この日をどれだけ待ち焦がれたことか。2年前に死去したアルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナさんの後継者と呼ばれ、常に比較されてきたメッシ。小柄な体に背負った期待と重圧は計り知れない。苦悩を乗り越え、ついに夢をかなえた。 どん底からの始まりだった。1次リーグ初戦。格下サウジアラビアにまさかの逆転負け。多くの選手がショックを隠せずに会場を去る中、主将のメッシは前を向いて母国のファンに呼び掛けた。「自分たちの実力を分かっている。僕らを信じてほしい」 メキシコとの第2戦。左足を振り抜き、ゴール右隅へ殊勲の先制弾。この一撃でチームは目覚めた。エースは準決勝まで全6戦にフル出場し、ともに大会トップに並ぶ5得点3アシスト。前回優勝した1986年大会のマラドーナさんのように、ゴールでも存在感でもチームをけん引した。 2014年大会は決勝でドイツに延長の末に惜敗。05年の初招集以来、A代表で無冠が続き、批判にさらされた。16年には代表引退を表明したこともあった。転機は昨年の南米選手権。主要大会初タイトルを獲得して涙を流し、苦しみから解放された。今大会は勝利後に無邪気に笑い、サポーターと一緒に応援歌を楽しむ姿があった。 自身5度目で、最後と位置付けたW杯。母国へ36年ぶりに栄冠をもたらし、有終の美を飾った。「ディエゴは天国から僕らを後押ししてくれている」。そう感謝していた「神の子」は今、新たな英雄となった。 (ルサイル時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕PK戦でフランスに勝利し、喜ぶアルゼンチンのメッシ(左端)ら=18日、ルサイル 〔写真説明〕延長後半、ゴールを決めたアルゼンチンのメッシ(右)=18日、ルサイル 〔写真説明〕前半、先制のPKを決めるアルゼンチンのメッシ=18日、ルサイル(ロイター時事)