メダルの望みを託した最終6投目のやりは、狙いより手前に刺さったように見えた。北口榛花(JAL)は「駄目だったか」。7月の陸上世界選手権(米オレゴン州)女子やり投げ決勝。感覚とは裏腹に、この一投が投てき種目で日本女子初の表彰台につながった。 6月に最高峰ダイヤモンドリーグ(DL)で全種目を通じ日本勢初の優勝。勢いを付けてオレゴン入りしたが、助走が1メートルもずれる不調に陥った。本来の助走を取り戻したのは予選前日だった。 助走スピードが出やすい競技場と判断し、スパイクのピンを短くして左右で長さを変えた。セケラック・コーチから向かい風が吹きやすい傾向を聞き、やりを低めに投げるよう意識した。予選は全体トップで一発クリア。入念な準備が実った。 2日後の決勝。1投目に62メートル07を出すも、2投目は速めた助走に体がついていかなかった。記録を伸ばせず5投目を終えて5位。ここで、6投目によく記録を伸ばした高校時代の勝負強さを思い出した。63メートル27で2位に浮上し、カラ・ウィンガー(米国)に逆転されたが銅は確保。4位だった東京五輪女王の劉詩穎(中国)と2センチ、5位とは5センチの僅差だった。 コーチが考える理想の動きを「自動的に出るようにしなきゃいけない」と繰り返して体にすり込ませ、トレーニングで地力も上げた。故障なく積んできた練習が自信につながり、結果に表れた。 DL成績上位者で争うファイナルでも3位に入った。さらに今季の自己最終戦では自身の日本記録まで32センチに迫る65メートル68。好記録を安定して出してきたが、「記録と自分の感覚が明らかに一致していない。思い通りの投てきがどうやったらできるかも、あまり分かっていない」。24歳には、まだ成長の余地がある。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕陸上の世界選手権女子やり投げで3位となり、表彰式後に銅メダルを手に笑顔を見せる北口榛花=7月22日、米オレゴン州ユージン(代表撮影)