「今後抜本的に運営体制を調査していきます。調査期間中は指導から外れてもらいます」。同監督も了承済みという。さらに「今後2度とこうした事案が起きないように再発防止に全力を注いでまいります」と約束した。
数々の名シーンを演じ、多くのプロ野球選手を輩出してきた伝統校が、あまりにもあっけない夏の幕切れとなった。
<広陵の暴力事案経過>
▼1月22日 硬式野球部の部員間で暴力を伴う不適切な行動が発生
▼3月5日 報告を受けた日本高野連は審議委員会を開き、野球部には「厳重注意」処分、当該部員には「1カ月間の公式戦出場禁止」が下された。被害生徒は3月末で転校した
▼7月下旬~8月5日 SNS上で被害を受けた生徒の保護者のものとされる投稿から騒動が拡大
▼8月5日 甲子園大会本部は同校が既に厳重注意されたことを公表
▼6日 同校が謝罪文を出し、大会本部は「全国高校野球選手権大会出場の判断に変更はない」と発表
▼7日 旭川志峯との1回戦に3-1で勝利
▼8日 同校がHPで現状報告を行い、6月に第三者委員会を設置して「調査中」と発表
▼10日 同校が大会辞退